毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十五章 400年後の未来

第百三十話 再会の勇者

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西方の要衝都市デュル。
勇者ミンデ一行は次なる目的地へ向けて準備を進めていた。
穏やかだった昼下がり、その静寂は突然の悲鳴で破られる。

「アルマだっ!
街の中にアルマが現れたぞ!」

瞬く間に街が騒然となる。
その知らせを真っ先に聞いたのは、宿の部屋で荷物をまとめていたミンデだった。

「ミンデ! 
アルマが出た!」
ドアを乱暴に開け放ち、槍使いホールディが飛び込んでくる。

「えっ!? 
街の中に!? 
急ごう!」

ミンデたちは装備を整え、現場へと駆け出した。
人々が逃げ惑う通りの先、そこには――銀色の人影が静かに立ち尽くしていた。

全身が金属のように輝き、機械めいた関節が淡く青く光っている。
その姿は、確かにアルマのようで、しかしどこか“違う”。

「……い……な……いのか……」
かすかに、人の声が漏れた。

「喋った!? 
アルマが!?」
ホールディが驚愕の声を上げる。

「やっぱりただのアルマじゃない!」
クルミナが詠唱を開始する。

「皆さん、やりますよ!」
ミンデが剣を構え、仲間たちは一斉に陣形を取った。

「喰らえっ! 
《突槍烈刃(ランス・インパクト)》!」
ホールディの槍が唸りを上げる。
しかしアルマは軽やかに身を翻し、その一撃を難なくかわした。

「はやっ!? 
金属の身体でこの動きだと!?」
クルミナが歯噛みする。

「なら――焼き払う! 《フレア・ボム》!」
轟音とともに火球が炸裂、路地に炎が広がる。

「クルミナさんっ! 
ダメです、ここ街中ですよ!」
ミンデが叫ぶが、時すでに遅し。
周囲の建物の屋根に炎が燃え移った。

「ご、ごめん! 
すぐ消すっ!」
慌てて水魔法を唱え、蒸気がもうもうと立ちこめる。

その隙に、聖剣士ミナンサが前へ出る。
「なら、私が! ――《聖剣・ルクスレイ》!」
白銀の軌跡が閃く。
だがアルマは攻撃を受け流すように腕を上げるだけだった。

まるで、戦う気などないかのように。

「……おかしい。
攻撃してこない。」
ミンデは剣を下ろしかけた。

「油断するなミンデ!」
ホールディが叫び、再び突進する。

その瞬間。
ミンデの頭に、どこか懐かしい声が響いた。

『勇者ミンデ。
戦いをやめなさい。』

それは、蒼炎神ティアの声。

「ティア様!? 
どういうことですか!」

次の瞬間、空が蒼く揺らめいた。
降り注ぐ光が一点に集まり、やがて人の姿を形づくる。
圧倒的な神々しさに、周囲の者たちは息を呑み、次々と跪いた。

「おお……蒼炎神ティア様だ……!」
「なんと尊い光だ……!」

ミンデたちの視線の先で、光の中の神が静かに言葉を紡ぐ。

「勇者ミンデ。
この者はアルマではありません。」

「え……違うのですか?」

「はい。
この者は……」

ティアはゆっくりと銀の人影に近づいた。
その瞳に、かすかな懐かしさと痛みが宿る。

「……ラムダ、なのね。」

その名を聞いた途端、金属の仮面の奥で青い光がわずかに揺らめいた。

「……主様……。」

その一言に、ティアの胸が熱くなる。
光の奥で、静かに涙が零れ落ちた。

「もういいの。
あなたは……よく頑張ったわ。」

「……私の役目は、終わったのですか?」

「ええ。
あなたはロイスと共に、この世界をずっと守ってくれていたんでしょ?
ありがとう。」

ティアがそっと手を伸ばすと、彼女の掌から蒼い光が溢れ、ラムダを包み込む。
金属の身体は静かに粒子となり、空へと溶けていく。

「主様……会えて……良かった……。」

その声が消えた瞬間、辺りは静寂に包まれた。
光が消え、風が通り抜ける。

ティアの胸の奥にラムダとロイスの記憶が、あたたかな残響となって溶け込んでいった。

ミンデはただ、祈るように頭を垂れた。
神と、その従者の再会の光景を、決して忘れぬようにと。

勇者たちとの邂逅からしばらく後。
寮の自室に戻ったティアは、静かに息を吐きながらソファへ腰を下ろした。
部屋の窓からは夕暮れの光が差し込み、柔らかな橙色がカーテンを揺らしている。

