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第九章 新学期編
第七十三話 厳しい現実
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ティアが学園に戻ると、寮の広間には攫われていた女子生徒たちが集められていた。
「メリル!」
「ティア!」
ふたりは駆け寄って抱き合い、強くその温もりを確かめあった。
「本当に……良かった。
無事で……。
何か、変なことされなかった?」
ティアの問いに、メリルは力強く首を振る。
「ううん、大丈夫。
アーサーが助けに来てくれたから。」
そのとき、ゲドから念話が響く。
『主様。
飛行艇を制圧しました。
後ほどご確認を。』
『ご苦労さま、よくやってくれたわ。』
ティアは微笑み、近くでぐったりと腰を下ろしていたアーサーに視線を向けた。
「アーサーも本当にありがとう。
よくやってくれたわ。」
「いや……俺はティアの従者に助けられただけさ。」
「でも、あなたも戦ったんでしょ?」
「ああ……もう、ヘトヘトだ。」
寮内は破壊が激しく、生徒たちは落ち着かないまま一夜を明かした。
結果、臨時措置として学園隣の教師専用宿舎を借りることとなり、メリルもそちらに移った。
一方でティアの部屋は無事だったため、彼女はゲドとヨルの報告を受けた後、占拠した航空艇を確認しに行った。
「アダミルが見たら、きっと改造するのに夢中になりそうね。」
「フフ、ようわかっとるの。
主よ、ワシをすぐ呼ばんとは薄情じゃな。」
声の主はすでに現場にいた。航空艇の内部から飛び出してきたのは、魔導技師アダミルだった。
「もう嗅ぎつけてたのね。」
「当然じゃ!これはワシがもらう!」
そう言うや否や、アダミルは航空艇ごと転送して姿を消した。
新学期早々、学園は大事件に巻き込まれ、ティアの胸には新たな懸念が積み重なっていく。
「ゲド、ヨル。……早速だけど、アヴェスター邪神教団について調べてきて。」
「御意。」
従者たちはその場から姿を消した。
翌日。
教室にはまだ動揺が残り、欠席する女子も多かった。
だが、メリルは登校してきて、ティアを見つけると笑顔で駆け寄ってきた。
「おはよう、ティア!」
「おはよう。大丈夫?」
「うん……ちょっと怖いけどね。
先生達の宿舎って落ち着かなくて……早く寮が直るといいな。」
「魔法で修復するから、あと二日もすれば戻れるはずよ。」
「ほんと?良かった。」
安堵の笑みを浮かべたメリルだったが、ふと表情を曇らせた。
「でも……どうして私たち、攫われたの?」
ティアは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「……アーサーの話だと、“アヴェスター邪神教団”っていう連中が関わってる。
これ以上は……メリルを怖がらせるかもしれないから、知らない方がいい。」
「……教えて。
捕まって、あのまま連れていかれたら……何をされてたの?」
ティアはじっとメリルを見つめる。
「本当に聞くの?
後悔するかもしれないわ。」
「ううん。
私だっていずれ大人になって、世界を守る人になりたいの。
だから知りたい。」
「……そう。
じゃあ教えるわ。」
ティアの声は低く沈む。
「奴らは邪神を復活させるために女性を攫い……その身体を汚す。
犯し、穢してから……生贄にするの。」
「……っ!」
メリルは唇を震わせ、瞳を見開いた。
「やっぱり……そうなんだ。
“汚す”って、そういうこと……。」
「そうよ。
穢れが邪神復活の条件だって言われてる。」
「酷い……。
今も、どこかでそんな目に遭ってる人がいるんでしょ……?可哀想すぎる……。」
ティアは苦しげに頷いた。
「わかってる。
けど、今すぐ全員を救えるほどの力は、まだ私にもない。
だからこそ、いろんな人たちが、それぞれの方法で戦ってるの。」
「……うん。
私も……いつか必ず、そうなりたい。」
ふたりは教室に入ったが、メリルは席につくと机に顔を伏せ、沈んだまま動かなくなった。
メリルは席についたものの、すぐに机に顔を伏せてしまったままだ。
知りたいと言って話したのは良いが、昨日の恐怖、そして知ってしまった残酷な真実が、まだ幼い心に重くのしかかっていた。
ティアはそっと隣に腰を下ろすと、小さく囁いた。
「……無理に強がらなくてもいいのよ。」
メリルは唇を噛みしめ、涙をこらえながら震え声で答えた。
「……やっぱり怖いの。
攫われたときも……これからも、いつまた同じことが起きるのか、捕まってどんな目に遭うのか想像すると……。」
ティアは静かにメリルの手を握った。
その温もりが、メリルの震えを少しずつ和らげていく。
「怖がるのは当然よ。
人は皆そう。
でもね……あなたは、昨日の地獄を生き延びて、ここにいる。
それだけで、もう十分強いわ。」
「……私、強いのかな。」
メリルの声は小さく、頼りなげだった。
ティアは優しく笑って頷く。
「ええ。
それにあなたは、私の大切な友達よ。
絶対に守るって決めてる。
だから、安心していいの。」
その言葉に、メリルの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「……ありがとう、ティア。
私も……ティアの力になりたい。
いつか必ず。」
ティアは彼女の肩を抱き寄せ、囁いた。
「その気持ちがあれば十分よ。
きっとその日が来るわ。」
教室のざわめきの中、ふたりだけの静かな時間が流れた。
