毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第二章 魔王と勇者

第十話 新たなる命と人間界へ

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 会談を終え、広間に再び静寂が訪れる。
 ユスティティアは玉座に身を預け、右手に握った創世の玉卵をそっと撫でた。
 玉卵の内部で淡い光が渦を巻き、何かが形を成そうとしている。

「……さあ、目を覚ましなさい。私のもとに来るのよ」

 光が弾け、まず一人の青年が姿を現した。
 銀灰色の髪を短く整え、鋭さと優しさを併せ持つ琥珀の瞳。
 その立ち姿は闘志そのものであり、同時に主に忠義を誓う拳士の風格を漂わせている。

「……貴女が、我が主か」
 青年は片膝をつき、静かに頭を垂れた。

「ええ、そうよ。あなたは今日から私の拳であり、影でもあるわ。名は――カインとしましょう」
 名を授けられた瞬間、カインの瞳が誓いの光に揺れた。

「我が命、すべて主に捧げます」



 玉卵が再び輝きを増し、今度は二つの影が同時に浮かび上がる。
 光が収まった先に立っていたのは、まるで鏡写しのような双子の姉妹だった。

 姉は漆黒の長髪を背に流し、落ち着いた笑みを湛えている。
 妹は淡い銀色の髪を揺らし、無邪気な瞳で周囲を見回していた。

「主さま……わたしたちは……」妹が言葉を探すように口を開く。

「あなたたちは今日から私の翼。二人で一つ、私の空を守るのよ」
 ユスティティアは優しく微笑むと、姉の額に指先を当てた。

「姉は――リシェル」
 そして妹へと視線を移す。
「妹は――ルシェル。……二人で私の空を飛びなさい」

 双子は同時に深く礼を取り、声を揃えて答えた。
「はい、主さま」



 こうして――
 ユスティティアのもとに、副翼セリアに加え、拳の臣カイン、そして双翼の姉妹リシェルとルシェルが揃った。

 主と臣下、四つの影が玉座の間に並び立つ光景は、まさに魔界の新たな物語の始まりを告げるものだった。

人間界潜入 ― 冒険者ギルドへ

 魔界の領主会談から数日後。
 黒玉宮の上空を裂くように、次元の門が開かれた。
 その前に立つのは、ユスティティアと彼女の臣下たち――セリア、カイン、リシェル、ルシェル。

「では……行きましょうか」
 ユスティティアは軽く手を振り、領土の守りとして自身の分身を玉座に残す。
 次の瞬間、五つの影は光に包まれ、人間界へと姿を消した。



 降り立ったのは、人間界でも比較的平穏とされる都市国家《エルメリア》。
 青い空と白壁の街並み、行き交う人々の笑い声――魔界とは違う、柔らかな空気が漂っている。

「さて……私たちはここから別行動になるわ。」
 ユスティティアは臣下たちを見回し、口元に微笑を浮かべる。

「セリア、カイン、リシェル、ルシェル――あなたたちは冒険者として活動し、邪神教団の情報を探ってちょうだい」

「主さまは……どうなさるおつもりで?」
 セリアが小首を傾げる。

「ふふ……私は冒険者ギルドの受付嬢になります。」

 その答えに、セリアは瞬きを繰り返した。
「……受付嬢? どうしてまた……」

 ユスティティアはわざと少し頬を染め、声を弾ませる。
「制服が……とても可愛いの!」

 臣下全員が、言葉を失った。
 カインは小さくため息を漏らし、リシェルは困ったような微笑を浮かべ、ルシェルは「えー、そんな理由!?」と笑いをこらえる。

「でもね、可愛い制服で人間界に溶け込めるなら、こんなに都合のいいことはないでしょう?」
 ユスティティアは片目を閉じてウインクし、軽やかに街の中央通りへと歩き出した。



