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第九章 新学期編
第七十一話 ゴルドー山脈の転移装置
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ティアは冷たい空気の漂う地下拠点へと降り立った。
そこには捕らえられた教団員たちが拘束されている。
もちろん、あらかじめ自害用の毒や呪詛はすべて無効化してある。
「さあ――学園や街で攫った女性達はどこ?」
ティアの声は静かだが、その瞳には一片の情もない光が宿っていた。
教団員のひとりが嘲笑を浮かべる。
「……勇者ロディアスの娘、ティア。
やはり危険すぎる。
我らはお前を警戒した。
学園での実験も、お前の実力を測るため。
従者達の動向も、国の裏も探らせてもらった。
……だが攫った女たちは、もうここにはいない。」
狂気じみた目でこちらを見据える。
「さあ、どうする?」
ティアは一瞬だけ目を伏せ、そして振り返った。
「アーサー、ごめんね。
……少し、この人達に“口を割って”もらうわ。
あなたには……見せたくない。」
「……わかった。」
アーサーは硬い表情を浮かべたが、それ以上は言わず、転移で姿を消した。
静寂。
次の瞬間、ティアの手にした剣が閃いた。
「ギャアアアアアアアッ!!!」
拘束された教団員の片腕が無残に地面へ転がり、血が飛び散る。
ティアは冷ややかに見下ろした。
「さあ、どうやって運んでいるのか、答えなさい。
次は足か、残りの手か……。
あなたが死んでも、まだ四人残ってる。
口さえあれば答えられるでしょ?」
その顔は、誰が見ても悪魔そのものだった。
「ク、クク……そ、そんなことで……わ、我らが……」
挑発するような言葉が漏れる。
シュッ――。
もう片方の腕が切り落とされる。
「ギャアアアアアアアッ!!!」
絶叫が地下に響き渡り、残る教団員たちの顔は蒼白に染まる。
ティアは微かに笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。
死にそうになったら蘇生してあげる。
……何度でもね。」
その声に、囚われの教団員たちは凍りついた。
悪魔のような少女が、微笑みながら地獄を約束している――。
――数時間後。
地上へと転移したティアは、冷たい風に髪を揺らしながら待っていたアーサーのもとへ歩み寄った。
「アーサー。
……お待たせ。」
彼は一瞬、言葉を失った後、低く問う。
「……拷問したのか?」
ティアは淡々とうなずいた。
「ええ。……その甲斐あって、吐いたわ。
ゴルドー山脈の高原に、大型の転移陣があるそうよ。」
「……そうか。」
アーサーの横顔に影が差す。彼は納得しきれない表情を浮かべながらも、ただ拳を握りしめた。
ティアは迷いなく命じる。
「急ぎましょう。
……ゲド、ヨル!
先行して転移陣を制圧しなさい!」
「御意。」
影のように、二人の臣下がその場から掻き消えた。
冷たい風が、ティアの頬を撫でていった。
その瞳には、迷いも躊躇もなかった――。
ゴルドー山脈――。
冷たい風が吹き荒ぶ高原に、禍々しい光を放つ大型の転移陣が展開されていた。
周囲には数十張もの黒いテントが並び、そこからは怪しい呪詛の気配が漂っている。まるでこの一帯そのものが、教団の祭壇に変貌しているかのようだった。
「……やはり大掛かりね。」
ティアが低く呟く。
まず、ゲドが無数の蟲を放った。
蟲たちは排気口や土の裂け目を伝い、テントの内部を隅々まで探り始める。
「主様。内部に捕らわれた女性が二十余名確認されました。
ほか、武装した信徒およそ五十、術者が十余り。……中枢は転移陣を守護する三名の上級司祭です。」
続いてヨルが闇に溶け、影そのもののようにテントへと接近した。
刹那――風が凍りつく。
「今だ。」
ヨルの気配が弾けた瞬間、ゲドの蟲が一斉に雪崩れ込み、テントの中を蹂躙する。
