毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十五章 400年後の未来

第百二十七話 勇者の旅立ちとティアの学園祭誤算

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「さて――勇者の誕生を祝して、スキルの授与を行います。」

ティアは荘厳な声で言った。
……が、ミンデの心の中では、すでに不安しかない。

(やばい。
これ絶対、何か怖いやつだ……!)

彼の脳裏には、いかにも“ゲームのイベント”みたいなBGMが鳴り響いていた。

ティアは軽く手を掲げ、柔らかく光を灯す。
その光が祠の壁を反射し、神聖な空間を包み込む。

「ミンデ・クラウシス。
汝に、勇者としての力を授けます。」

ミンデは思わず背筋を伸ばした。
「え、えっと……ありがとうございます……?」
(なんか、卒業式みたいだな。)

ティアはゆっくりと歩み寄り、右手をミンデの胸にかざす。
金色の魔法陣がふわりと浮かび上がり、彼の体を包む。

「授けるスキルは――《勇気の覚醒(ブレイブ・オープン)》。」

「おぉ、なんか強そう!」
ミンデは一瞬だけテンションが上がる。

ティアが微笑んだ。
「このスキルは“恐怖を乗り越えた時”に真価を発揮します。」

「……え? 
つまり、怖い目に遭わないと発動しないってことですか?」

「ええ。
だから頑張って恐怖と立ち向かうのよ。」

「いや、そこ応援の方向性おかしくないですか!?」

セリアが横で小さく笑いを堪えている。

ティアは続けて言葉を紡いだ。
「あなたが抱く“臆病”や“弱さ”も、力に変わるの。
それこそが、人の強さ。
勇者とは、恐怖を知る者のことなのよ。」

ミンデは少し黙り込んだ。
「……神様って、優しいんですね。」

ティアは目を細めて微笑んだ。
「誰でも最初は臆病なものよ
あなたもそれを乗り越えなければならないのよ。」

「乗り越えた先に真の勇者像があるんですね!」

「ふふ。そう思ってくれていいわ。」

ティアの穏やかな声が祠に響く。
光はゆっくりとミンデの身体に吸い込まれ、彼の胸に勇者の印が刻まれた。

「これで完了です。」
ティアがそっと手を下ろした。

「おぉ……身体が軽い。
すごい……! 
俺、なんか強くなった気がする!」

「気のせいじゃないわよ。
ちゃんと強くなったのよ。」

「本当ですか!? 
じゃあ試しに――」

ミンデが勢いよくポーズを取った瞬間、祠の床に足を滑らせ――

「ぅわぁっ!?」

見事に転倒。

ティア:「……。」

セリア:「……まだこれからですから。」

ティアは額を押さえ、小さくため息をついた。
「勇者の道は、果てしなく遠いわね……。」

「い、痛たた……。でも!
俺、がんばります!!」

ティアは微笑み、少しだけ頬を染めて言った。
「……そう、その調子よ。
がんばりなさい、勇者ミンデ。」

祠の光が穏やかに揺らめく中、
神と勇者、そして呆れ顔の使徒による――奇妙で微笑ましい旅の始まりだった。

世界に勇者誕生の知らせが広まった。
人々は希望に沸き、国王はその勇者――ミンデを宮殿へと招いた。

「この国を救う者よ、そなたに期待する!」
……と言われたミンデは、王の前で見事に声を裏返らせた。

「ひゃ、ひゃいっ!? 
が、がんばりますぅ!」

勇者、堂々の第一声がこれである。

その後、彼は冒険者ギルドに登録し、仲間を集めて旅に出たが――。
戦闘よりも筋トレと腹筋の方が多い“訓練の日々”が続いていた。


その頃、寮の自室。
ティアは神鏡を覗き込みながら、紅茶を啜っていた。

「セリア。
ミンデ、強くなれるかしら?」

「正直……あの様子では、すぐには難しいかと。」

神鏡の中では、ミンデが木の枝に足を引っかけて転んでいた。

「……あらまあ。」
ティアは苦笑いを漏らす。
「でもまぁ、根性はあるみたいだし。
暫く見守っていきましょう。
可愛いわね、必死な子って。」

「主様、それ完全に“親目線”でございます。」


一方、地上では学園が大忙し。
夏の陽射しが眩しい校庭では、学園祭の準備が進んでいた。

一年三組も出し物を決める会議中。
ティアは教室の隅で静かにメモを取りつつ、
(今回は目立たず平和に過ごす。裏方が一番安全。)
と、決意を胸にしていた。

壇上では、クラス委員長のクラベスと副委員長のカイルが真面目な顔で進行している。

「それでは、一年三組の出し物を決めます!」

「焼きそば!」
「お好み焼き!」
「たこ焼きだろ!」

男子たちの胃袋会議が始まる。

(いいわねぇ、庶民的で。
煙とソースの香りだけで満足できるタイプ。)
ティアは内心ホッと胸を撫でおろした。

その瞬間。
「ねぇ、ティア!」
前の席のミミィがくるりと振り返る。

「あのさ、メイドカフェとか、よくない?」

「……え?」
(いや、よくないわよ?
全然よくない!)

