病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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夜も更け、宴が緩やかに終息へ向かう頃。
貴族たちは一通り祝辞を述べ、祝杯の名目で集まってはいるが、実のところ関心は「第一王子がいまだ王位継承を宣言されない」ことと「第二王子が何を考えているか」に移っている。

けれど、そんなざわめきは、広間の隅に寄り添う兄妹二人のあいだには届かない。

「姉上……今日は、ありがとう。とても、嬉しかった」

ユリアンの声は、小さく、そして真っ直ぐだった。
十五歳という年齢は、すでに幼子のものではない。
だがその声にこめられた温度は、リリーナの胸を静かに揺らす。

「私も……あなたの成長を祝えて、とても嬉しかったわ」

そう言いながらも、リリーナはその成長が、どこか遠くへ行ってしまうようで少しだけ寂しかった。
ユリアンは、どこまでも真っ直ぐで、どこまでも――姉にまっすぐだった。

「……姉上は、来年も、再来年も、僕のそばにいてくれますか?」

ぽつりと落ちたその言葉に、リリーナは返事をするのに、少しだけ時間を要した。

(“来年も再来年も”――それはきっと、何気ない願いのようでいて、無垢な束縛)

けれど、リリーナの答えは決まっていた。

「もちろんよ。……私はあなたの姉ですもの」

微笑んでそう言うと、ユリアンは安心したように目を伏せた。

けれど。

その背後――
人影がひとつ、柱の陰からその光景を見ていた。

第一王子・ヴァルセリオス。
彼は二人に気づかれることなく、そのままゆっくりと後退し、人気のない回廊へと歩いていった。

(なるほど……やはり、そうか)

思考の中で言葉が整い、ひとつの像が結びつく。
リリーナの慈愛に、ユリアンの執着が、ただの弟のそれとは思えないほどに濃い。

家族という枠を、すでに超えかけている――
いや、当人たちは自覚すらしていないかもしれないが。

(ふたりは……同時に、孤独なのだ)

兄である自分には、誰よりもわかる。
高貴な血を持ちながら、支える民がなく、担がれる立場ではなく、だからこそ互いを強く必要とする。

「それは……祝福か、あるいは――」

言葉の続きは、誰にも聞かれぬよう、雪の音にかき消された。

舞踏会の夜は終わる。
けれど、心に残る微かな火種は、まだくすぶり続けている。
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