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第四章 仮面の裏側
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王城の大広間では、燭台の炎が幾重にも輝き、絹の衣が光をはね返していた。
ラファエル王子の歓待のための舞踏会――外交交渉の掉尾を飾る華やかな場が、いままさに始まろうとしていた。
音楽の調べが遠くから聞こえ、華やぎの気配が廊下にまであふれている。
私はその会場へ、一人で向かっていた。
宰相閣下とクリストファー様とは、会場の手前で合流する手はずになっている。
胸の奥に微かな不安を抱えつつも、足取りを乱さぬよう気を張っていた。
だが――その瞬間だった。
ひたり、と背筋に冷たい感覚が走った。
空気が一変し、肌を刺すような殺気が迫る。
振り返るより早く、視界の端で刃が閃いた。
「――!」
息が喉に詰まり、心臓が跳ね上がる。
刃の軌跡が鮮やかに光を反射し、恐怖で足が石に縫いつけられたように動かない。
冷や汗が背を伝い、呼吸が浅くなる。
次の瞬間には命が尽きるのではないか――そんな実感が、雷鳴のように頭を打ちつけた。
「やはり出たか」
重厚な声が響く。
宰相閣下。
そのすぐ後ろには、青い瞳のクリストファー様が立っていた。
数人の影が私に迫ったが、宰相の護衛たちが飛び出し、鋼の音が交錯する。
火花が散り、短い混乱の末、襲撃者は組み伏せられた。
私は壁際に追い詰められたまま、必死に呼吸を繰り返した。
心臓の鼓動が痛みとなって胸を打ち、視界がかすむ。
恐怖で震える手を握りしめても、まだ痺れるように震えが止まらない。
「大丈夫ですか」
すぐ傍で、穏やかな声がした。
クリストファー様だった。
顔を上げると、そこにあったのはいつもの柔らかな微笑――けれど、その瞳の奥に、僅かに揺れる色を見た。
それは、確かな心配の色。
氷のように冷たい瞳の奥で、ほんの瞬きほどの間に覗いた、真摯な憂い。
それが私を捉え、胸に温かなものを灯した。
けれど次の瞬間には、彼は再び完璧な笑顔を整えていた。
その仮面の下に潜む心を覆い隠すように。
「……やはり狙われたか。予期はしていたが、ここまで露骨とはな」
宰相閣下が呟き、状況を冷静に見極めている。
そして私を振り返り、静かに告げた。
「セラフィーナ嬢は、私が通訳として借りていこう」
未婚の男女が寄り添う姿は外聞が悪い。
それを見越しての采配だった。
「クリストファー、お前は後始末を」
「承知しました」
彼は一礼し、再び私を見た。
柔らかな笑顔。
けれど、その青い瞳は氷のように冷たい。
さきほど確かに受け取った憂いは、跡形もなく掻き消されている。
残されているのは、冷徹な副官としての光。
「行ってらっしゃいませ」
微笑みに送り出され、私は胸にぞくりとした震えを抱いた。
それでも同時に、あの一瞬の心配が幻ではなかったことも確信していた。
舞踏会の扉が開き、光と音楽の奔流が押し寄せる。
華やかな場へ足を踏み入れる私を、彼は仮面の笑みで見送り――その裏で、冷徹な暗躍を始めていた。
ラファエル王子の歓待のための舞踏会――外交交渉の掉尾を飾る華やかな場が、いままさに始まろうとしていた。
音楽の調べが遠くから聞こえ、華やぎの気配が廊下にまであふれている。
私はその会場へ、一人で向かっていた。
宰相閣下とクリストファー様とは、会場の手前で合流する手はずになっている。
胸の奥に微かな不安を抱えつつも、足取りを乱さぬよう気を張っていた。
だが――その瞬間だった。
ひたり、と背筋に冷たい感覚が走った。
空気が一変し、肌を刺すような殺気が迫る。
振り返るより早く、視界の端で刃が閃いた。
「――!」
息が喉に詰まり、心臓が跳ね上がる。
刃の軌跡が鮮やかに光を反射し、恐怖で足が石に縫いつけられたように動かない。
冷や汗が背を伝い、呼吸が浅くなる。
次の瞬間には命が尽きるのではないか――そんな実感が、雷鳴のように頭を打ちつけた。
「やはり出たか」
重厚な声が響く。
宰相閣下。
そのすぐ後ろには、青い瞳のクリストファー様が立っていた。
数人の影が私に迫ったが、宰相の護衛たちが飛び出し、鋼の音が交錯する。
火花が散り、短い混乱の末、襲撃者は組み伏せられた。
私は壁際に追い詰められたまま、必死に呼吸を繰り返した。
心臓の鼓動が痛みとなって胸を打ち、視界がかすむ。
恐怖で震える手を握りしめても、まだ痺れるように震えが止まらない。
「大丈夫ですか」
すぐ傍で、穏やかな声がした。
クリストファー様だった。
顔を上げると、そこにあったのはいつもの柔らかな微笑――けれど、その瞳の奥に、僅かに揺れる色を見た。
それは、確かな心配の色。
氷のように冷たい瞳の奥で、ほんの瞬きほどの間に覗いた、真摯な憂い。
それが私を捉え、胸に温かなものを灯した。
けれど次の瞬間には、彼は再び完璧な笑顔を整えていた。
その仮面の下に潜む心を覆い隠すように。
「……やはり狙われたか。予期はしていたが、ここまで露骨とはな」
宰相閣下が呟き、状況を冷静に見極めている。
そして私を振り返り、静かに告げた。
「セラフィーナ嬢は、私が通訳として借りていこう」
未婚の男女が寄り添う姿は外聞が悪い。
それを見越しての采配だった。
「クリストファー、お前は後始末を」
「承知しました」
彼は一礼し、再び私を見た。
柔らかな笑顔。
けれど、その青い瞳は氷のように冷たい。
さきほど確かに受け取った憂いは、跡形もなく掻き消されている。
残されているのは、冷徹な副官としての光。
「行ってらっしゃいませ」
微笑みに送り出され、私は胸にぞくりとした震えを抱いた。
それでも同時に、あの一瞬の心配が幻ではなかったことも確信していた。
舞踏会の扉が開き、光と音楽の奔流が押し寄せる。
華やかな場へ足を踏み入れる私を、彼は仮面の笑みで見送り――その裏で、冷徹な暗躍を始めていた。
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