毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第四章 闇の王国編

第三十二話 暗躍する者達

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セスは食堂に入ると、ちらりと生徒たちを見回した。
……ティアはいない。

確認を済ませると、足早にその場を去る。
校舎裏の人けのない場所で、制服の内ポケットから黒い金属片を取り出した。

「――接続」

低く呟いた瞬間、空間がかすかに震え、淡い光が端末に走る。
それは通常の魔導通信と異なり、亜空間を介して行われる絶対秘匿の通信だった。

「こちらセス。
勇者ロイスと、その仲間ティアが生徒会と接触した。
まだ深くは踏み込んでいないが、俺も機会を見て会長に近づく」

すぐに、無機質な男の声が返る。
『気をつけろ。
生徒会は表向きは穏健だが、内部は別だ。
お前の正体が露見すればただでは済まん』

「分かってる。
……勇者ロイスが何をしに来たか、掴めたか?」

『いや。
だが、恐らくは――バザルトン王国の件だろう』

『なら優先は“アレ”の情報だ。
勇者の動向は二の次でいい。
くれぐれも独断はするな』

セスは小さく鼻で笑う。
「心得てるさ」

通信はぷつりと途切れた。
彼は端末を懐へ戻し、背を預けるように壁に凭れた。
瞳の奥に、獣のような光が一瞬走った。

──その頃。

ティアはメリルと並んで食堂へ。
「ごめんね、メリル。
資料の整理、付き合わせちゃって」

「いいってば。
友達でしょ? 
何でも頼って!」

「助かる~」

二人はすっかり打ち解けていて、もう敬語も取れていた。
ティアにとってはこの自然な会話が心地よかった。

「ねえ、メリル。
……こんな噂、聞いたことない?」

「噂?」

「バザルトン王国が侵攻されたって。
船で来る時に、船員さんが話してたの。
怖くて……夜も眠れなくなっちゃって」

ティアはわざとらしく、弱い少女を演じるように声を震わせた。

「うーん……私は聞いたことないなあ。
バザルトン王国って海商で栄えた国でしょ? 
学園にも出身の子がいるかもね」

ティアの心がピクリと動いた。
(……しまった。
その可能性を考えてなかった)

「もし見つけたら教えて。
変な噂のままだと、気になっちゃうから」

「分かった! 
それとなく聞いてみるね」

メリルは社交的で顔も広い。
ティアは内心でニヤリとした。
(……利用できるわね。
見つかればラッキー、まあそうで無くても居ないのであれば、やはり侵攻にはこの国が関わっている可能性が高くなる。)

セリアはその夜、酒場から戻るとすぐにティアの部屋へと姿を現した。
「主さま。戻りました。」
「セリア、ご苦労様。
何か掴んだようね。」

彼女は軽く息を整え、真剣な面持ちで報告を始めた。

「はい。
先程、酒場で情報を得ました。
……ですが、同時に覆面の男たちの襲撃を受けました。
例の、船で私たちを狙った連中の仲間かと。」

「ふふ、つまりその情報は、誰かにとって“決して知られたくない事実”というわけね。」

ティアの言葉に、セリアは静かに頷く。

「冒険者の話によると――バザルトン王国が壊滅したのは事実のようです。
しかし、それはザザルン王国がどうしても滅ぼさなければならなかったからではない。
彼らにとっては標的がどこであってもよかった。
ただ……“ある兵器”の性能を試すために侵攻した、と。」

「兵器……?」

ティアの瞳が、鋭く光を宿す。

「はい。
名を“機動兵器”と呼んでいました。
極秘裏に製造されていたらしく、その実験としてバザルトンが選ばれたと。
数日のうちに一国を滅ぼすほどの力――。
冒険者たちの怯え方からして、虚言ではないと考えます。」

部屋に重苦しい沈黙が落ちた。
ティアは長い髪を指先で弄びながら、小さく吐息を漏らす。

「なるほど……数日で国を滅ぼす兵器、ね。
情報としては十分すぎるわ。」

「はい。
ですが、その冒険者たちは口封じにより殺されました。
私が姿を消した直後に。」

「……徹底しているわね。なら、この情報は相当に価値がある。」

ティアは小さく微笑み、セリアの肩に手を置いた。
「よくやったわ、セリア。
これはすぐにロイスにも共有しましょう。」

こうして、バザルトン王国壊滅の真相に新たな線が引かれた。
それは、ただの戦争ではなく――新兵器の実験。
陰で渦巻く巨大な力の存在が、確実に浮かび上がりつつあった。

