毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十四章 セイントスター世界学園へ

第百十四話 神域の学び舎

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講堂に足を踏み入れると、既に多くの生徒たちが集まっていた。
ざわめきの中で挨拶を交わす声や、早くも打ち解けた様子の笑い声が響いている。
天井は高く、荘厳な魔法光が柔らかく空間を照らしており、空気そのものがどこか非現実的だった。

ティアがゆっくりと奥へ進もうとしたその時――。

「へぇ~……すげぇ美人じゃねぇか。」
低く響く声と共に、前方に影が立ち塞がった。

黒髪に、額から短く突き出た二本の角。
紅い瞳は鋭く光り、青白い肌にはまるで戦の痕のような気迫が宿っている。
その全身から放たれる圧は、まるで獣のようだった。

「どうだ、俺の女になれよ!」

講堂が一瞬、静まり返る。
誰もが目を見張る中、ティアは一歩も退かずに微笑んだ。

「あら、いきなり口説かれるなんて光栄ね。
でも――あなた、私より弱そうだわ。
引っ込んでなさい。」

軽く手を振るような仕草でその男子を払い除け、何事もなかったように歩き出すティア。
その瞬間、空気が一変した。

「弱そうだと……?」
怒気を孕んだ声が背後から響く。

ティアはゆるりと振り返り、紅い瞳を真っ直ぐに見据えた。
「ええ、そう言ったと思うけど?」

その余裕の態度に、男子生徒の額に青筋が浮かぶ。

「偉そうな女だな! 
まったく……!
こんな制服まで着せられて、何考えてやがるんだ、この学園は!」

「あら、この制服、可愛いと思うけど?」

「フン! 
そんな短いスカート履いて、男を誘ってるんじゃねぇのか?」

ティアはくすりと笑い、涼しい声で返した。
「貧相な発想ね。
短いスカートは“可愛い”から履いてるのよ。
少なくとも、あなたを誘ってるわけじゃないわ。
――もっと、紳士的で礼儀正しい方に興味があるの。」

「……いい度胸だ!」
男は怒りに燃える眼で睨みつけた。
「俺の名はザフラ・トフ。
鬼神族の長の嫡男だ!
この学園には“決闘制度”があるらしいな。
最初の相手はお前だ、ティア・リブン! 
逃げるなよ!」

「逃げる? 
ふふ……その必要はないわ。
いつでも相手になってあげる。」
ティアは微笑んで、静かに名を名乗る。
「私はティア・リブン。
――神魔族よ。」

「神魔族、だと? 
聞いたことねぇな。
魔族の一種か……まあいい。
楽しみにしてるぜ。」

ザフラは鼻を鳴らすと、肩をいからせて去っていった。
その背に残る魔力の圧は、確かに只者ではない。

セリアがすぐにティアの傍へ寄り、低い声で告げた。
「主様。
あの者――かなりの手練れです。
不意を突く可能性もございます。」

ティアは小さく頷き、ふっと笑みを浮かべる。
「ええ、気をつけておくわ。
でも……悪くない刺激ね。」

その笑顔は、どこか楽しげで――嵐の前の静けさを孕んでいた。

講堂の奥は、ざわめきと緊張の気配に包まれていた。
先ほどティアが遭遇したような口論や小競り合いが、あちらこちらで起こっている。
獣神族と鬼神族が睨み合い、エルフと精霊族が言葉を交わし、種族ごとの誇りが火花を散らしていた。

そんな中、背後から落ち着いた低音の声が響いた。

「さっき絡まれてたな。
可愛い顔して、凄むとは……中々面白そうな女だ。」

振り向くと、長身の青年が腕を組んで立っていた。
銀灰色の髪に、龍のような紋様がうっすらと浮かぶ肌。
瞳は深い琥珀色で、覇気と静寂を同時に宿している。

「俺は龍神族のソウ・クラウ・ドュスロ。
ソウで構わないぜ。」

「どうも。
私は神魔族のティア・リブンです。」

「神魔族……珍しい種族だな。」
ソウは興味深そうにティアを見つめた。
「そういえば、男子寮にも一人。
神魔族が居たな。」

「えっ? 
本当ですか?」

「ああ。
確か――ユサリス・ロードとか名乗ってた。」

ティアは小さく眉を寄せる。
「ユサリス……聞いたことはないわ。」

「そうか。」
ソウは腕を組んだまま、講堂のざわめきを見渡した。
「それにしても、おかしいと思わねぇか?
見渡しても聞いたことのねぇ種族ばかりだ。
何のために集められたんだ、俺たちは。」

