毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第三章 邪神教団と魔王

第二十四話 2人の想い

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邪神が消滅した後、静まり返った祭壇に足音が響く。
 真っ先に駆け寄ってきたのは、勇者パーティーの仲間たちだった。

 「ロディアスっ!」
 アリスが飛びつくように抱きつき、その顔に安堵の笑みを浮かべる。
 「やったね……本当に、やったんだね!」

 少し遅れてマイクが肩を竦めながら現れる。
 「おいおい、勝手にクライマックスを終わらせるなよ。
俺の出番、結局なかったじゃないか。」

 「フン、終わったから良いではないか。」
 パスティーは杖をつきながらも、誇らしげに仲間を見渡す。
 「だが、よくやった……勇者よ。
お主の一撃、確かに我が目に焼きついたぞ。」

 その頃、崩れた祭壇の向こうから別の一団が姿を現した。
 セリア、カイン、ルシェル、リシェル――ユスティティアの臣下たちである。

 「主様!」
 真っ先に駆け寄ったセリアが嬉しそうに報告する。
 「四邪王の残り三体、すべて討ち果たしました! 快勝でございます!」

 カインは鎧を血に濡らしながらも、口元に余裕の笑みを浮かべる。
 「ふん、骨のある奴らではあったが……我らの敵ではなかったな。」

 ルシェルとリシェルは揃って主へ一礼し、静かに誇らしげな視線を送った。

 ユスティティアはその報告を聞き、微笑みを浮かべる。
 「よくやったわ。
みんな……誇りに思う。」

 戦いの余韻が広がる中、彼女の姿がふっと揺らぎ、人間のティアの姿へと変わる。
 その変化を目にした勇者パーティーも、ユスティティアの臣下たちも一瞬ざわめく。

 だがティアは、落ち着いた声で告げた。
 「……ごめんなさい。
みんなには少し席を外してほしいの。
  ロディアスと……二人きりで、話がしたいの。」

 仲間たちは顔を見合わせ、互いに言葉を飲み込む。
 アリスが小さくうなずき、パスティーも意味ありげに笑って背を向ける。
 セリアは一瞬だけ主を見つめ、理解を示すように深く頷いた。

 ――こうして、勇者と元魔王はついに「二人きり」で向かい合うことになる。

静まり返った祭壇の奥。
 勇者と魔王――二つの存在が、人間としての顔を取り戻した少女と共に向かい合っていた。

 ティアはしばらく目を閉じ、深呼吸をひとつ置いてから口を開く。

 「……もう、わかっていると思うけど。
私は……人間じゃないの」
 その声は震えてはいなかった。ただ、覚悟を決めた者の声音。

 「私は神魔族……魔界の魔王。
  憤怒の魔王ユスティティア。
  ――それが、本当の私」

 長い沈黙の後、彼女は小さく微笑む。
 「驚いた?」

 ロディアスは難しい顔をしたまま、しばし彼女を見つめ続ける。
 そして一言だけ、静かに答えた。

 「ああ、驚いた」

 その声音には怒りも拒絶もなく、ただ真実を受け止めた者の重みがあった。

 「それでも――ティアはティアだ」
 ロディアスは静かに言い切った。

 その言葉にティアの胸が熱くなる。
 彼女は小さく笑みを浮かべ、少しだけ視線を逸らす。

 「……やっぱり勇者は強いわね」
 「?」
 「心も、想いも。
あなただけは――絶対に敵に回したくない」

 ロディアスは即座に首を振った。
 「俺がティアの敵になるなんてことは、絶対にない」
 彼の真っ直ぐな瞳がティアを射抜く。
 「……だって、ティアは俺の大事な人だから」

 その言葉に、ティアの心臓が高鳴る。
 強大な魔王としての自分でも、ひとりの少女としての自分でもない。
 ただ「ティア」として見てくれる、その事実が胸に深く響いていた。