恐怖と不安に覆われていたメリルの心に、ほんの少しの安心と、友の温もりが灯ったのだった。
メリルに限ったことでは無い。
今回の拉致で捕まった女子生徒は心に何らかの傷を負ったはず。
目の前で生き死にのやり取りも見たはず。
普通に生活していれば、そんなものを見なくて当然だから。
ショックは大きいだろう。
生徒会として、生徒達の心のケアは最優先でやらなくてはならない。
ティアを始めとする生徒会役員は、登校出来なくなった女子生徒のケアをする事となった。
それで全て解決ということはないが、いつか心の傷が少しでも言える事を願ってやまなかった。
入学式と新たな始まり
少しばかりの混乱はあったものの、ようやく新入生を迎える入学式が厳かに執り行われた。
大講堂には、真新しい制服に身を包んだ新入生たちと、その家族たちが整然と並んでいる。
壇上に立つのは生徒会会長――ティア。
凛とした立ち姿で一礼すると、静まり返った空間に彼女の声が響き渡った。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
ご父兄の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。」
丁寧な挨拶の後、ティアは一拍置いて口を開く。
「さて……先日、学園内で起こった事件についてですが、詳細は個別にご説明させていただく予定です。
もし疑問に思う事や真実が知りたいと思われる方は生徒会よりご説明させて頂きます。
それ故に、この場で多くを語ることは控えさせていただきます。
ご了承下さい。
ですが――これだけは言わせてください。」
ティアの青い瞳が、壇上から新入生一人ひとりを見つめるように揺らめいた。
「この学園で学ぶあなた達は、やがて社会を支え、導く存在となるでしょう。
その道のりで、どのような敵や困難に遭遇するかは分かりません。
だからこそ、自らの身を守れる強さを持ってください。
そして――友が苦しんでいる時には、その心に寄り添える優しさを持ってください。
学園では沢山の仲間達と沢山の事を学べる場所です。
決して後悔ないように仲間と共に楽しんでください。」
静かながらも力強い言葉に、新入生の顔に緊張と希望の入り混じった表情が浮かんでいく。
ティアは少しだけ表情を和らげ、最後にこう結んだ。
「皆さんのこれからの学園生活が、実りある日々となることを祈ります。」
大講堂は大きな拍手に包まれ、入学式は幕を閉じた。
――そして数日後。
修復が進められていた寮は、ついに完全に直され、新入生を含む女子生徒たちは再び部屋に戻ることができた。
今回の事件で、生徒の命を一人も失わずに済んだことは、何よりも大きな救いだった。
「メリル!」
「ティア!」
ふたりは駆け寄って抱き合い、強くその温もりを確かめあった。
「本当に……良かった。
無事で……。
何か、変なことされなかった?」
ティアの問いに、メリルは力強く首を振る。
「ううん、大丈夫。
アーサーが助けに来てくれたから。」
そのとき、ゲドから念話が響く。
『主様。
飛行艇を制圧しました。
後ほどご確認を。』
『ご苦労さま、よくやってくれたわ。』
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「アーサーも本当にありがとう。
よくやってくれたわ。」
「いや……俺はティアの従者に助けられただけさ。」
「でも、あなたも戦ったんでしょ?」
「ああ……もう、ヘトヘトだ。」
寮内は破壊が激しく、生徒たちは落ち着かないまま一夜を明かした。
結果、臨時措置として学園隣の教師専用宿舎を借りることとなり、メリルもそちらに移った。
一方でティアの部屋は無事だったため、彼女はゲドとヨルの報告を受けた後、占拠した航空艇を確認しに行った。
「アダミルが見たら、きっと改造するのに夢中になりそうね。」
「フフ、ようわかっとるの。
主よ、ワシをすぐ呼ばんとは薄情じゃな。」
声の主はすでに現場にいた。航空艇の内部から飛び出してきたのは、魔導技師アダミルだった。
「もう嗅ぎつけてたのね。」
「当然じゃ!これはワシがもらう!」
そう言うや否や、アダミルは航空艇ごと転送して姿を消した。
新学期早々、学園は大事件に巻き込まれ、ティアの胸には新たな懸念が積み重なっていく。
「ゲド、ヨル。……早速だけど、アヴェスター邪神教団について調べてきて。」
「御意。」
従者たちはその場から姿を消した。
翌日。
教室にはまだ動揺が残り、欠席する女子も多かった。
だが、メリルは登校してきて、ティアを見つけると笑顔で駆け寄ってきた。
「おはよう、ティア!」
「おはよう。大丈夫?」
「うん……ちょっと怖いけどね。
先生達の宿舎って落ち着かなくて……早く寮が直るといいな。」
「魔法で修復するから、あと二日もすれば戻れるはずよ。」
「ほんと?良かった。」
安堵の笑みを浮かべたメリルだったが、ふと表情を曇らせた。
「でも……どうして私たち、攫われたの?」
ティアは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「……アーサーの話だと、“アヴェスター邪神教団”っていう連中が関わってる。
これ以上は……メリルを怖がらせるかもしれないから、知らない方がいい。」
「……教えて。
捕まって、あのまま連れていかれたら……何をされてたの?」
ティアはじっとメリルを見つめる。
「本当に聞くの?
