毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第四章 闇の王国編

第三十話 学園と生徒会と

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夜、ティアの部屋。
召喚した双子、リシェルとルシェルが静かに跪き、それぞれノートのようにまとめたメモを手にしていた。

「ご報告します、主様」
「寮内と学園で注目すべき人物についての情報を集めました」

二人の声が重なるように、淡々と名を告げていく。

――ザザルン王国第一王子エルリン。学園の三年生にして、生徒会会長。
――その従兄弟にあたるアーセナス公爵家の長男レゼント。三年、副会長。
――レントマール伯爵家の長女アーシェリー。三年、書記。
――フィレン帝国のランスロット。三年、会計。
――ホーデンス伯爵家の長男ワーグナス。三年、規律委員長。

そして――二年には第二王子フィレンツ、その婚約者である一年生のシャーロット。

「さらに、特待生として……ラーゼランス公国ランド伯爵家長男、セスの名も挙がっています」
リシェルが最後に告げた。

ティアは椅子に腰かけたまま、指先でテーブルを小さく叩いた。
(……なるほど。学園の中心を握る生徒会の構成、王族の動き……そしてあのシャーロット。
第二王子も2年生にいるのね。
今は少しシャーロットとが気になるわね。)

ティアの瞳がわずかに光を宿す。

「リシェル、ルシェル」
「はい」
「はい」

「特に気になるのは、第二王子フィレンツとその婚約者シャーロット。」

ティアは冷ややかに微笑む。
「――王子と彼女を調査しなさい。
素性、周囲の交友関係、評判、習慣、すべてを。
……“ただの婚約者”か、“国内外の繋がり”を持つのかを確かめるのよ」

「御意」
「承知しました」

双子は声を揃えて頭を垂れた。

ティアは窓辺に立ち、月を見上げる。
(学園……ロイスとの連携も重要になりそうね。
さて、誰とどの様に接触していくか。
まだまだ油断できないわ。だけど――面白い)

朝――学園の正門。
制服に身を包んだ生徒たちが登校する中、群衆の視線が一点に集まる。

堂々とした足取りで現れたのは、生徒会長にして第一王子エルリン。
温かな笑みを浮かべ、誰彼となく軽く声を掛けながら歩く姿はまさに“王子そのもの”。
その振る舞いに、生徒たちは尊敬の眼差しを向けていた。

(……なるほど。確かに人望が厚いわけね)
ティアはその光景を観察しながら、内心で冷静に分析した。

だが次の瞬間、後方から別の注目が集まる。

第二王子フィレンツ。
髪を何度も撫でつけ、歩くたびに「俺を見ろ」と言わんばかりの仕草を繰り返す。
その隣には、当然のように寄り添うシャーロット。

(……ふふ、これは……典型的なナルシストの勘違い王子様、かしら)
ティアは表情に出さず、内心でため息をつく。
「今は関わらない方が賢明ね」と判断し、そのまま教室へと向かう。

廊下の角を曲がったところで――。

「やあ」
静かな声が響き、ティアの歩みが止まる。

銀色の髪を持つ少年が、窓際の光を背にして立っていた。
どこか人を惹きつける不思議な雰囲気をまとったその瞳が、まっすぐにティアを射抜く。

「君が噂の転入生だね。
僕はセス。……君は?」

ティアは思わず背筋を伸ばし、優雅に微笑んで応じた。
「私はティア・リブンですわ。――もしかして、特待生の?」

その瞬間。
セスの口元に浮かんだ微笑みと、ティアの心に走った微かなざわめき。
――この出会いが、ティアの運命に大きな影響を与えていくことになる。

魔法学園二日目――。
ティアとロイスは職員室に呼ばれ、別室へと案内された。

そこには金属で組まれた近代的な箱型装置と、その中央に鎮座する大きな水晶球。
まるで古代と現代の技術が混ざり合ったかのような、異質な空気を放っている。

「ここに手を置いてください」
淡々と告げる職員の声。

ティアが一歩前に出る。
心の中で(……うぅ、壊れないでよ、壊れたりしたら面倒だわ)とぼやきつつ、そっと水晶に手を重ねた。

瞬間、装置の内部が低く唸り、デジタル表示が一気に数値を跳ね上げる。

【300】

「っ……! さん、300!? 
こ、こんな数字、見たことが……!」
職員が息を呑み、水晶は濃い赤色を帯びて輝き始めた。

「炎属性……それも極めて濃い……。
上位魔法の炎なんて信じられません」

――ティアは涼しい顔をしていたが、内心では(よし、爆発しなかったわね)と心底安堵していた。

続いてロイス。
やや緊張した面持ちで手を置くと、水晶が金色の光を帯びて輝き、表示は【200】を示した。

「おおっ……! 二百!? 
これもまた……学園でもトップクラスの数値です。しかも金色……聖属性に適性があるなんて、実に珍しい」

職員の声は驚嘆と興奮を隠せない。

ティアとロイスは顔を見合わせ、同時にほっと息をついた。
(よかった……水晶も機械も無事ね)

