毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

文字の大きさ
54 / 162
第七章 シャクイードの使者

第五十四話 魔法大祭典

しおりを挟む
魔法大祭典の日。
学園中がざわめきと熱気に包まれていた。各会場には観客席が設けられ、保護者や他学年の生徒たちが詰めかけている。

「三試合目! 一年一組 VS 一年三組!」
実況役の教師が声を張り上げ、会場がさらに沸いた。

ティアは深呼吸をしてクリスタルの前に立つ。
観客席のあちこちから「鉄壁のティアだ!」「守備最強だぞ!」と声援が飛ぶ。
男子達の視線が集まるのを肌で感じ、思わず頬を赤らめてしまった。

「ティア、頼んだわよ!」
ナディアの声に、ティアは力強く頷いた。

試合開始の笛が鳴る。
瞬間、三組の前衛が猛攻を仕掛けてきた。炎弾、氷槍、風刃──次々と飛来する魔法がクリスタルへ迫る。

しかし、ティアは落ち着いていた。
「【多層防壁】!」
透明な魔法障壁が重なり、光の層となってクリスタルを覆う。攻撃魔法はことごとく弾かれ、まるで美しい花火のように弾け散った。

「くっ……全然通らない!」
三組の生徒が焦りの声を上げる。

一方で、前衛のクラニル、ランクルリット、カルリットの三人は大声を張り上げて突進した。
「今だ! 全力でいけ!」

エマとナディアが支援魔法で彼らを後押しする。
ついに男子三人の放った連携魔法が相手の防御を打ち破り、三組のクリスタルに直撃した。

──ゴォォォォン!!

会場に鳴り響く勝利の鐘。

「勝者──一年一組!」

観客席からは歓声と拍手が湧き起こる。
「やっぱり鉄壁のティアだ!」
「守備完璧すぎる!」
「可愛いのに強いとか反則だろ!」

照れくさそうに笑うティアを中心に、チームは初戦を快勝で飾ったのだった。

少し休憩を挟んで2回戦が開始される。
次の相手は3年生優勝候補。
3年1組はシードで一回戦を戦っていないが、模擬戦でも全く他のクラスを寄せ付けない強さを見せていた。

「これより、2回戦目を開始します。
3年1組と1年1組の生徒は集合して下さい。
そして、2回戦よりルールが追加されます。
敵のチーム全員に一定ダメージを与えても勝利となります。」

アナウンスが流れると会場は一層盛り上がりを見せた。

魔法競技試合チーム戦は勝ち上がり2回戦以降ルールが追加される。
より戦略的要素が追加される。
2回戦目からはクリスタルを守るだけでは勝てなくなる。
味方が一定ダメージを受けて全員戦闘不能になると負けとなる。

競技用のスーツには2回戦からダメージカウンターがダウンロードされる。
一定ダメージを受けると白いスーツが真っ赤になりその時点で戦闘不能と見なされる。
場外に退去しなければならない。

対戦相手の3年1組には、デビッド・グロリアスとセリカ・ビンセントの2人が双璧として前衛に立つ。

神速の魔皇子と呼ばれ、電撃で一瞬にして相手を黙らせるデビッド。
風絶の飛鳥と呼ばれ、神速の風になり相手を一瞬で薙ぎ倒すセリカ。
この2人がティア達の前に立ちはだかる。

ナディア達はその威圧感に息を呑んでいた。
ティアもその威圧感にどう対処すべきか思案していた。

観客席は立ち見が出るほどの人だかりとなり、試合開始前から地鳴りのような歓声が響いていた。
「おい見ろよ!一年と三年一組が当たるぞ!」
「デビッドとセリカのコンビだろ?
一年なんて瞬殺されるに決まってる!」
「でも鉄壁のティアがいるんだぜ? 
ちょっとは面白い勝負になるんじゃねぇか?」
会場は熱狂と期待で揺れていた。

