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第十六章 神ティアとアルマ
第百三十ニ話 アルマ侵攻
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夜の帳が降り、ルイーツの街は淡い青白い光に包まれていた。
坑道の入り口からは、風が低く唸りを上げて吹き抜け、まるで大地そのものが息をしているようだ。
「……眠れませんね。」
ミナンサが窓辺で呟く。
外では、風に混じって“かすかな金属音”が響いていた。
カン、カン……と、遠くの鉱夫が作業しているかのように。
「この時間に作業なんてあるわけないわ。」
クルミナが眉をひそめる。
「さっきから耳障りな音。
まるで、鉄を叩くじゃなくて“鉄が歩いてる”みたい。」
その言葉に、ミンデの胸がざわりと鳴った。
勇者の勘――いや、“危機察知”が、静かに警鐘を鳴らしている。
「……来る。」
ミンデが立ち上がる。
「みんな、装備を整えて。
これは、ただの気のせいじゃありません。」
ホールディは槍を握り、クルミナは杖に火を灯した。
ミナンサも剣を抜き、窓の外を警戒する。
そのときだった――。
ガンッ……ガン……ガン……ッ。
重く鈍い音が、宿の裏手から近づいてくる。
そして、何かが“壁をなぞるような音”が響いた。
キィ……キィィ……。
「裏口!」
ホールディが声を上げた。
ミンデが扉を開けて外へ出ると、
霧の中に人影が立っていた。
それは、まるで“金属でできた人間”。
街で見た“人型アルマ”とよく似た姿。
だが、その動きはどこか不自然で、ぎこちなく、そして痛々しかった。
「おい……あれ、同じヤツじゃないか?」
ホールディが槍を構える。
だがミンデは首を横に振る。
「違う……あれこそ、人型アルマ。
先の個体、ティア様が光に還した者とは別物です。」
「でも、似てるわね。」
ミナンサが呟く。
その“金属の人影”が、ぎしりと音を立てて振り向いた。
顔のない仮面の口元が、微かに開く。
「……人間は滅ばねばならない。」
その瞬間、周囲の霧がざわりと蠢き、
背後の坑道の入口から、複数の足音が響き始めた。
「増えてる!?」
クルミナの声が震える。
火の灯りに浮かび上がったのは、十体以上の、同じ姿の人型アルマ。
金属の体、空虚な眼窩、そして一斉に動く動作。
まるでひとつの意志に操られているようだった。
「囲まれてる……っ!」
ミナンサが剣を構え、ミンデの隣に立つ。
「ミンデ、どうする!?」
「戦う!」
ミンデが剣を抜き、光が刃に走る。
「迷ってる暇わないよ。
このままだと街に被害が出る!」
勇者の叫びと同時に、街の夜が閃光に包まれた。
クルミナの魔法が弾け、ホールディの槍が唸る。
だが人型たちは怯むことなく、ただ一心に口を開く。
「人間に死を。」
その声は、悲鳴でも怒りでもなく――
“祈り”のようだった。
ミンデは戦いながら感じていた。
これは、ただの敵ではない。
彼らの“主”何処かで操っている者がいるに違いない。
そして、その背後に、もっと深い闇が蠢いている。
ティアが知らぬ間に生まれた、もうひとつの意思。
“神の遺した欠片”が、世界の裏で動き出していた――。
勇者となった日の事を、ミンデは思い出していた。
「蒼炎神ティア様……アルマとは、何なのでしょうか?」
あの日、彼は地に跪き、蒼く光を纏う女神を見上げていた。
「ミンデ。」
ティアは揺らぐ炎火のような瞳で、静かに語る。
「私が神として“形”を得たとき。
七つの異世界が溶け合い、一つとなりこの世界が生まれたの。
その過程で生じた矛盾、歪み、そして“混沌”。
それが――アルマ。」
「では……アルマは、世界の闇そのもの……?」
「そう。
私の光が強ければ、影もまた強く濃くなる。
それは摂理であり、宿命……。」
ティアはミンデをまっすぐ見つめた。
「勇者ミンデ。
あなたは、その“影”を追い、正す者。
アルマの真相を見極めなさい。
お願いします。」
その言葉は、祈りのようであり、命のようでもあった。
そして今。
ミンデは人型アルマと対峙しながら、確かにあの日の声を思い出していた。
「……ねぇ、セリア。」
屋敷、ティアの私室。
神鏡に映るミンデたちの戦いを見つめながら、ティアは小さく微笑んだ。
「ミンデ、勇者らしくなってきたんじゃない?」
「確かに。
ですが――」
セリアは冷静に告げる。
「主様が勇者に“世界の影を正せ”と命じられた以上、彼は止まりません。
ですが、あの人型アルマを今の勇者では倒せないでしょう。」
「うっ……。」
ティアは視線をそらし、頬を指でつつく。
「ま、まぁ……いざとなれば助けに行くわよ。」
「主様。
いざとなるのは“今”です。」
セリアの声は冷ややかだったが、瞳は本気だ。
「わかったわよ!助けるわよ!」
ティアはぶんっと手を振る。
「ただ、その前にちょっと寄る場所があるの。
ミンデの様子は頼んだわ。
危なくなったら、セリアが先に行って。」
「御意。」
ティアは蒼い光となり、姿を消した。
― 神界・鍛冶の殿 ―
ティアがやって来たのは、神界でも屈指の炎と鉄の神殿。
鍛冶神ルフタが巨大な炉の前で腕を組んでいた。
「おぉ、ユス――いや、今は蒼炎神ティアだったな。」
「その名前で呼ばないでよ。
もう昔の話よ。」
ティアは頬を膨らませる。
「ははは。
悪かった悪かった。」
ルフタは豪快に笑うと、一本の剣を掲げた。
「蒼炎の神剣《ソリッシュクレイヴ》――完成だ。」
剣身は蒼い焰を内に宿し、ただそこにあるだけで空気が震える。
「……綺麗。」
ティアは目を潤ませるほどに見惚れた。
「礼はいい。
ただし条件は分かっておるな。」
「一つだけお願いを聞く、でしょ?
