毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十二章 最悪のノエル

第九十七話 魔王ノエル

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こことは違う世界に、破滅の危機が迫っていた。

勇者として覚醒した少年ノエルは、己の力に支配され、闇に侵食されることで魔王へと変貌した。
彼の勇者スキルは──**『概念消滅』**。
自分よりレベルの低い「概念から生まれた存在」を、触れて念じるだけで消し去ることができる。
鑑定されていない事、自分より相手のレベルが低い事、自然界から生まれたもののみに発動を条件に、ただそれだけで存在を抹消する。
制約こそあるものの、その力は恐るべき「最強のスキル」と呼ぶにふさわしかった。

だが、やがてノエルは自分に従わぬ者を次々と消し去り、勇者でありながら恐怖の魔王と化す。
討伐の軍が結成され、新たな勇者たちに追い詰められた末、ノエルは亜空間へと追放された。

──真っ暗な虚無の中で漂った後、彼は別の世界へと堕ちた。

目を覚ますと、そこは広大な草原。
澄んだ空気、どこまでも続く青空に、ノエルは思わず笑みを浮かべた。

「……やったぞ!」

歓喜に叫び、見知らぬ大地を歩き出す。
やがて行商のトラックに出会い、荷台から顔を出した商人に問いかけた。

「ここはどこだ?」

「迷子か? ここはザザルン王国だぞ」

ノエルの姿は十五歳の少年。
緑の短髪にあどけない童顔。見た目はまだ子供にしか見えない。

「街に行きたい」
そう言うと、商人は苦笑しながら彼を乗せて首都まで運んでくれた。

──首都。
賑やかで活気にあふれ、近代的な街並みにノエルは目を見張った。
だが同時に胸の奥に、**「この世界を支配する」**という衝動が湧き上がる。

街を歩いていると、二人のセーラー服姿の少女が楽しげに談笑しながら並んで歩いていた。
その光景にノエルは苛立ちを覚え、気配を消して後ろから近づく。

──少女の肩に手を伸ばした、その瞬間。

「ちょっと!」

鋭い声とともに、隣の少女がノエルの手首を掴んだ。
栗色の髪を揺らし、青い瞳を向けている。ティアだった。

「何をしようとしてたの? 知らない女子に触れようなんて、痴漢かしら?」

同時にティアは鑑定を行っていた。
そこに刻まれた「概念消滅」の文字を見つけ、瞳を細める。

(これは……危険すぎるわね。
メリルに使うつもりだったの? 
そんなスキル……ごめんね、燃やしちゃう)