信徒の悲鳴が夜空を裂き、炎と呪詛が飛び交った。
「ぎゃあああっ! 蟲が、蟲がぁぁ!」
「影だ! 影が首を――ぐっ!」
ヨルは姿を見せぬまま、喉を裂き、心臓を貫く。
その動きは疾風のごとく、一撃ごとに信徒が屍となって倒れていく。
高原は瞬く間に修羅場と化した。
だが、中央の転移陣が赤黒く光を強め始める。
「くく……遅かったな、勇者の娘よ!」
テントの奥から現れた上級司祭たちが、両手を掲げ呪文を唱え始めた。
転移陣の紋様が脈動し、空気そのものが歪む。
何かが呼び出されようとしている――。
「……っ!」
遠くからその異様な気配を感じ取ったティアが表情を険しくする。
「ゲド!ヨル!転移陣を止めなさい!何があっても稼働させては駄目!」
「御意――!」
二人の臣下が同時に応じ、闇と蟲が奔流のように陣へ殺到した。
しかし――その瞬間。
転移陣が赤黒く爆ぜると同時に、テントを守っていた司祭たちは嘲笑と共に霧のように姿を消した。
「……逃げた?」
ティアは歯噛みし、周囲を見渡す。
だが、答えはすぐに現れた。
転移陣の中心から、異様な存在がゆっくりと姿を現したのだ。
翼を広げただけで空が震え、三対の眼が怪しく輝く。
その気配は紛れもなく、封印されし邪竜に連なる眷属。
「――愚か也」
重々しい声が大地を揺らす。
「我が主は、間もなく封印より解き放たれる。
お前たちはここで潰えよ。」
言葉と同時に、眷属が翼を一振りした。
凍りつく風が吹き荒れ、高原一帯が一瞬で氷獄へと変わる。
「っ……!」
ゲドの蟲はすべて凍りつき、動きを止めた。
ヨルの影すら凍結に囚われ、姿を隠す術を強制的に奪われる。
吐く息すら白く凍り、ただ立っているだけで膝が震えるほどの威圧。
「アーサー!」ティアは叫ぶ。
「女性たちを連れて離脱して! ゲド、ヨル、補佐を!」
「で、でも――」
「早く!」
ティアの一喝に、アーサーは歯を食いしばって頷いた。
「わかった……必ず戻る!」
ゲドとヨルが急ぎ拘束されていた女性たちを解き放ち、アーサーが転移の光を展開する。
その間、ティアは一歩前に出ると、炎を纏った掌を突き出した。
「――《劫火の球(インフェルノ・オーブ)》!」
轟音と共に放たれた灼熱の火球が、眷属の胴を直撃する。
咆哮を上げながら、眷属は山肌へ叩きつけられ、岩盤を粉砕しながら粉塵を巻き上げた。
「今よ!」
その隙に、アーサーたちは女性を抱え、高原から転移していった。
残されたのは、ティアと邪竜の眷属――。
雪煙の中から、なお健在の巨体がゆっくりと立ち上がる。
その眼は怒りと嘲笑を宿し、空気を裂くように羽ばたいた。
ティアの頬を冷気が切り裂く。
それでも彼女は微笑すら浮かべ、静かに構えを取った。
「さあ――相手は私よ。」
凍てつく大地を舞台に、ティアと邪竜の眷属との一騎打ちが、いま始まろうとしていた。
その頃、アーサー達は。
転移の光が収まると、アーサーの目の前に広がったのは、怯えきった女性たちの群れだった。
その顔ぶれを確認した瞬間、アーサーの胸に冷たい違和感が走る。
「……学園の生徒がいない?」
彼は慌てて女性たちに近寄り、息を荒げながら問いかける。
「おい、学園の生徒たちを見なかったか!?
攫われてきた子たちだ!」
だが返ってきたのは、首を横に振る怯えた声だった。
「いいえ……私たちは街で突然、襲われて……学園の子たちなんて見ていません。」
アーサーは絶句した。
血の気が引いていく。
――これは、ティアを誘い出すための罠だったのか。
「ティア……!」
胸騒ぎが全身を駆け抜ける。
彼は急いで再び転移陣を展開するが――。
「……なっ!?」
術式が弾かれ、ゴルドー山脈へと繋がらない。
幾度試みても、結果は同じだった。
「どうして……なぜ転移できない!?」
その時、背後で低く呟く声があった。
「……主様の魔力を感じない。」
アーサーは振り返る。
ゲドとヨルが、険しい表情で互いに頷き合っていた。
「そうか……!