二人の唇が触れ合った瞬間、周囲の空気がふっと柔らかく変わった。
戦いの緊張は霧のように消え、そこに残るのはただ一つ――確かな愛情。

アリスは胸に手を当てて、ぽろぽろと涙を零した。
「……うぅ、ロディアス……ティアさん……よかったね……」
その泣き顔は、どこか幸せそうでもあった。

マイクは腕を組み、ひとつ頷いてみせる。
「……ああ、やっと腹を決めたか。いいじゃねえか」

パスティーは目を細めて笑い、肩をすくめる。
「ホーホホ、若いのう。
勇者と魔王の恋物語、まるで伝説じゃ」

一方で、セリアは少し複雑な表情を浮かべていた。
だがすぐに、その険しさは主の幸せそうな微笑みを見て和らぐ。
「……主様が笑っているなら、それでいいのです」
そう呟く声には、深い安堵が滲んでいた。

カインは腕を組んで冷静を装いながらも、視線を逸らす。
「……勇者と……キス、か。
……どうにも複雑だな」

対照的にリシェルとルシェルは顔を輝かせ、きゃあきゃあと声を弾ませる。
「きゃーっ! ロマンチックすぎるっ!」
「こんな劇的なキス、初めて見たわ!」
二人のはしゃぐ声に、場の空気がさらに和らいでいった。

――勇者と魔王。
相容れぬはずの存在が、運命を越えて結ばれた瞬間だった。

二人は結婚した。
数え切れないほどの人々に祝福され、子供は作れないけれど――ティアは常に人間の姿のままで、ロディアスと穏やかな日々を共にした。

そして、85年の歳月が流れた。

その間、ティアはただの一度も姿を変えず、ロディアスの隣で人間としての幸せを紡ぎ続けた。

山間の小さな家で、晩年を迎えたロディアス。
白髪で背を曲げ、歩くのもゆっくりになったロディアスに、ティアは若き日美しい姿のまま寄り添っていた。

「ティア、今日は気分がいいんだ。
 眺めのいい丘に行かないか?」

「ええ、行きましょう」

二人のお気に入りの場所。
見晴らしの良い丘に並んで腰を下ろす。

ーーティアはロディアスの横顔をじっと見ているー

どんな言葉で、今あなたに私の気持ちを伝えられるかしら。
あなたほどではないけど、私も器用なほうじゃないから。
いろんな事があったよね。
まあ、時にはちょっと辛いと思った事もあったけど、あなたが居たから乗り越えられた気がする。
もし、今この世界が無くなったとしても私はあなたの事を忘れる事はないわ。

ーーロディアスはティアの横顔をゆっくりと静かに見たー

本当にこれは現実なんだろうかと時々思う。
何の取り柄もないこんな俺の人生にこんな素敵な人が寄り添ってくれていた。
出会った頃と何も変わらない可愛い人。
俺はこの人の幸せを守れたのだろうか。
守れてたら嬉しいな。

「ティア。
君は出会った頃のまま……凄く、きれいだ」

「ありがとう。ロディアスも、とても素敵よ」

「ははは……ティアに出会った頃を思い出すよ。
世の中にこんなに可愛い女性がいるのかと思った」

「あらあら、それは嬉しいわ。
アリスがよく言ったわよ。
『ロディアスはいつもティアのことばかり褒めるんだから、贅沢者だ』って」

「……俺は幸せ者だ。
俺はどんな事があっても君を守ると心に決めていた。
ティアを幸せに出来たのだろうかとずっとずっと不安だったよ。」

「大丈夫よ。
いっぱい幸せを貰ったわ。
私をもっと幸せにしてくれないとダメだからね。」

「ははは、そうだね。」

邪神と教団が滅びたあと、世界は平和の時を謳歌した。
新しい勇者も現れ、勇者継承の儀が終わったことで、ロディアスはそのすべてを次代に託していた。

「ティア……ありがとう」

「ううん、私こそ……ありがとう」

――それから一週間後。
勇者ロディアスは静かに生涯を閉じた。

ティアは動かぬ夫のそばで、三日三晩泣き続けた。

彼女の涙は途切れることなく、大地を潤す雨のように流れ落ちた。

そして――

勇者と魔王の物語は、ひとつの幕を閉じた。
だが、その愛の軌跡は、永遠に語り継がれていくのだった。
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