ティアは内心で呟き、そっと『殲滅の炎』を走らせる。
物質、生命、そしてスキルすらもティアが認識出来る物を燃やし尽くす炎が、ノエルのスキルを音もなく消し去った。

「離せ!」
ノエルは声を荒げ、手を振り払う。

「だから、何故触ろうとしたの?」

「フン! 
お前には関係ない! 
俺様に女如きが口を聞くな!」

大声で罵倒するノエルを前に、ティアは肩をすくめる。

「あらそう。
……では、ご機嫌よう」

ティアとメリルは、まるで何事もなかったかのように談笑を再開し、歩き出す。

「生意気な女が……消し去ってやる!」
ノエルは叫び、二人へ飛びかかった。

だが、その腕をティアに軽く掴まれ、ひょいと投げ飛ばされる。

「何をしてるの?」

「ティア、あの子は誰?」
メリルは不安そうに、ティアの背中に隠れる。

「知らないわ。
ただ、急に怒り出したのよ」

「消えろ!」
ノエルは神速でティアの横へ移動し、腕を掴んだ。

「死ね!」

だが──何も起こらない。

「……な、なぜだ!」

「ちょっと、初対面の女子の体に勝手に触れるなんて……新手のナンパ?」
ティアは小首をかしげ、あっさりと彼の腕を取って地面に投げ倒した。

ドスン、と乾いた音が響き、ノエルは地面に叩きつけられる。

その騒ぎを聞きつけ、街の警備隊が駆けつけた。

「どうしたんだ?」

数人の隊員がノエルを押さえ込む。

ティアは腰に手を当て、頬をぷくりと膨らませながら告げた。
「この人が急に絡んできて、私の腕を掴んだりしてきたの。
だから投げ飛ばしたのよ」

「……学園の制服か。
なるほど、あとは俺たちに任せてくれ」

隊員たちはノエルを立ち上がらせ、きつい声で言い放つ。

「相手が悪かったな。
学園の生徒に喧嘩を売るなんて──バカだぞ」

そうしてノエルは、何が起きたのかも理解できぬまま、警備隊に連れて行かれた。

警備隊に連行されたノエルは、詰所で事情聴取を受けていた。
「それで、学園の生徒に何故喧嘩を売ったんだ?」
隊員の問いに、ノエルは鼻を鳴らすように答えた。
「あいつが生意気だったからだ。」

「君はどこから来た? 
身分を証明するものはあるか?」

「うるさい! 黙れ!」と怒鳴ると、ノエルは不意に術名を口にした。
『幻惑無言(ゲンワクムコン)──』
詰所の隊員たちはその場で動きを止め、黙り込んだ。

しかしノエルはすぐに顔をしかめた。
「学園だと……スキルが発動しない? 
何故だ! 
俺はレベル99だぞ!
この世界には、俺よりレベルが低いものばかりなはずだ。
俺よりレベルの高い奴などいるはずがない」
そう呟くと、苛立ちを胸に詰所を出て街を歩き回り始めた。

路地裏で自分のステータスを改めて確認する。
すると、目に飛び込んできたのは――スキル欄から『概念消滅』が消えていることだった。
「! 概念消滅がない……どうしてだ? 
この世界に来て失ったのか!」
想定外の事態にノエルは激しく歯噛みする。
だが、諦めはしない。
計はまだ残っている。

「ふん。
想定外だが手はある。
まずは学園に潜入だ」

ノエルは学園へ向かい、正面の守衛に話しかける。
「この学園に入学したい。
どうすればいい?」
守衛は冷静に答えた。
「紹介状はありますか?」

「そんなものはない!」とノエルは短く言う。
守衛は電話で確認をとり、ほどなくして入学受付の職員がやって来た。

「入学希望ですか? 
私は入学受付のマリンです。
では、こちらへどうぞ」

応接室に通され、簡単な魔力測定と質問が行われる。
マリンは測定器を取り出し、ノエルに手を翳すよう促した。
黄色い光が機械に反応する。

「はい、標準ですね。
入学に問題はありません。
身分を証明するものは?」

「ない」

戸惑いも見せず、マリンは入学用紙を手渡す。
ノエルは淡々と記入を済ませた。
しばらくして、マリンは部屋へ戻って来るとにこやかに告げた。

「お待たせしました。
学園側で入学許可が出ました。
寮にご案内しますね。
荷物はありますか?」

「ない」

「では、寮生活についての説明です。
入学者は全員寮住まいになります。
成績が優秀ならより良い部屋に移れますので、頑張ってください。
今期の寮長はアーサーさんです。
後ほど挨拶に行ってくださいね」

ノエルは説明を耳にしつつも、落ち着きなく窓の外や部屋の隅を見回していた。
街で出会ったあの二人――ティアとメリル――の姿を探しているのだ。
寮の案内が終わると、部屋に通される。

「ここがノエルさんのお部屋です。
制服は夜にお届けします。
わからないことがあれば寮長に聞いてくださいね」

ドアが閉まると、ノエルは低く笑った。
「ふん……楽しませてもらう。
あの女を──俺の前に跪かせて、這いつくばらせてやる」

こうして、ノエルの学園生活が始まった。表面には何事もないように見えるが、彼の胸に燻る欲望は消えていない。
失われた力を取り戻すため、あるいは別の、より陰惨な手段を企てるために──。
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