あの場所自体が――巨大な次元結界トラップだったのか!」
アーサーの拳が震える。
次の瞬間、ゲドとヨルの姿がふっと消える。
「主様を探す。
我らに任せよ。」
その言葉だけを残し、臣下は闇に溶けていった。
残されたアーサーは拳を握り締め、唇を噛む。
「くそっ……俺は、何も……!」
どうすることもできない自分の無力さに、悔しさがにじみ出ていた。
そこには捕らえられた教団員たちが拘束されている。
もちろん、あらかじめ自害用の毒や呪詛はすべて無効化してある。
「さあ――学園や街で攫った女性達はどこ?」
ティアの声は静かだが、その瞳には一片の情もない光が宿っていた。
教団員のひとりが嘲笑を浮かべる。
「……勇者ロディアスの娘、ティア。
やはり危険すぎる。
我らはお前を警戒した。
学園での実験も、お前の実力を測るため。
従者達の動向も、国の裏も探らせてもらった。
……だが攫った女たちは、もうここにはいない。」
狂気じみた目でこちらを見据える。
「さあ、どうする?」
ティアは一瞬だけ目を伏せ、そして振り返った。
「アーサー、ごめんね。
……少し、この人達に“口を割って”もらうわ。
あなたには……見せたくない。」
「……わかった。」
アーサーは硬い表情を浮かべたが、それ以上は言わず、転移で姿を消した。
静寂。
次の瞬間、ティアの手にした剣が閃いた。
「ギャアアアアアアアッ!!!」
拘束された教団員の片腕が無残に地面へ転がり、血が飛び散る。
ティアは冷ややかに見下ろした。
「さあ、どうやって運んでいるのか、答えなさい。
次は足か、残りの手か……。
あなたが死んでも、まだ四人残ってる。
口さえあれば答えられるでしょ?」
その顔は、誰が見ても悪魔そのものだった。
「ク、クク……そ、そんなことで……わ、我らが……」
挑発するような言葉が漏れる。
シュッ――。
もう片方の腕が切り落とされる。
「ギャアアアアアアアッ!!!」
絶叫が地下に響き渡り、残る教団員たちの顔は蒼白に染まる。
ティアは微かに笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。
死にそうになったら蘇生してあげる。
……何度でもね。」
その声に、囚われの教団員たちは凍りついた。
悪魔のような少女が、微笑みながら地獄を約束している――。
――数時間後。
地上へと転移したティアは、冷たい風に髪を揺らしながら待っていたアーサーのもとへ歩み寄った。
「アーサー。
……お待たせ。」
彼は一瞬、言葉を失った後、低く問う。
「……拷問したのか?」
ティアは淡々とうなずいた。
「ええ。……その甲斐あって、吐いたわ。
ゴルドー山脈の高原に、大型の転移陣があるそうよ。」
「……そうか。」
アーサーの横顔に影が差す。彼は納得しきれない表情を浮かべながらも、ただ拳を握りしめた。
ティアは迷いなく命じる。
「急ぎましょう。
……ゲド、ヨル!
先行して転移陣を制圧しなさい!」
「御意。」
影のように、二人の臣下がその場から掻き消えた。
冷たい風が、ティアの頬を撫でていった。
その瞳には、迷いも躊躇もなかった――。
ゴルドー山脈――。
冷たい風が吹き荒ぶ高原に、禍々しい光を放つ大型の転移陣が展開されていた。
周囲には数十張もの黒いテントが並び、そこからは怪しい呪詛の気配が漂っている。まるでこの一帯そのものが、教団の祭壇に変貌しているかのようだった。
「……やはり大掛かりね。」
ティアが低く呟く。
まず、ゲドが無数の蟲を放った。
蟲たちは排気口や土の裂け目を伝い、テントの内部を隅々まで探り始める。
「主様。内部に捕らわれた女性が二十余名確認されました。
ほか、武装した信徒およそ五十、術者が十余り。……中枢は転移陣を守護する三名の上級司祭です。」
続いてヨルが闇に溶け、影そのもののようにテントへと接近した。
刹那――風が凍りつく。
「今だ。」
ヨルの気配が弾けた瞬間、ゲドの蟲が一斉に雪崩れ込み、テントの中を蹂躙する。
信徒の悲鳴が夜空を裂き、炎と呪詛が飛び交った。
「ぎゃあああっ! 蟲が、蟲がぁぁ!」
「影だ! 影が首を――ぐっ!」