後悔するかもしれないわ。」
「ううん。
私だっていずれ大人になって、世界を守る人になりたいの。
だから知りたい。」
「……そう。
じゃあ教えるわ。」
ティアの声は低く沈む。
「奴らは邪神を復活させるために女性を攫い……その身体を汚す。
犯し、穢してから……生贄にするの。」
「……っ!」
メリルは唇を震わせ、瞳を見開いた。
「やっぱり……そうなんだ。
“汚す”って、そういうこと……。」
「そうよ。
穢れが邪神復活の条件だって言われてる。」
「酷い……。
今も、どこかでそんな目に遭ってる人がいるんでしょ……?可哀想すぎる……。」
ティアは苦しげに頷いた。
「わかってる。
けど、今すぐ全員を救えるほどの力は、まだ私にもない。
だからこそ、いろんな人たちが、それぞれの方法で戦ってるの。」
「……うん。
私も……いつか必ず、そうなりたい。」
ふたりは教室に入ったが、メリルは席につくと机に顔を伏せ、沈んだまま動かなくなった。
メリルは席についたものの、すぐに机に顔を伏せてしまったままだ。
知りたいと言って話したのは良いが、昨日の恐怖、そして知ってしまった残酷な真実が、まだ幼い心に重くのしかかっていた。
ティアはそっと隣に腰を下ろすと、小さく囁いた。
「……無理に強がらなくてもいいのよ。」
メリルは唇を噛みしめ、涙をこらえながら震え声で答えた。
「……やっぱり怖いの。
攫われたときも……これからも、いつまた同じことが起きるのか、捕まってどんな目に遭うのか想像すると……。」
ティアは静かにメリルの手を握った。
その温もりが、メリルの震えを少しずつ和らげていく。
「怖がるのは当然よ。
人は皆そう。
でもね……あなたは、昨日の地獄を生き延びて、ここにいる。
それだけで、もう十分強いわ。」
「……私、強いのかな。」
メリルの声は小さく、頼りなげだった。
ティアは優しく笑って頷く。
「ええ。
それにあなたは、私の大切な友達よ。
絶対に守るって決めてる。
だから、安心していいの。」
その言葉に、メリルの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
「……ありがとう、ティア。
私も……ティアの力になりたい。
いつか必ず。」
ティアは彼女の肩を抱き寄せ、囁いた。
「その気持ちがあれば十分よ。
きっとその日が来るわ。」
教室のざわめきの中、ふたりだけの静かな時間が流れた。
恐怖と不安に覆われていたメリルの心に、ほんの少しの安心と、友の温もりが灯ったのだった。
メリルに限ったことでは無い。
今回の拉致で捕まった女子生徒は心に何らかの傷を負ったはず。
目の前で生き死にのやり取りも見たはず。
普通に生活していれば、そんなものを見なくて当然だから。
ショックは大きいだろう。
生徒会として、生徒達の心のケアは最優先でやらなくてはならない。
ティアを始めとする生徒会役員は、登校出来なくなった女子生徒のケアをする事となった。
それで全て解決ということはないが、いつか心の傷が少しでも言える事を願ってやまなかった。
入学式と新たな始まり
少しばかりの混乱はあったものの、ようやく新入生を迎える入学式が厳かに執り行われた。
大講堂には、真新しい制服に身を包んだ新入生たちと、その家族たちが整然と並んでいる。
壇上に立つのは生徒会会長――ティア。
凛とした立ち姿で一礼すると、静まり返った空間に彼女の声が響き渡った。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
ご父兄の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。」
丁寧な挨拶の後、ティアは一拍置いて口を開く。
「さて……先日、学園内で起こった事件についてですが、詳細は個別にご説明させていただく予定です。
もし疑問に思う事や真実が知りたいと思われる方は生徒会よりご説明させて頂きます。
それ故に、この場で多くを語ることは控えさせていただきます。
ご了承下さい。
ですが――これだけは言わせてください。」
ティアの青い瞳が、壇上から新入生一人ひとりを見つめるように揺らめいた。
「この学園で学ぶあなた達は、やがて社会を支え、導く存在となるでしょう。
その道のりで、どのような敵や困難に遭遇するかは分かりません。
だからこそ、自らの身を守れる強さを持ってください。
そして――友が苦しんでいる時には、その心に寄り添える優しさを持ってください。
学園では沢山の仲間達と沢山の事を学べる場所です。
決して後悔ないように仲間と共に楽しんでください。」
静かながらも力強い言葉に、新入生の顔に緊張と希望の入り混じった表情が浮かんでいく。
ティアは少しだけ表情を和らげ、最後にこう結んだ。
「皆さんのこれからの学園生活が、実りある日々となることを祈ります。」
大講堂は大きな拍手に包まれ、入学式は幕を閉じた。
――そして数日後。
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