「ラムダですか?」
背後から現れたセリアが、静かに問いかけた。

「ええ……まさかアルマと間違えられるなんてね。
四百年も、私を探して彷徨っていたなんて……本当に、可哀想なことをしたわ。」
ティアは悲しげに微笑む。
その目には、神でありながら“人”としての温かい感情が宿っていた。

「主様は眠っておられたのです。
仕方のないことです。
それに最後に主様にお会いできて、ラムダも幸せだったと思います。」
セリアの声は、穏やかで包み込むようだった。

「……そうだといいのだけれど。」
ティアは小さく頷き、天井を見上げた。

「そういえば、私が神になった時、この世界と魔界は切り離されたのよね?」

「はい。
一部の魔族はこの世界に残りましたが、魔界そのものは何故か融合せず、完全に分離されたようです。」

「……つまり、別の世界に飛ばされた可能性があるってことね。」

そう呟いたとき、空気がふと揺れた。
視界の端が波打つように歪み、ティアはすぐに気づく。

「……ん? 
空間が歪み始めてる。
セリア、感じる?」

「はい。
この部屋です。」

次の瞬間――空間がバリバリと裂け、光の裂け目が生まれた。

「ふぅ~っ! 
やっとじゃ! 
ようやく探し当てたわい!」

勢いよく現れたのは、小柄で白髭の老人。
いや、奇才にして天才科学者の従者アダミルその人だった。

「……アダミル?」
ティアは目を丸くする。

「おおっ、主よ! 
ようやく見つけたぞ!
まったく、人間界に来るのがどれほど大変だったか! 
魔界からの転送は全部封じられとるんじゃ!
ラムダが何処の誰だかわからんが破壊しおった!
おかげで亜空間ビーコンが作動してのう! 
その信号を辿って主の位置を特定したのじゃ!
いや~、ラッキーじゃったわい!」

早口でまくし立てるアダミルを、ティアは呆れながらも懐かしげに見つめる。

「あなたは消滅せず済んだのね。
それにしても相変わらずね、アダミル。
……で、どうやってここまで転移してきたの?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた! 
この《亜空間転移リング》のおかげじゃ!」
得意げに掲げた手の指には、小さな赤い宝石が光を放っていた。

「へぇ、すごいわね。
……もちろん、私の分も?」

「もちろんじゃとも! 
天才アダミルを誰と心得る! 
ほれっ!」
アダミルは懐から同じ指輪を取り出し、ティアに差し出した。

「ありがとう。
まったく……洒落たことを考えるわね。」
ティアは受け取りながら微笑む。

「ふん、当然じゃ! 
それにしても……セリアもおったとはのう。
他の者たちはどうしたんじゃ?」

「お久しぶりです、アダミル。」
セリアは静かに微笑み、ティアの隣に腰を下ろした。
「その件については、私から説明いたします。」

セリアがこれまでの経緯、そして現在に至るまでを語ると、アダミルは長い顎髭を撫でながら「ふむふむ」と聞き入っていた。

「なるほどのう……主が神にまでなっておられたとは。
他の者たちが失われたか。
まあ、それは残念じゃ。
じゃが、何とかなる者も居るかもしれんな。」
不敵な笑みを浮かべるアダミルに、ティアは警戒したように目を細める。

「……どういうこと、それ?」

「ふふふ! 
わしを誰と心得る! 
大天才・アダミル様じゃぞ!
まあ、今は詳しくは言えんが……“いい知らせ”を持ってくるとだけ言っておこうかのう!」
そう言って、彼は指輪の宝石を軽く叩いた。

「数週間じゃ! 
数週間待っとれ! 
きっと驚くぞ!」

軽快な笑い声を残して――アダミルの姿は、再び亜空間の裂け目とともに消え去った。

部屋に残されたティアとセリアは、しばらく呆然とその場に立ち尽くす。
やがてティアが小さく肩をすくめた。

「……変わらないわね、ほんとに。」

「ええ、まるで時が止まっていたかのようです。」

ふたりは思わず笑い合った。
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