妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第4章 噂の立ち上がり

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昼下がり、学園の階段。
フローラが両腕いっぱいに書類を抱えていた。

「ひゃっ……！」

バランスを崩した瞬間、書類が空へと舞う。
白い紙が花びらのように散るその中で、俺は反射的に走った。

「危ない！」

彼女の手元から滑り落ちた束を受け止める。
間一髪。床に散らばる前に全部キャッチ。
うん、我ながらナイス反射神経。

「す、すみません！　ありがとうございます！」

「いいえ、大丈夫ですか？　怪我は――うわ、重っ！？」

腕にずしりと来る。まるで鉄板。
資料っていうか、魔導書でも詰まってない？

「これ、全部持って上がるつもりだったんですか？」
「はい……先生に届けてほしいって言われて……」

「危険です。転んだらどうするんですか。
　……これは俺が持ちます。」

「え、そんな……！」
「いいんです。これも恋愛阻止の一環ですから。」

「……はい？」

「いや、こっちの話です！」

（やばい、うっかり口に出た。）

本来の目的は明確だ。
フローラがシリウス殿下に惹かれる前に、俺が先に“安全なルート”に引き込む。
つまりこれは恋愛ではなく、未来の断罪イベント回避策。
理屈の上では完璧。感情なんて挟む余地はない。

「アラン様って、いつも誰かを助けてますね。」

「い、いえ、これは単なる行動最適化で……！」

「最適化……？」

「ええ。庶民出の方々は、貴族社会のルールに慣れていない。
　だから僕が先にフォローすれば、学園内の対立も防げる。
　結果、妹の安全が保たれるという――」

「ふふっ……難しいことを言うんですね。」

フローラが笑った。
それは純粋で、柔らかくて、まぶしい。
（あ、これ、フラグ上昇のエフェクト出たな……）

「でも、ありがとうございます。
　アラン様って、本当に優しい方なんですね。」

（やめて、それは攻略対象の褒め方！）

「そ、そんなことは！　合理的判断です！　感情ではなく！」
「……感情じゃなく、ですか？」
「ええっ！？　いや、別に感情がないわけではなく！」

（詰んだ。説明すればするほど混乱してる。）

彼女は小さく微笑んで、言った。
「そういうところも、好きです。」

時が止まった。
待て、それは“友人として”の好き？　それとも……？

（ちょっと待ってくれ、これは理屈の想定外！！）

頬が熱くなる。
落ち着け。冷静になれ。
これはフローラルートを進めるための恋愛行動。
そう、理性的な戦略の一環――

「……理性的、理性的……（自己暗示）」

そんな俺を見て、フローラはくすりと笑った。
まるで本物の恋愛イベントみたいな空気。

……そしてそのとき。

遠くの回廊の陰で、金の瞳がわずかに光った。
黒青の髪が風に揺れ、王太子シリウスがこちらを見ている。
静かな視線。唇がほんの少し、上がった。

「……殿下……？」

胸の鼓動が、不自然に速くなる。
その微笑みは、優しさか――それとも、火種だろうか。