妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第20章 婚約発表

20-1

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王都は、祝いの音で満ちていた。

鐘が鳴り、花弁が風に舞い、
広場には笑顔があふれている。
まるで春そのものが舞い降りたようだった。

王宮の大広間は、金と白で飾られ、
無数の光がシャンデリアからこぼれていく。
貴族も市民も、誰もが今日を祝福していた。

――王太子シリウス・アルベルト殿下と、
リステア侯爵家令嬢リリィ・リステア。
二人の婚約を祝う披露の宴。

「殿下、ご挨拶を!」
司会の声に拍手が響く。

アランは会場の後方で立っていた。
妹の晴れ姿を、遠くから静かに見守る。

(……よくやったな、リリィ。)

舞台の上、妹は完璧だった。
気品と笑顔、誰もが称賛する“理想の令嬢”。
その隣で、シリウスが彼女の手を取る。

金の瞳が灯りに反射し、柔らかく輝いた。
その瞬間、胸の奥が小さく軋む。

(あの瞳、もう俺には向かないんだな……)

リリィが微笑み、シリウスが頷く。
拍手がひときわ大きくなり、祝福の音が波のように広がった。

誰もが幸福そうに笑っている。
けれど、その中で――アランだけが、静かだった。

音は聞こえるのに、遠い。
光は届いているのに、胸の奥までは届かない。

(……これでいい。これで、全員が救われた。)

そう思いながら、彼はただ掌を握りしめた。
笑顔の代わりに、深く息を吸い込む。

その息の中に、
拍手も鐘の音も、溶けて消えていった。
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