妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第1章 転生令息の目覚め

1-5

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フローラが逃げ去ったあと、俺は中庭でしばらく突っ立っていた。
残されたのは、花束と沈黙と、俺の尊厳。

「……初戦、完敗だな。」

あんなに丁寧に話したのに。
なんで逃げられるんだ。
俺、怖い顔してた? いや、してたな。
鏡で見たときから思ってたけど、悪役フェイスってやっぱり得しない。

深呼吸して廊下に戻る。
壁の鏡に映った自分は、完全に落ち込んだ貴族。
それでも、もう後には引けない。
妹の未来がかかってるんだ、失敗なんて気にしてられ――

「……アラン・リステア。」

低く、落ち着いた声が背後から響いた。

反射的に背筋がピンと伸びる。
振り返った瞬間、息が止まった。

王太子シリウス・アルベルト殿下。
黒に近い青髪が光を吸い、金の瞳がまっすぐ射抜いてくる。
近くで見ると、静かな威圧感がすごい。
まるで“空気の密度”が違う。
なんだこの人、現実の人間? グラフィック設定上限突破してない?

「ど、殿下……!」

「先ほどの中庭での君の行動、見させてもらった。」

(はい、終わった。)

人生のエンドロールが頭を流れる。
よりによって、恋愛シーンの目撃者がこの人ってどういう罰ゲームだ。

「い、いえ、あれはですね、その……!」

「君はなぜ、そこまでフローラ嬢に熱心なのだ?」

穏やかな声。
けれど、逃げ場を塞ぐような静けさ。
質問というより、観察。
まるで俺という人間そのものを解析しているような眼差しだった。

……やばい、頭が真っ白になる。
とっさに口が動いた。

「妹のためです!」

「妹の……ため?」

殿下の眉がわずかに動く。
落ち着けアラン、変に聞こえてる!
言い訳だ、早く言い訳!

「そ、その……妹がですね! 不幸になる未来を回避するために! だから、ヒロインを……先に、えっと、攻略しようと!」

攻略て言うな俺。
冷静になれ、語彙を選べ。
“恋愛阻止作戦”のはずが、“恋愛宣言”みたいになってる!

沈黙。
殿下の金の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。
まるで心の中を覗かれてるみたいで、息が詰まった。

「……妹のために、恋を仕掛けるのか。」

「ち、違います!! 仕掛けてません!! むしろ防いでる側です!!」

「そうか。」

わずかに唇が動く。
そして――

「……興味深い。」

その一言が、妙に胸の奥に響いた。
冷たいようで、熱を孕んだ声。
金の瞳が柔らかく細められた瞬間、息を飲む。
なんだこの破壊力。
ただの微笑なのに、照明いらないレベルで輝いてるんだけど。

「……殿下、いま何か誤解されてませんか!?」

「いいや。ただ、君が面白いと思っただけだ。」

にこり、と笑う。
あれ? この人、ほんとに王族?
圧と色気と知性が全部同居してるの、反則では。

「そ、それは……光栄です……(怖いけど)。」

「また話そう、リステア。」

そう言い残し、殿下は背を向けた。
黒に近い青髪が陽にきらめき、遠ざかる足音がやけに印象に残る。

……やっぱり、俺の人生のフラグ管理、バグってない?

──妹のためにヒロインを口説いていたはずなのに、
なぜか王太子に“興味深い”と言われてしまった。
いや、これめちゃくちゃ警戒されてない? これ大丈夫??
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