病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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秋風が吹く中庭の銀杏が、ゆっくりと葉を落としていた。
金色に染まった枝が揺れ、地面には風の流れそのままに葉の小道が出来ている。
そんな中――王宮の奥まった部屋に、怒声が響いた。

「どうしてなんですか!」

ユリアンの声が、張り詰めた空気を裂くように響いた。
白魔法の反動でベッドに臥せる姉の傍に、彼はまるで怒りと悲しみを抱えて叩きつけるように立っていた。

「どうして、そんなに……人のために、自分を削ってまで……!」

息が荒い。額には汗が滲み、拳は震えていた。
それでも、ベッドに横たわるリリーナは微笑を崩さない。

「誰かが、やらなければならないことだから」

「それは姉上でなくてもいいだろう!」

声が裏返るほどの叫び。
けれど彼女の返答は穏やかで、酷く遠い。

「いいえ。私だから、できることなのよ」

その言葉が、ユリアンの胸を深く抉った。

リリーナの頬は蒼白で、指先も冷たい。それでも慈しみに満ちたその目が、彼の心を余計に締めつけた。
彼女は本当に、自分を犠牲にすることを当然だと信じている。
そう――まるで、自分の命にすら価値を見出していないかのように。

「姉上は……姉上は、僕に生きていてほしいって、そう言ってくれたのに。
じゃあ、僕が願ったって……ダメなの? 姉上が、苦しまないでほしいって」

「ありがとう、ユリアン。優しい子ね」

その言葉すらも、彼には突き放すように聞こえた。
姉は自分のことになると、耳を塞ぐ。
他人の苦しみには限りなく寄り添うのに、自分の痛みは否定するように。

「そんなの、ただの偽善だ!」

少年の声が震えた。
今やその瞳には、抑えきれぬ怒りと、そして深い絶望が滲んでいる。

「僕がどれだけ心配してるか、わかってる!?
姉上のことを、どれだけ……どれだけ……」

声が掠れ、言葉は続かなかった。

リリーナは、その手を伸ばさなかった。
かけるべき言葉がなかったのではない。
――触れれば、戻れなくなることが分かっていたからだ。

「ごめんなさい。私、あなたを泣かせたくなかったのにね」

まるで告別のような言葉。
ユリアンは小さく息を呑み、もう一言も発せず、踵を返した。

扉が閉まる音は、やけに遠く、冷たく響いた。

残されたリリーナは、深く目を閉じる。
胸に抱かれたアクアマリンの輝きが、微かに揺れていた。

(ごめんなさい、ユリアン。あなたを守るために私はここまで来たのに……
なのに、あなたをこんなに傷つけてしまう)

それでも。
彼のその怒りや涙が、裏で仕掛けてきた貴族たちの罠を払えるわけではない。
ここで手を止めれば、すべてが水泡に帰す。

(この冬で決着をつける。貴族の暴発を引き起こし、その罪を暴き出す。
あなたが真に王座に立てる道を――)

静かな決意が、胸の内に宿った。
仄暗い光が、夜の帳と共に王宮を覆い始める。

この冬、血と権謀の果てに迎える未来は、果たしてどちらを救うのだろうか。
――彼女自身か、愛する弟か。

その答えを知るには、もう少しだけ、時間が必要だった。
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