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第2章 勘違いのはじまり
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夜会のホールにはシャンデリアが輝き、弦楽の旋律が流れていた。
学園主催の小規模な社交会――つまり、ゲームで言う「恋愛フラグ発火イベント」だ。
(絶対に気を抜くなアラン。ここで油断したら、妹の断罪ルート一直線だぞ!)
俺は壁際で冷静を装いながら、ダンスを楽しむ生徒たちを観察していた。
フローラも招待されている。
だが、庶民出の彼女は気後れして誰とも踊れずにいる。
「よし、ここは俺の出番だな。」
妹のため、ヒロインを孤立させるわけにはいかない。
俺は決意して足を踏み出した――が。
「フローラ嬢は、すでに決まっているようだ。」
「……え?」
振り向くと、そこには黒髪に金の瞳。
王太子シリウス・アルベルト殿下が立っていた。
また出た、理性の権化。
「女性が不足しているらしい。
礼式上、男性同士でも模範を示すことはある。……どうだ、リステア。」
「へ?」
……今、なんて?
“男性同士”って言った?
しかも“どうだ”って、まさか。
「君が断らなければ、私が教官として指導する形で――」
「え!? 殿下が俺と!? い、いやいやいや、待ってください! これ、そういう行事じゃ――」
「貴族の務めだ。」
低音の圧。
言い訳を許さぬ王族ボイス。
くっ、断れない……これが権力の重みか。
「わ、わかりました……妹のための社交訓練として、やむを得ず!」
(そうだ、これはリリィのため。妹のため。決して変な意味では――)
「音楽を。」
殿下の指先が軽く動くと、弦が再び鳴り響いた。
次の瞬間、彼の手が俺の手を取る。
ひんやりした掌が触れた瞬間、心臓が跳ねた。
近い、近い近い!
殿下の瞳が金色の光を帯びて、まっすぐ俺を見て――いや見るな!
(ちょ、これおかしいだろ!?
なんで空気が甘い!? ただのダンスだぞ!?)
「姿勢を保て、リステア。腰が引けている。」
「す、すみませんっ!」
完全に“婚約者の練習”みたいな距離。
肩を支える手、導くようなステップ。
どこを取っても優雅なのに、妙に熱い。
周囲がざわめき始めた。
「王太子殿下が男性と……?」
「いや、リステア様相手だし……まさか、そういう……?」
ちがう! そういうじゃない!
俺は叫びたいのに、体が勝手に踊りを続けている。
なにこの羞恥プレイ!
「……ふ、君は案外器用だな。」
「褒め言葉として受け取っていいんですかね!?」
「もちろん。」
軽く微笑むその表情に、また空気が止まった。
弦の音だけが、静かに二人を包む。
近衛たちは気まずそうに視線を逸らし、
リリィは後方で紅茶を口に運びながら――
(お兄様と殿下……照明も構図も完璧……
しかも曲が“月夜の約束”ですわ……尊……)
――心の中で感嘆していた。
学園主催の小規模な社交会――つまり、ゲームで言う「恋愛フラグ発火イベント」だ。
(絶対に気を抜くなアラン。ここで油断したら、妹の断罪ルート一直線だぞ!)
俺は壁際で冷静を装いながら、ダンスを楽しむ生徒たちを観察していた。
フローラも招待されている。
だが、庶民出の彼女は気後れして誰とも踊れずにいる。
「よし、ここは俺の出番だな。」
妹のため、ヒロインを孤立させるわけにはいかない。
俺は決意して足を踏み出した――が。
「フローラ嬢は、すでに決まっているようだ。」
「……え?」
振り向くと、そこには黒髪に金の瞳。
王太子シリウス・アルベルト殿下が立っていた。
また出た、理性の権化。
「女性が不足しているらしい。
礼式上、男性同士でも模範を示すことはある。……どうだ、リステア。」
「へ?」
……今、なんて?
“男性同士”って言った?
しかも“どうだ”って、まさか。
「君が断らなければ、私が教官として指導する形で――」
「え!? 殿下が俺と!? い、いやいやいや、待ってください! これ、そういう行事じゃ――」
「貴族の務めだ。」
低音の圧。
言い訳を許さぬ王族ボイス。
くっ、断れない……これが権力の重みか。
「わ、わかりました……妹のための社交訓練として、やむを得ず!」
(そうだ、これはリリィのため。妹のため。決して変な意味では――)
「音楽を。」
殿下の指先が軽く動くと、弦が再び鳴り響いた。
次の瞬間、彼の手が俺の手を取る。
ひんやりした掌が触れた瞬間、心臓が跳ねた。
近い、近い近い!
殿下の瞳が金色の光を帯びて、まっすぐ俺を見て――いや見るな!
(ちょ、これおかしいだろ!?
なんで空気が甘い!? ただのダンスだぞ!?)
「姿勢を保て、リステア。腰が引けている。」
「す、すみませんっ!」
完全に“婚約者の練習”みたいな距離。
肩を支える手、導くようなステップ。
どこを取っても優雅なのに、妙に熱い。
周囲がざわめき始めた。
「王太子殿下が男性と……?」
「いや、リステア様相手だし……まさか、そういう……?」
ちがう! そういうじゃない!
俺は叫びたいのに、体が勝手に踊りを続けている。
なにこの羞恥プレイ!
「……ふ、君は案外器用だな。」
「褒め言葉として受け取っていいんですかね!?」
「もちろん。」
軽く微笑むその表情に、また空気が止まった。
弦の音だけが、静かに二人を包む。
近衛たちは気まずそうに視線を逸らし、
リリィは後方で紅茶を口に運びながら――
(お兄様と殿下……照明も構図も完璧……
しかも曲が“月夜の約束”ですわ……尊……)
――心の中で感嘆していた。
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