病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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夏の太陽は容赦がなかった。
石造りの回廊すら熱を帯び、衛士たちは額に汗を浮かべていた。
王都では祭の準備が始まっているはずだったが――空気は重い。

それは、戦がもたらす静かな狂気。
民衆は不安を紛らわすために踊り、笑い、働く。
しかし宮廷に流れる噂は、それを覆い隠すように増えていた。

「第一王子の帰還は、まだか」

「王は判断を迫られている。早急に“次”を定めるべきだ、と……」

「……弟君はまだ十三でしょう?」

「だが、姫君の後ろには宰相家がついている」

エドガーの報告書には、そうしたささやきが増えはじめていることが記されていた。
カミラの情報網も同様の兆しを示している。
貴族たちは、“王の座”をめぐって、静かに地ならしを始めていた。

「火薬に火がつく前に、潰しておくべきだ」

エドガーはそう進言した。
けれど、リリーナは首を振る。

「火薬を抜くこともできるのよ。……“私が動けば、すぐ王位を望んでいると見られる”
――ユリアンに疑念が向かうだけ。
今は、下から支えるだけでいいわ」

言いながらも、リリーナの指は無意識に胸元のアクアマリンに触れていた。
あの蒼い輝きは、いまや彼女の精神の楔だった。
弟を守る。未来を繋ぐ。そのためには――自分がどう思われても構わない。

「代わりに“揺らぎ”を広げるわ。
王位を欲しがっているのは、私たちではないと示す。
もっと欲を滲ませている者たちがいるでしょう?」

「第一王子陣営ですか」

「彼のことは嫌いになれない。でも、彼を担ぎたい貴族たちは――厄介」

カミラもそれは認識していた。
第一王子・ヴァルセリオスが誠実であるほどに、彼の“旗”を奪い合う動きは加速する。
まるでそれが正義であるかのように。

「そろそろ“舞踏会”の話も上がってくる頃ね。
名門貴族の顔ぶれを洗い出しておいて。
“正面から潰す”のは、まだ早いけど……」

リリーナの瞳は、灼ける陽射しの中で氷のように澄んでいた。
夏の熱を帯びる王都で、最も冷たいのは、白い王女の策だった。
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