ティアも頷いた。
「ええ、私も同じことを考えていました。
少し確認なんですが――ソウさん。
フィレン帝国をご存じですか?」

「ん? フィレン帝国? 
そんな国、聞いたこともねぇ。」

「やっぱり……。」
ティアの瞳に鋭い光が宿る。
「私の予想が正しければ、ここは“神域”。
恐らく――神園(しんえん)のどこかだと思います。」

「神域だと? 冗談だろ?
俺たちは普通に街から学園の門を通ってここに来たんだぞ。」

「その“門”が鍵です。
あれは、ただの門じゃない。
神域へ繋がる扉――そう考えれば、
聞いたこともない種族が勢揃いしている理由も説明できます。」

ソウは腕を下ろし、口笛を吹いた。
「なるほどな……そうなると、面白い話になってきた。」

ティアは微笑を浮かべると、再び講堂の奥へと歩き出した。
「同じ神魔族の男性……ユサリス。
どんな人なのか、見てみたいわ。」

歩きながら周囲を見渡していると、陽気な声が響く。

「おっと、これはこれは! 
凄ぇ可愛い女子を発見だ!」
声の主は、長い白髪を無造作に結った青年。
白衣のような服を纏い、目尻に笑い皺を刻んでいる。

「俺は仙人族のウルタビ・ヒドって者だ。
よろしくな。」

ティアは軽く会釈して微笑んだ。
「褒めてくださってありがとうございます。
私は神魔族のティア・リブンです。
ちょっとお尋ねしますが、私と同じ神魔族の男性――ご存じですか?」

「神魔族? 
いやぁ、聞いたことねぇな。
残念!」

「そうですか。
ありがとうございます。」
ティアは軽く頭を下げ、再び人の群れを見渡した。

――だがその時。

壇上に、三人の大人の姿が現れた。
それだけで場の空気がぴたりと静まり返る。

中央に立つ男性が、両手を広げて声を響かせた。

「さて――皆さん、こちらにご注目ください。」
その声は講堂全体に響き渡り、緊張と期待が走る。

「セイントスター世界魔法学園へのご入学、おめでとうございます。
あなたたちは――“選ばれし種族”です!」

その言葉に、講堂中がざわめいた。
誰もが、自分たちが“なぜここに居るのか”を知りたくてたまらなかった。

ティアは黙って壇上を見つめながら、胸の奥で呟いた。
――“選ばれし種族”ね。

壇上の男性の声は、まだ終わりではなかった。
静まり返る講堂に、再び響く低くよく通る声。

「セイントスター学園で、あなた方が何を学ぶのか……気になりますよね。」
彼はゆっくりと歩きながら言葉を続けた。
「それは――神の領域の魔法と知識です。」

一瞬、会場がどよめく。
ティアの胸の奥にも、淡い緊張が走った。

「お気づきの方もいるかもしれませんが、あなた方はそれぞれ異なる次元世界から選ばれ、スカウトされました。
この学園は、神域における“特別な試練の場”でもあります。」

教師の一人が手をかざすと、講堂の空間に魔法陣が浮かび上がる。
その光が波紋のように広がり、全員の視界に情報が映し出された。

「そして、学園の日課として――毎日、決闘を実施していただきます。
それによって、我々は皆さんの実力を測り、学園内で序列を定めます。」

講堂中が一気にざわつく。
戦闘に自信を見せる者もいれば、驚きに声を漏らす者もいた。

「決闘のルールや詳細は、各クラスで説明します。
それでは――今からクラス分けを発表します。」

その言葉と同時に、講堂の壁面が光を放ち、
魔法文字が浮かび上がる。

ティアの目がある一点で止まった。
《一組 ティア・リブン》

「一組……ね。」
ティアは立ち上がり、講堂を後にした。

校舎の一階、左端にある「一組」の教室へ。
扉を開くと、そこにはまるで王族用の学習室のような光景が広がっていた。

「……立派な机と椅子ね。」
磨き抜かれた木製の机は滑らかで、座り心地の良さそうな椅子。
机の上には魔導式の電子端末が埋め込まれ、
引き出しには魔法具を収納するスペースがいくつも設けられている。

教壇の後ろには巨大な魔導モニターが設置されており、
最新の神技術が詰まっていることがひと目で分かった。

ティアは自分の名前が貼られた席を見つけ、腰を下ろす。

「ティアさん。
同じクラスね。」
声をかけてきたのはアリーシアだった。

「あら、アリーシアさん。
良かったわ。
知っている人がいるだけで、少し安心するわね。」

「それ、私も思いました。」
2人は顔を見合わせて、穏やかに微笑み合った。

その瞬間――

「よぉ! 
生意気な女が同じクラスか!」
聞き覚えのある声が響く。鬼神族のザフラが腕を組んで立っていた。
「まあ、すぐに俺の前に跪くことになるだろうがな!」

ティアはため息をひとつ。
「それはどうかしらね。
……まあ、仲良くやりましょうよ?」
軽く微笑んで返すティアに、ザフラは一瞬むっとした表情を見せたが、すぐに鼻で笑った。

「ティアさんっていうのね。」
今度は柔らかい声が背後からかかった。
振り向くと、長い金髪に翡翠色の瞳を持つエルフの女性が立っている。

「私は精霊族エルフのミカーニャ・ヘブン。
あなた、とても強いわね。
見てすぐに分かった。
他の人たちとは……格が違うわ。」

「あら、ありがとうございます。」
ティアは軽く会釈を返す。
「私は神魔族のティア・リブン。
よろしくね。」

その名を聞いた瞬間、周囲の女子たちが興味深そうに集まってきた。

「神魔族って初めて聞く!」
「制服の着こなしがすごく綺麗!」
「髪も肌も……人間とは違う透明感ね!」

気付けば、ティアの周りには小さな輪ができていた。
微笑を浮かべながらも、ティアは心の奥で思う。

――“選ばれし種族”。
決闘に序列、神の魔法……。
やはり、この学園にはただの教育以上の“目的”がある。

胸の奥で静かに、神魔族の血が高鳴った。
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