「ティア、大丈夫?」
ナディアが心配そうに声をかける。

「うん。
……でも、ただ守るだけじゃ勝てない。
攻めるチャンスを見つけないとね。」
ティアは静かに答える。

開始の合図を待つ両チーム。
対峙した瞬間、空気が変わった。

デビッドの身体からはビリビリと青白い電撃が漏れ、場の空気を焦がす。
セリカの髪は風に舞い、まるで嵐そのものがそこに立っているかのようだった。

「鉄壁のティアか……噂通りなら楽しませてくれよ。」
デビッドが薄く笑う。

「可愛い後輩ちゃん。あんまり泣かせるのも趣味じゃないんだけど……」
セリカが挑発的にウインクする。

その威圧感だけで、クラニル達前衛三人は汗を垂らし、エマとナディアは息を呑んでいた。

ティアは一歩前に出る。
「……泣かされる気はないわ。
私達だって、一年生の力を見せる!」

──ピィィィィィッ!!
笛の音と同時に、試合が始まった。

瞬間、デビッドの身体が雷光に包まれ、稲妻の閃光と共に前線へ。
同時にセリカの姿が風に溶け、まるで消えたかのようにティアの視界から消え失せる。

「っ……速い!」
ナディアの悲鳴にも似た声が響く。

初手から、神速の双璧が一年生チームに牙を剥いた──。

開始の笛が鳴ると同時に、デビッドとセリカが一気に飛び出した。
「行くぞ、セリカ!」
「ええ、瞬殺で終わらせるわ!」

雷と風が交差する。
デビッドの雷速の突撃とセリカの風斬りは、前衛に立ったクラニル達3人を一瞬で飲み込んだ。

「うわっ――!」
「防げねぇ……!」
「ぐっ……!」

雷撃を浴び、風の刃に吹き飛ばされ、男子3人はスーツが赤く染まる。
開始わずか十数秒で戦闘不能――その速さに会場がどよめいた。

「……嘘だろ……」
観客席から悲鳴にも似た声が上がる。
「一年の前衛が、瞬きする間に……!」

残されたのは、エマとナディア、そしてティアのみ。

「二人とも!私が援護するわ!」
ナディアが結界を張り、エマが氷の槍を次々と放つ。
風と雷を相手にしながら、必死に前へと踏み込む。

「……ふん、やるじゃない。」
セリカが風の刃で氷槍を切り裂く。
「だけど、その程度じゃ――!」

「まだっ……!」
ナディアの声が震える。
必死に結界を重ね、仲間を守ろうとするが、次の瞬間、デビッドの稲妻が結界を貫いた。

「くっ……あぁっ!」
ナディアのスーツが真っ赤に染まり、場外へと退場させられる。

「ナディアッ!」
エマが叫びながら氷壁を展開し、最後の抵抗を試みる。
だが――

「遅い!」
デビッドの雷撃が壁を破り、セリカの風がエマを吹き飛ばす。
「きゃああっ!」
彼女のスーツも真っ赤に染まり、無念の退場となった。

残るは、ティアただ一人。

「……なるほど。」
仲間が倒れていく様を見届け、ティアは静かに瞼を伏せた。

「本気を出す事は無いと思っていたけれど――」
唇に笑みが浮かぶ。

ー学園では全力の1%未満と決めていた。
……その1%が先輩達を上回るか。先輩達が私の1%を超えてくるか。
ちょっと、面白そうじゃない。ー

その瞬間――

ティアから放たれた魔力の波動がホールを覆った。
空気が凍りつき、観客は一斉に息を呑む。

「な、何だ……この圧……!」
「一年生……だと……!?」

デビッドとセリカすら、思わず動きを止める。
ティアが解放した“わずか1%”の魔力は、絶対的な存在感でその場を支配していた。

「……さぁ、ここからが本番よ。」

鉄壁の守護者は、孤高の戦士へと姿を変えた。

ティアの前に立ちはだかるのは、雷と風の双璧。
デビッドの電光が閃く。
セリカの疾風が駆け抜ける。

――だが、そのすべてをティアはかわしていた。

「っ……速い!?」
デビッドの雷撃が彼女の頬をかすめる。
「私の風より速い……だなんて!」
セリカの突撃が空を切る。

ティアの身体は光を帯びる様に滑らかに、しなやかに躱していく。
回避の一閃、その反撃の一撃。
普通の観客には全く追えない。
ただ光と衝撃だけがホールを支配し、目の前で何が起きているのかさえ理解できなかった。

「――ッはは!」
デビッドの口元に笑みが浮かぶ。
「こんな奴が……一年にいるのか!」
セリカの瞳も、戦いの昂揚に輝いていた。
「最高じゃない!」

三人は常人の目には見えぬ速さで攻防を繰り返す。
雷と風が交わり、そこにティアの光刃が閃く。
避け、躱し、撃ち合い、またすれ違う。

――それでもティアは一度も“守り”に徹しない。

(私は……1%以上は出さない。
さあ、先輩達、私の1%を超えて見せて)

容赦ない速度戦は次第にデビッドとセリカの肉体を蝕んでいった。
呼吸は荒く、魔力は限界を迎えつつある。
それでも二人は笑みを浮かべる。
ーくぅ、もう限界だー
ーあの子、息も切らせてないのにー
2人は遂に限界を超えた。

「デビッド、合わせるわよ!」
「ああ、来い!」

二人の連携が頂点に達する。
雷と風が一条の槍となり、ティアを狙う。

「……っ!」
先輩達、早くなってる
初めて、ティアの視界に閃光が迫った。
避けきれない。

雷光が身体を穿ち、風刃が背を叩く。
「……っああ!」

白いスーツが一気に真紅に染まった。
次の瞬間、ティアの身体は光に包まれ、場外へ転送されていく。

「――……負けた?」
観客席がどよめく。

鉄壁のティア、絶対無敗と囁かれた少女の敗北。
だがその表情は、不思議なほど晴れやかだった。

「……いいわ。
先輩達、私の1%に……届いたのね。」

観客が息を呑み、歓声が爆発する。
デビッドとセリカは肩で息をしながら、互いに拳をぶつけ合った。

「最高の相手だったな。」
「ええ――あんな一年生、見たことないわ。」

敗北と同時に、ティアの存在は学園全体に刻み込まれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...