ギルドの門を叩く

 石造りの立派な建物――《エルメリア冒険者ギルド》。
 扉を押し開けると、依頼書の張られた掲示板や、装備を整えた冒険者たちで賑わっていた。

「受付嬢の募集を見てまいりました。
ティア・クレメントと申します。」

 金色のロングヘアーを揺らし、可憐な笑みを浮かべる美女――それが人間に擬態したユスティティアだった。
年齢は20歳、可愛らしい顔立ちと抜群のスタイル。
白い肌と仄かにピンク色の唇。
誰もが振り返るような女性に仕上げた。
ユスティティアの傑作品である。
 ギルドマスターは一瞬言葉を失い、その美貌と落ち着いた所作に目を奪われる。

「……面接は奥で行おう。研修は数か月、その間は裏方仕事が中心になるが、それでも構わないか?」

「もちろんですわ。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 こうして――魔界の憤怒の魔王は、人間界の小さな受付カウンターから、世界を見つめることとなった。


冒険者ギルド研修 

 ティア・クレメントとしての生活が始まった。
 研修初日、彼女は先輩受付嬢のアナスタシアに案内され、ギルドの裏方仕事に取り掛かる。

「まずは依頼書の整理からね。
ランクごとに仕分けして。
期限切れのものは取り下げて」

「はい、承知しました。」

 華奢な指先が、依頼書を手際よく振り分けていく。
 人間たちはその仕草をただ「器用だな」と思うだけだが――実際には魔力で紙束の順序を完璧に記憶・分類していた。

(……人間は、紙一枚の書き方ひとつにも性格が出るのね)
 字の癖、余白の取り方、文章の丁寧さ――どれも依頼人の心理を映す鏡。
 ティアはそんな細部を見逃さず、裏での人物把握に役立てていた。



 一方、セリアとカイン、双子の姉妹リシェルとルシェルは、別の名を名乗り冒険者登録を済ませていた。
 表向きはパーティ《暁の羽》として活動し、裏では邪神教団の痕跡を探るのが目的だ。

「街の北門近くに、最近不審な集会所ができたらしい」
 カインが低く報告する。

「中には人の出入りがあるが、顔ぶれは固定されている。
冒険者ではなく、どちらかといえば……信者だな」

「やっぱり教団関係かもしれませんね」
 リシェルが地図を広げ、印をつける。

「でも、まだ正面から踏み込むのは時期早々です」

 セリアは無言で頷き、ティアへの報告書をしたためた。
 それは翌朝、さりげなくギルドの書類の中に紛れ込ませる形で彼女の手元へ届く。

研修三週目の昼下がり。
 昼食を終えたティアは、制服の胸元をそっと直しながら、休憩室の姿見の前に立った。

 ギルドの制服は、深いネイビーブルーを基調としたジャケットに、肩口と袖口へ白い縁取りが施されている。
 胸元には金色の小さなギルド徽章が輝き、腰のラインをきゅっと絞るデザインが、華奢な体をより可憐に見せていた。

 スカートはミニ丈で、同じネイビーの地に二本の金色ラインが裾を走る。
 動くたびにひらりと揺れ、まるで舞台衣装のような軽やかさを纏っている。

 足元は膝までの白いハイソックス。履き口近くに小さなギルドの紋章が刺繍されており、足を組み替えるたびにちらりと覗く。
 靴は光沢のある黒いパンプスで、控えめながらも上品な曲線を描くデザイン。
 全体的に、清楚でありながらも可愛らしさとおしゃれ感を兼ね備えた、まさに“憧れの受付嬢”らしい装いだった。

「……やっぱり、この制服は素敵だわ」

 その呟きに、すれ違ったアナスタシアが思わず吹き出す。
「ティア、本当にそれが志望動機だったの?」

「ふふ、ええ。それがきっかけでしたの。でも……」
 ティアは少し目を細め、通りを歩く人々を窓越しに見やる。
「ここからだと、世界がよく見えるのです」

 柔らかな声の奥には、魔王としての冷静な光が宿っていた。

 邪神教団の影が、じわりと街を覆い始めている――それを、誰よりも早く感じ取っていた。
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