妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

第13章 フローラの理解

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夕陽が傾き、学院の庭が金色に染まっていた。
静かな噴水の前、二つの影が並んでいる。

白金の髪の青年と、蜂蜜色の少女。
言葉を交わし、柔らかく笑い合っていた。

――アラン・リステアと、フローラ・エヴァンジェリン。

シリウスは、回廊の柱の陰からその光景を静かに見つめていた。
風が吹き抜け、外套の裾を揺らす。

何を話しているのかは聞こえない。
ただ、アランの横顔が穏やかで、どこか優しい光を帯びているのが見えた。

（……あんな顔も、するのか）

胸の奥が、わずかに軋んだ。
それは痛みとも違う、言葉にならない違和感。

彼の笑顔を見るのは、好きだった。
理屈ではなく、心が落ち着くから。

だが、いま――その笑顔が自分ではない誰かに向けられている。

「……」

沈黙のまま、視線が離せなかった。
何をしているのか、自分でもわからない。
ただ、その光景を見ていることが、妙に苦しかった。

フローラが微笑み、アランの肩に花びらが落ちる。
彼女がそれをそっと払う仕草に、指先が触れそうになった瞬間、
シリウスの喉が小さく鳴った。

（……笑っている顔を、誰に向けている？）

金の瞳に、揺れる陽光が映る。
それは嫉妬という名の影を、静かに宿していた。

シリウスは目を伏せ、踵を返した。
歩き出しながら、胸の奥で小さく呟く。

「……面白いな、君は。」

その声音は穏やかだったが、どこか自嘲を含んでいた。
理性では理解している。
それでも心は――もう、止まってくれなかった。