覚えてるわ。」
「うむ。」
ルフタはにやりと笑う。
「今夜一晩、わしとナイトチェスを付き合え。」
「良いわよ。
それくらい。」
ティアはあっさり返す。
「“それくらい”って……お前な……。
神界中の神が泣いて羨むぞ。
蒼炎神ティアと夜通しナイトチェスをして語れるんだからな!」
「あら?
そうなの?
なら少しは楽しませなきゃね。」
二人は夜が明けるまで、鍛冶と創世、世界と光について語り合った。
焔は揺れ、蒼は星々に反射し、夜は深く澄んでいった。
夜明け前の淡い光が差す学園寮。
ティアはそっと自室に戻ってきた。髪にはまだ神界の焔の香りが残っている。
「セリア。
ミンデの様子はどう?」
セリアは机の上の神鏡から顔を上げた。
表情は相変わらず涼しい。
「お帰りなさいませ、主様。
……随分、遅かったですね。」
「ちょっとね。
まぁ、語り合ってたのよ、色々。」
ティアは肩を回しながらソファに倒れ込む。
「ミンデは予想以上に奮戦しております。
最初の侵攻は押し返しました。
ですが――」
「後続が来てるのね。」
「はい。
アルマの群勢、規模は先程を上回ります。」
ティアは目を細める。
「……頑張ってるのね、ミンデ。」
「では主様はどうなさいますか?
『ここまで頑張ったのだから、見守っておこう』という選択も――」
「そんなわけないでしょう!」
ティアは即ツッコミの勢いでクッションをセリアに投げた。
「主様が美味しいところを持っていくかがお悩みなのかと思いましたので。」
「う……いや、それは、ちょっとだけ思ってたけど……!」
ティアは赤面して髪をぐしゃぐしゃにする。
「ですが、見殺しにするという選択であれば話は早――」
「しないってば!」
ティアは立ち上がり、神鏡に視線を向ける。
「……助けに行くわ。
ちゃんと。」
セリアは微かに微笑む。
「御意。」
鉱都ルイーツ、緊迫の宿舎
一方その頃、ミンデたちは宿泊施設の一室に集まっていた。
外では警備隊が慌ただしく走り回っている。
「警備隊からの報告。
人型アルマの大群が森を抜けてこちらへ進軍中だ。」
ホールディは険しい表情で机に地図を広げた。
「さっきの戦いでなんとか押し返せたけど……今回は数が桁違いだよ。」
クルミナは眉を寄せてため息をつく。
「それでも――」
ミンデは拳を握りしめ、皆を見渡した。
「逃げるわけにはいかない。
僕たちが止めないと、この街の人たちが……。」
その瞳には迷いがなかった。
不安も、恐怖も、全部飲み込んだ上で立とうとしていた。
「ミンデ……。」
ミナンサが小さく呟く。
重い空気が、場を満たしていた。
その決意を、同じように見つめる者がいた。
「……ミンデ。
すごいじゃない。」
神鏡を前に、ティアはそっと微笑む。
「行かれますか?
