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第一章 婚約破棄と新たな決意
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補佐部署の執務室に案内されたセラフィーナは、緊張を抱えながら扉をくぐった。
そこは国の心臓部にふさわしく、壁には各国の地図や外交記録が並び、机の上には山と積まれた書簡が整然と置かれている。
空気にはインクと羊皮紙の匂いが漂い、文官たちの筆音と足音が絶え間なく響いていた。
「新任の補佐官ですね」
穏やかな声に振り向くと、ひとりの青年が立っていた。
宰相副官クリストファー・ライエル。
宰相の右腕にして、政務の実務を支える人物。
その姿を目にした瞬間、セラフィーナは思わず息を呑んだ。
整った顔立ち。
光を受けて柔らかく輝く金茶色の髪。
澄んだ湖のように透き通った青の瞳。
どれもが絵画から抜け出したかのように美しかった。
「宰相副官のクリストファーです。以後よろしくお願いします」
差し出された言葉は端正で、口元には優雅な笑みが浮かんでいた。
その笑みは柔らかく、誰にでも安心感を与えるものだった。
白い手袋に包まれた指先の動きひとつにまで洗練が宿り、所作のすべてが外交官の鏡のようだった。
セラフィーナは慌てて裾をつまみ、一礼した。
「セラフィーナ・エルンストです。これより補佐官として務めさせていただきます」
クリストファーは微笑を崩さず、軽く頷いた。
「お噂は耳にしています。文官試験で優秀な成績を収めたとか。
新興の家からここに辿り着くのは、容易いことではありません。どうか誇りを持って」
丁寧で、礼を尽くした言葉。
セラフィーナは礼を返しながら、胸の奥にわずかな戸惑いを覚えた。
完璧すぎる笑み。
柔らかく、優しく、欠けるところがひとつもない。
けれど、だからこそ掴みどころがなかった。
――美しい。
けれど、近づこうとすればするほど、遠ざかってしまいそうな人。
その印象だけが、セラフィーナの胸に残った。
そこは国の心臓部にふさわしく、壁には各国の地図や外交記録が並び、机の上には山と積まれた書簡が整然と置かれている。
空気にはインクと羊皮紙の匂いが漂い、文官たちの筆音と足音が絶え間なく響いていた。
「新任の補佐官ですね」
穏やかな声に振り向くと、ひとりの青年が立っていた。
宰相副官クリストファー・ライエル。
宰相の右腕にして、政務の実務を支える人物。
その姿を目にした瞬間、セラフィーナは思わず息を呑んだ。
整った顔立ち。
光を受けて柔らかく輝く金茶色の髪。
澄んだ湖のように透き通った青の瞳。
どれもが絵画から抜け出したかのように美しかった。
「宰相副官のクリストファーです。以後よろしくお願いします」
差し出された言葉は端正で、口元には優雅な笑みが浮かんでいた。
その笑みは柔らかく、誰にでも安心感を与えるものだった。
白い手袋に包まれた指先の動きひとつにまで洗練が宿り、所作のすべてが外交官の鏡のようだった。
セラフィーナは慌てて裾をつまみ、一礼した。
「セラフィーナ・エルンストです。これより補佐官として務めさせていただきます」
クリストファーは微笑を崩さず、軽く頷いた。
「お噂は耳にしています。文官試験で優秀な成績を収めたとか。
新興の家からここに辿り着くのは、容易いことではありません。どうか誇りを持って」
丁寧で、礼を尽くした言葉。
セラフィーナは礼を返しながら、胸の奥にわずかな戸惑いを覚えた。
完璧すぎる笑み。
柔らかく、優しく、欠けるところがひとつもない。
けれど、だからこそ掴みどころがなかった。
――美しい。
けれど、近づこうとすればするほど、遠ざかってしまいそうな人。
その印象だけが、セラフィーナの胸に残った。
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