ヨルは姿を見せぬまま、喉を裂き、心臓を貫く。
その動きは疾風のごとく、一撃ごとに信徒が屍となって倒れていく。
高原は瞬く間に修羅場と化した。
だが、中央の転移陣が赤黒く光を強め始める。
「くく……遅かったな、勇者の娘よ!」
テントの奥から現れた上級司祭たちが、両手を掲げ呪文を唱え始めた。
転移陣の紋様が脈動し、空気そのものが歪む。
何かが呼び出されようとしている――。
「……っ!」
遠くからその異様な気配を感じ取ったティアが表情を険しくする。
「ゲド!ヨル!転移陣を止めなさい!何があっても稼働させては駄目!」
「御意――!」
二人の臣下が同時に応じ、闇と蟲が奔流のように陣へ殺到した。
しかし――その瞬間。
転移陣が赤黒く爆ぜると同時に、テントを守っていた司祭たちは嘲笑と共に霧のように姿を消した。
「……逃げた?」
ティアは歯噛みし、周囲を見渡す。
だが、答えはすぐに現れた。
転移陣の中心から、異様な存在がゆっくりと姿を現したのだ。
翼を広げただけで空が震え、三対の眼が怪しく輝く。
その気配は紛れもなく、封印されし邪竜に連なる眷属。
「――愚か也」
重々しい声が大地を揺らす。
「我が主は、間もなく封印より解き放たれる。
お前たちはここで潰えよ。」
言葉と同時に、眷属が翼を一振りした。
凍りつく風が吹き荒れ、高原一帯が一瞬で氷獄へと変わる。
「っ……!」
ゲドの蟲はすべて凍りつき、動きを止めた。
ヨルの影すら凍結に囚われ、姿を隠す術を強制的に奪われる。
吐く息すら白く凍り、ただ立っているだけで膝が震えるほどの威圧。
「アーサー!」ティアは叫ぶ。
「女性たちを連れて離脱して! ゲド、ヨル、補佐を!」
「で、でも――」
「早く!」
ティアの一喝に、アーサーは歯を食いしばって頷いた。
「わかった……必ず戻る!」
ゲドとヨルが急ぎ拘束されていた女性たちを解き放ち、アーサーが転移の光を展開する。
その間、ティアは一歩前に出ると、炎を纏った掌を突き出した。
「――《劫火の球(インフェルノ・オーブ)》!」
轟音と共に放たれた灼熱の火球が、眷属の胴を直撃する。
咆哮を上げながら、眷属は山肌へ叩きつけられ、岩盤を粉砕しながら粉塵を巻き上げた。
「今よ!」
その隙に、アーサーたちは女性を抱え、高原から転移していった。
残されたのは、ティアと邪竜の眷属――。
雪煙の中から、なお健在の巨体がゆっくりと立ち上がる。
その眼は怒りと嘲笑を宿し、空気を裂くように羽ばたいた。
ティアの頬を冷気が切り裂く。
それでも彼女は微笑すら浮かべ、静かに構えを取った。
「さあ――相手は私よ。」
凍てつく大地を舞台に、ティアと邪竜の眷属との一騎打ちが、いま始まろうとしていた。
その頃、アーサー達は。
転移の光が収まると、アーサーの目の前に広がったのは、怯えきった女性たちの群れだった。
その顔ぶれを確認した瞬間、アーサーの胸に冷たい違和感が走る。
「……学園の生徒がいない?」
彼は慌てて女性たちに近寄り、息を荒げながら問いかける。
「おい、学園の生徒たちを見なかったか!?
攫われてきた子たちだ!」
だが返ってきたのは、首を横に振る怯えた声だった。
「いいえ……私たちは街で突然、襲われて……学園の子たちなんて見ていません。」
アーサーは絶句した。
血の気が引いていく。
――これは、ティアを誘い出すための罠だったのか。
「ティア……!」
胸騒ぎが全身を駆け抜ける。
彼は急いで再び転移陣を展開するが――。
「……なっ!?」
術式が弾かれ、ゴルドー山脈へと繋がらない。
幾度試みても、結果は同じだった。
「どうして……なぜ転移できない!?」
その時、背後で低く呟く声があった。
「……主様の魔力を感じない。」
アーサーは振り返る。
ゲドとヨルが、険しい表情で互いに頷き合っていた。
「そうか……!
あの場所自体が――巨大な次元結界トラップだったのか!」
アーサーの拳が震える。
次の瞬間、ゲドとヨルの姿がふっと消える。
「主様を探す。
我らに任せよ。」
その言葉だけを残し、臣下は闇に溶けていった。
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