妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第2章 勘違いのはじまり

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お茶会は完璧に準備したつもりだった。
花も茶葉も、フローラ嬢の好みに合わせて選び抜いた。
庶民出身の彼女でも気後れしないように、庭の奥の小さなテラス席を選んだ。

――そこまでは完璧だったのに。

「おや、偶然だな。私も招かれていないが、参加してもいいだろうか？」

その声を聞いた瞬間、俺の心拍数が跳ね上がった。
王太子シリウス・アルベルト殿下。
なぜここに！？　なんでピンポイントでこのタイミング！？

「ど、殿下！？　こちらは庶民向けの小さなお茶会でして――」

「君が企画したなら、興味がある。」

いや、来るなよ！？
“興味”って便利ワードじゃないんだよ、殿下！？

結局、俺・フローラ・殿下の三人卓が完成した。
地獄の席順。
そして、リリィは少し離れた場所で“偶然”お茶を飲んでいる。
（……おい、あれ絶対わざとだな？）

「そ、それでは、紅茶をどうぞ。えっと、これは──」

「アッサムですね。香りが深い。君の選択は悪くない。」

先に殿下が答えた。
俺の台詞、奪取。
しかも低音ボイスで全部かっさらっていく。

「さすが殿下……お詳しいんですね！」と、フローラが微笑む。
うん、いいぞ、ここから話題を戻そう。
「フローラ嬢は、紅茶はよく飲まれるんですか？」

「はい。実家では──」

「彼女の家は南方商人の娘だ。輸入茶葉に強い。」

また殿下が答えた。
え、俺の台詞、また奪われた！？
ちょっと、王太子、口数多くない！？

「そ、そうなんですか、詳しいですね……」
「君が話していたから、調べた。」
「調べた！？」

何その事前リサーチ！？
恋愛ゲームで言えば、“ヒロイン攻略フラグ”を立てたみたいな発言だぞ！？

「殿下は……フローラ嬢にご関心が？」
「いや、君に。」

「…………はい？」

静まり返る空気。
俺、今、幻聴聞いた？
違うよね？　聞き間違いだよね？？

「君の行動が、興味深い。」

はい、出た。
またその単語。万能誤解製造機ワード。

フローラがぽかんとして、俺を見た。
ああ違う、これは違うんだ、誤解だ！
俺は君を守るために動いてるのに！！

「え、えっと……殿下はアラン様のことを、その……よくご存じで？」
「最近、よく目に入る。」

やめて、その言い方！
語彙のチョイスのせいで意味が変わるんだよ！

「あの、殿下、話題を変えませんか！？　この茶葉の香りなんて、ほら素晴らしいですよね！」
「確かに。君の髪と同じ色をしている。」

「！？！？！？」

なにその直球！？
ちょっと待って、なんで褒め方がそんな甘い！？
恋愛フラグどころか、爆発フラグだぞそれ！！

フローラは完全に固まっている。
その瞬間、すっとリリィが立ち上がった。
「まあ、殿下、アラン兄様のお席は陽射しが強いですわ。こちらへどうぞ？」

さすが我が妹。
完璧な笑顔で、自然に席替えを成立させていく。
その間に俺は心の中で泣いていた。

――妹、君がいなかったら俺、社会的に死んでた。

次の瞬間、殿下が微かに笑った。
「……やはり、君の妹は賢いな。」

いや、殿下。
その笑顔の意味、なんか怖いんですが。

──こうして俺の“ヒロイン口説きお茶会”は、
なぜか“王太子との睨み合いティータイム”にすり替わって幕を閉じた。