職員室に戻ると、担任のマクセラン教師が報告書を受け取って豪快に笑う。
「いやぁ、すごいじゃないか二人とも! 転入早々、学園の期待の星だな!」

その言葉に、ティアとロイスはそろって苦笑いを浮かべ、教室へ戻っていった。

教室に戻ると、すぐにメリルが駆け寄ってきた。
「ティア、魔力測定どうだったの?」

「ああ、まあ……問題なかったわよ」
ティアはできるだけ何でもない風を装って答える。

「問題? 
測定するだけだし、問題なんて起きないと思うけど……?」
首をかしげるメリルに、ティアは慌てて笑みを作った。

「そ、そうよね。
うん……測定して、マクセラン先生にも“良い結果だ”って褒められたのよ」

「やっぱり! 
ティアなら絶対すごい結果が出ると思ってたの!」
目を輝かせるメリル。

ティアは少し迷った末に、さらりと言ってしまった。
「えっと……たしか、“300”って言ってたけど……それって凄いの?」

――次の瞬間。

クラス中が「……っ!?」と一斉に息を呑んだ。
教室の空気がぴん、と張り詰め、誰もがティアを凝視する。

「300……!? 
聞いたことない数値だぞ!」
「普通は100を超えるだけでも一目置かれるのに……!」
「ティアさん、本当にすごいんだ……!」

あっという間にクラス中から称賛と驚きの声が飛び交い、ティアの席の周りは人だかりになった。

――しまった。
(やっぱり言わなきゃよかったかも……?)
内心で頭を抱えつつも、笑顔を崩せないティア。

そんな光景を少し離れた席から見ていたシャーロットは、唇をぎゅっと噛みしめていた。
「(……生意気な転入生め。王子妃候補としての私より目立つなんて、許せない)」

嫉妬と苛立ちを隠しきれない瞳が、ティアを鋭く射抜いていた。

昼休みにはもう、学園中がざわめいていた。
――「転入生が魔力300を叩き出したらしい」
その噂は瞬く間に広がり、生徒会にも届いていた。

副会長レゼントが書類を手にしながら口を開く。
「エルリン。
この前編入した一年一組のティア・リブン嬢……魔力測定で300を出したそうだ。
凄い逸材だよ」

「300……?」
会長エルリンは驚きつつも、目を細めて微笑む。
「それは途轍もない数値だね。
一度会って話をしてみたい。
……レゼント、彼女を生徒会室に招いてくれないか?」

その時、会計ランスロットが机を叩くように声を上げた。
「会長、300なんて何かの間違いでしょう! 
噂を鵜呑みにするべきではありません」

すかさず書記のアーシェリーが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「あら、嫉妬かしら? 
確かランスロット、あなたは100にも届かなかったわよね」

「なっ……!? 
お前こそ、たった100程度で得意げになるな!」
売り言葉に買い言葉、二人は火花を散らす。

すると、エルリンが軽く咳払いをして二人を制した。
「そこまでだ。
ティア嬢が本当に300なのかは置いておくとしても……少なくとも気になる存在なのは確かだろう。僕は会ってみたい」

――その日の放課後。

一年一組の教室に、堂々とした足取りで副会長レゼントが現れた。
「失礼。」

教室の生徒たちは一瞬でざわめき、驚きに声を漏らす。
「れ、レゼント様……! どうしてこんなところに……」
「副会長が直々に……」

「ティア・リブン嬢の教室はここで良いのかな?」
レゼントが問いかけると、すぐに誰かが慌てて答えた。
「は、はい! 
そこの席に……ティア!」

名前を呼ばれ、メリルと談笑していたティアが顔を上げる。
(……う、嘘でしょ。
生徒会副会長が、私に?)
心臓が跳ね、内心たじろぎながらも立ち上がった。

レゼントはティアに近づくと、穏やかな笑みを浮かべて告げた。
「あなたがティア・リブン嬢ですか。
噂通り……とても美しく可憐な方だ。
会長のエルリン殿下が、ぜひ一度お会いしたいと仰っている。
帰り際で申し訳ないが、生徒会室までご足労願えますか?」

そこまで丁寧に言われてしまえば、断る理由などない。
ティアは小さく息を飲み、精一杯の笑みで答えた。
「……は、はい。わかりました」

こうしてティアは――生徒会の扉を叩くことになった。



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