妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊

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第24章 密やかな再会

24-3

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夜会から少し離れた廊下は、信じられないほど静かだった。
遠くから流れてくる音楽と笑い声が、まるで別世界のもののようだ。

「……やはり、少し話がしたくてな。」

背後からの声に、俺は振り返る。
そこには、先ほどまで王太子としての顔をしていたシリウス殿下がいた。

いや、今は――ただの“シリウス”だった。

「殿下、お一人で……?」

「人払いをした。少しくらい、自由も許されるだろう」

そう言って歩み寄る彼の声音は、不思議と柔らかかった。
数年前、何度も聞いたあの声のままだ。

しばしの沈黙。
互いに言葉を探す時間。

やがて、彼が問いかける。

「……幸せにしているか?」

胸の奥が揺れた。
けれど、俺は微笑んでうなずく。

「ええ。フローラも、とても良くしてくれています。
殿下も……どうか、お幸せで」

その返答に、シリウスは少しだけ目を伏せた。
そして、ごく小さく笑った。

「“殿下”か。その呼び方……懐かしいな。」

記憶の波が、音もなく押し寄せた。
あの頃は、ただ彼の隣にいられただけで良かった。
その呼び方で呼べることが、たしかに誇りだったのに。

けれど今は。

「……すみません。ですが、もうそう呼ぶしかありませんので」

そう告げると、彼は目を細め、静かに頷いた。

「――そうだな。わかっている。」

それでも、別れの気配はなかった。

言葉にならない想いが、廊下の陰で交差する。
それだけで、十分だった。
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