妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第11章 告白

11-3

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その日、俺は一日中、魂がどこかに旅立っていた。

講義中もノートは真っ白。
ペン先が紙に触れた瞬間、脳内では殿下の声がリピート再生される。

『――私は、君に惹かれている。』

(やめろ、脳内再生機能オフにして!)

三回目ぐらいで、さすがに机に突っ伏した。
隣のフローラが心配そうに覗き込む。

「アラン様? お顔が真っ赤ですけど……」

「だ、大丈夫。脳が一時的に処理オーバーしてるだけです……!」

「え?」

「いや、なんでもない!」

もはや会話が成り立っていない。
放課後になるまで、ずっとその調子だった。

──そして放課後。

中庭のベンチ。
昨日と同じ場所。
嫌な予感しかしない。

殿下はもう待っていた。
夕陽の金色の光を背に、静かに立つその姿。
近寄るだけで、空気が違う。

「……昨日の話、続きを。」

「つ、続き!? あれ続くんですか!?」

「当然だ。中途半端なままでは終われない。」

「ま、まさか……あの、“惹かれている”発言の件ですか!?」

「他に何がある?」

(はい出ました、ストレート!)

「い、いやいやいや! あれは比喩でしょう!? 忠誠心とか信頼とかの!!」

「違う。」

「違う!?」

「君の存在そのものに、惹かれている。」

「……えっ」

「君の誠実さ、理屈っぽいところ、そして――」

「ま、待ってください殿下!? ちょっと情報が多いです!!」

「いつからか、視線が君を追っていた。」

(はい、恋の告白テンプレ入りました!?)

「ま、まさかそんな……いえ、だって、俺は男ですよ!? 妹がいるし、そもそも妹の破滅を防ぐために!」

「君の妹の話ではない。」

「えっ……?」

「私は、君に惹かれていると言った。」

(……あれ? もう一度?)

「つまり、君自身に。」

「……は?」

「君だ。」

「…………」

(思考が、止まった。)

頭の中の歯車がギギギと音を立てて止まる。
視界の端がスローモーションになる。

(え、ええええええ!?)

「えっ……は? はああっ!?」

自分でも何を言ってるのかわからない叫びが出た。
鳥が飛び立つ。
遠くで犬が吠える。

「殿下! 落ち着いてください!!」

「落ち着いているのは私だ。」

「嘘だーー!!!」

「君こそ、何をそんなに慌てている?」

「そりゃ慌てますよ!? 相手、王太子ですよ!? 同性ですよ!? 乙女ゲームの想定外イベントですよ!?」

「……乙女?」

「あっ、いや、なんでもないです忘れてください今の!!」

殿下は微かに目を細めた。
その笑みが静かで、逆に怖い。

「君は本当に、面白いな。」

「面白くないです!!!」

沈む夕陽が赤く二人を染める。
息が苦しいほど、距離が近い。

そして――殿下は一歩、俺の前に出た。

「アラン。」

「ひゃいっ」

「私は真剣だ。」

その声の低さに、背筋が凍る。
本気だ――この人、本気で言ってる。

「……考えておいてほしい。」

「な、なにを!?」

「君が、どう答えるかを。」

そう言って、殿下はゆっくり背を向けた。
赤い光の中に、その姿が溶けていく。

俺はただ、呆然と立ち尽くしていた。

(……ど、どうしてこうなった!?
 俺は妹の幸せを守りたかっただけなのに!!)

噴水の音が遠くに聞こえる。
夕陽が沈みきる頃、俺はまだ同じ姿勢で固まっていた。
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