「だってさ~、ティアみたいな美少女がメイド服とか着たら絶対ウケるよ!
私もやりたいし。」

「ミ、ミミィ? それは……」

「アーシャもやろうよ!」

「私は絶対に嫌!」アーシャは即答。
ティアも続けて、控えめに手を上げる。
「わ、私も……その、裏方でいいかな?」

だが、ミミィはぷくっと頬を膨らませた。
「え~っ!友達でしょ!? 
一緒にやろうよぉ~!」

「ちょっ、ゴネないで!顔近い!」
ティアが慌てて後ずさると、ミミィは机の上に乗り出して叫んだ。

「委員長ーっ!
メイドカフェやりたい~!」

「えっ!?」

教室中が一瞬静まり――次の瞬間、大爆発。

「いいじゃん、それ!」
「うちのクラス可愛い子多いし!」
「メイド服着せたいランキング1位はティアだな!」

「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!?」
ティアとアーシャの叫びも空しく、すでに黒板には
《一年三組:メイド喫茶♡決定》の文字が大書されていた。

ティアは頭を抱え、机に突っ伏した。

「……どうしてこうなるの。」
「神の采配でしょうか。」
隣のアーシャが真顔でつぶやく。

ミミィはというと、両手を胸の前で組んでにっこり。
「じゃあティアは店長で、アーシャは副店長ね♪」

「聞いてないってばぁぁぁぁ!」
教室の笑い声が響く中、ティアの学園祭“静かに暮らしたい作戦”は
開始5分であっけなく崩壊したのだった。

学園祭の出し物「メイドカフェ」が決まってからというもの、
一年三組の教室はまるで“乙女の戦場”と化していた。

ミミィを中心に衣装係が盛り上がり、
布やリボンが机の上を占拠している。

「この白フリル、スカートの裾に付けたら絶対かわいい!」
「リボンはピンク?
いや、青も捨てがたい!」

「……なんでこんな真剣に議論してるのかしら。」
ティアは椅子に座ったまま、半分あきれ顔でため息をつく。
(私は裏方の予定だったのに……。)

「ティア~!
こっち来て~♡」
天使のような笑顔でミミィが手招きしている。
……悪魔的な天使だ。

「な、なに?
私ちょっと手伝いの方を――」

「ダーメ!」ミミィがぴしっと指を立てた。
「衣装合わせだよ!ティア専用サイズ。
もう出来てるの!」

「えぇぇ!? いつの間に!?」

「昨日、みんなで採寸したじゃない!」

「いや、それ“机の高さを測ってる”って聞いたのに!?」

ミミィはティアの手を強引に引っ張り、更衣室の方へ連行。
後ろからアーシャが腕を組んで付いてくる。

「ティア。
諦めろ。抵抗は無意味だ。」
「ぐぬぬ……!」

数分後。

「きゃーっ!かわいい~っ♡」
更衣室の扉が開くやいなや、女子たちの悲鳴が上がった。

そこには――
白と黒のメイド服を着たティアが、頬を真っ赤にして立っていた。

フリル付きのカチューシャ、リボンでまとめられた金髪。
エプロンの裾をつまんで立つ姿は、まるで絵画の中の一枚の光。

「ちょ、ちょっと……そんなに見ないで!」
ティアはスカートの裾を押さえながら、プルプルしている。

「うわぁ~!似合う!完璧だよティア!」
「神々しい……いや、ほんとに神なんだけど!」
「それ、宣伝ポスターにしよう!」

「や、やめなさいってばぁぁぁ!」
ティアは顔を真っ赤にして、逃げるように後ずさる。

アーシャは腕を組んだまま、冷静に一言。
「なるほど……破壊力が高すぎる。
これは敵の士気を削ぐタイプの魔法兵装だ。」

「違うから!? 
私は戦う気なんてないからっ!!」

ミミィは満面の笑みでティアの手を取る。
「決まりだね!
看板娘はティアに決定っ!」

「ちょ、ちょっと!? 誰がそんなこと――」
「議決取るまでもないでしょ~♡」

ティアはそのまま机に突っ伏し、力なく呟いた。

「……私はただ、静かに暮らしたかっただけなのに。」

その背中に、クラス全員の歓声が降り注ぐ。

こうして、蒼炎の神ティアは――
学園祭で“看板メイド”として君臨する運命を、
誰よりも強制的に背負うこととなったのであった。
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