翌日の昼休み。
ティアは校舎の中を歩きながら、ひとりの人物を探していた。
――セス。
彼は何かを知っている。
昨日からずっと、そう感じてならなかった。

やがて、廊下の先を歩く背の高い青年の姿を見つける。
「セス。ちょっとお話がありますの。
お時間、宜しいかしら?」

呼び止められたセスは一瞬だけ目を細めたが、すぐに肩をすくめる。
「……ああ、いいぜ。」

二人は人気のない生徒準備室へと入り、椅子に腰を下ろした。
ティアが切り出す。
「セス。
あなた、ロイスお兄様と話したでしょう? 
随分と失礼な物言いをしたようだけど……何のつもりかしら。」

セスは机に肘をつき、低い声で笑った。
「ロイスが勇者だってことは、お前も知ってるんだろう? 
そうなると……ティア、お前は差し詰めロディアスの娘か。」

ティアは心臓が跳ねるのを感じたが、顔には出さない。
咄嗟に起点を利かせて、その言葉を肯定する方向に舵を切る。
「もちろん、ロイスお兄様が勇者だとは知っているわ。
……でも、どうして“ロディアスお父様”のことまで知っているの?」

「やっぱりそうか。」セスは満足げに頷く。
「昔な、色々あったのさ。
ロディアスには恩があって……だから知ってるんだ。
俺にとっても命の恩人だった。」

そして、彼はティアを鋭く見据える。
「次期勇者と、その娘。
さぞかしお強いんだろうな。
……もっとも、実際は護衛に守られてばかりみたいだが。」

ティアの護衛たちの存在を知っていることを示しつつ、セスは淡々と続けた。
「まあいい。
で、何を掴んだ? 
わざわざ俺に声をかけたってことは、進展があったんだろう。」

ティアは瞳を細め、声を低くする。
「……バザルトン王国侵攻の真実よ。
知りたい?」

「ふん、言うと思った。」セスは小さく笑った。
「残念ながら、それは俺も知ってる。
だが、どうせお前が聞きたいのは……“機動兵器”の話だろ?」

「……話が早いわね。
では、機動兵器とは一体何ですの?」

その問いに、セスはしばし黙り込む。
だが、やがて小さく息を吐き、目を伏せた。
「ああ……そこまではまだ分かってなかったか。
……アレは、ヤバい代物だ。
それ以上は知らない方がいい。
お嬢様のお遊びにはちょっと荷が重い。
俺から言えるのはそれだけだ。」

「わたくしは逃げも隠れもしませんわ。
ロイスお兄様は負けない。
それに、私には護衛がいる。
とても強いのよ。」

ティアが毅然と告げると、セスは鼻で笑った。
「ははは。強くても……アレには勝てない。
俺は忠告したからな。」

それだけを残し、セスは椅子を引いて立ち上がり、重い足取りで部屋を後にした。
残されたティアは深く息をつき、机の上に視線を落とす。
――“アレ”。機動兵器。
その言葉の不気味な響きだけが、胸の奥にいつまでも残っていた。

夕暮れ時。
ティアとメリルは連れ立って街に繰り出していた。日の高いうちはそう危険もないと判断し、護衛としてセリアを一人だけ同行させている。

「メリル。どこに行きましょうか?」
「そうね……カフェに行きたいわ。」
「まぁ、良いですわね。」

二人は街で評判のカフェに入り、店内を見回して目を輝かせた。
女子学生たちがテーブルを囲み、皿の上のふわふわとしたものを頬張っている。

「メリル、あれは何を食べているのかしら?」

「ティア。
あれはパンケーキよ。
ふわふわで、とろけるように甘くて、口に入れると幸せになれる食べ物なの。」

「まあ……それはぜひ食べなくては!」

パンケーキを注文し、二人は甘やかな時間に身を浸す。
話題は学園のこと、寮での出来事、そして恋の噂話まで尽きることなく、気がつけば二時間も経っていた。

「もう薄暗くなってきたわね。
そろそろ戻らなきゃ。」

「そうね。寮の門限は19時だもの。」

外に出ると、入口脇で待っていたセリアが一礼した。
「ティアさま、メリルさま。
もう宜しいですか?」

「ええ、堪能しましたわ。
帰りましょう。」

三人で歩き出して、数分後だった。
ティアとセリアは同時に気づいた。
――空気のざらつき、背後から忍び寄るような気配。
だが、メリルは無邪気に鼻歌まじりで歩いている。

ティアはすぐに決断した。
「セリア。
私、ちょっと忘れ物をしてしまったみたい。
メリルを先に送って差し上げて。」

「え? 
ティア、忘れ物? 
大丈夫?」と、メリルが振り返る。

「ええ、すぐに追いつくわ。」
「……わかったわ。
門限は十九時だからね。
遅れないでね。」

メリルは小さく手を振り、セリアに伴われて歩いていく。
ティアも笑顔で手を振り返したが、表情が途切れた瞬間、瞳には鋭い光が宿った。

――忘れ物など、初めからない。
これはただ、メリルを危険から遠ざけるための方便。

ティアは足早にカフェの方向へ戻るふりをし、そっと路地裏へと身を翻した。
背後に潜む殺気を確かめるために。
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