主様。」
セリアが頭を下げる。
ティアは、蒼炎を纏い、立ち上がった。
「――この世界は、私が照らす。」
蒼の光が部屋を満たし、ティアは戦場へ向けて姿を消した。
坑道の入り口からは、風が低く唸りを上げて吹き抜け、まるで大地そのものが息をしているようだ。
「……眠れませんね。」
ミナンサが窓辺で呟く。
外では、風に混じって“かすかな金属音”が響いていた。
カン、カン……と、遠くの鉱夫が作業しているかのように。
「この時間に作業なんてあるわけないわ。」
クルミナが眉をひそめる。
「さっきから耳障りな音。
まるで、鉄を叩くじゃなくて“鉄が歩いてる”みたい。」
その言葉に、ミンデの胸がざわりと鳴った。
勇者の勘――いや、“危機察知”が、静かに警鐘を鳴らしている。
「……来る。」
ミンデが立ち上がる。
「みんな、装備を整えて。
これは、ただの気のせいじゃありません。」
ホールディは槍を握り、クルミナは杖に火を灯した。
ミナンサも剣を抜き、窓の外を警戒する。
そのときだった――。
ガンッ……ガン……ガン……ッ。
重く鈍い音が、宿の裏手から近づいてくる。
そして、何かが“壁をなぞるような音”が響いた。
キィ……キィィ……。
「裏口!」
ホールディが声を上げた。
ミンデが扉を開けて外へ出ると、
霧の中に人影が立っていた。
それは、まるで“金属でできた人間”。
街で見た“人型アルマ”とよく似た姿。
だが、その動きはどこか不自然で、ぎこちなく、そして痛々しかった。
「おい……あれ、同じヤツじゃないか?」
ホールディが槍を構える。
だがミンデは首を横に振る。
「違う……あれこそ、人型アルマ。
先の個体、ティア様が光に還した者とは別物です。」
「でも、似てるわね。」
ミナンサが呟く。
その“金属の人影”が、ぎしりと音を立てて振り向いた。
顔のない仮面の口元が、微かに開く。
「……人間は滅ばねばならない。」
その瞬間、周囲の霧がざわりと蠢き、
背後の坑道の入口から、複数の足音が響き始めた。
「増えてる!?」
クルミナの声が震える。
火の灯りに浮かび上がったのは、十体以上の、同じ姿の人型アルマ。
金属の体、空虚な眼窩、そして一斉に動く動作。
まるでひとつの意志に操られているようだった。
「囲まれてる……っ!」
ミナンサが剣を構え、ミンデの隣に立つ。
「ミンデ、どうする!?」
「戦う!」
ミンデが剣を抜き、光が刃に走る。
「迷ってる暇わないよ。
このままだと街に被害が出る!」
勇者の叫びと同時に、街の夜が閃光に包まれた。
クルミナの魔法が弾け、ホールディの槍が唸る。
だが人型たちは怯むことなく、ただ一心に口を開く。
「人間に死を。」
その声は、悲鳴でも怒りでもなく――
“祈り”のようだった。
ミンデは戦いながら感じていた。
これは、ただの敵ではない。
彼らの“主”何処かで操っている者がいるに違いない。
そして、その背後に、もっと深い闇が蠢いている。
ティアが知らぬ間に生まれた、もうひとつの意思。
“神の遺した欠片”が、世界の裏で動き出していた――。
勇者となった日の事を、ミンデは思い出していた。
「蒼炎神ティア様……アルマとは、何なのでしょうか?」
あの日、彼は地に跪き、蒼く光を纏う女神を見上げていた。
「ミンデ。」
ティアは揺らぐ炎火のような瞳で、静かに語る。
「私が神として“形”を得たとき。
七つの異世界が溶け合い、一つとなりこの世界が生まれたの。
その過程で生じた矛盾、歪み、そして“混沌”。
それが――アルマ。」
「では……アルマは、世界の闇そのもの……?」
「そう。
私の光が強ければ、影もまた強く濃くなる。
それは摂理であり、宿命……。」
ティアはミンデをまっすぐ見つめた。
「勇者ミンデ。
あなたは、その“影”を追い、正す者。
アルマの真相を見極めなさい。
お願いします。」
その言葉は、祈りのようであり、命のようでもあった。
そして今。
ミンデは人型アルマと対峙しながら、確かにあの日の声を思い出していた。
「……ねぇ、セリア。」
屋敷、ティアの私室。
神鏡に映るミンデたちの戦いを見つめながら、ティアは小さく微笑んだ。
「ミンデ、勇者らしくなってきたんじゃない?」
「確かに。
ですが――」
セリアは冷静に告げる。
「主様が勇者に“世界の影を正せ”と命じられた以上、彼は止まりません。
ですが、あの人型アルマを今の勇者では倒せないでしょう。」
「うっ……。」
ティアは視線をそらし、頬を指でつつく。
「ま、まぁ……いざとなれば助けに行くわよ。」
「主様。
いざとなるのは“今”です。」
セリアの声は冷ややかだったが、瞳は本気だ。
「わかったわよ!助けるわよ!」
ティアはぶんっと手を振る。
「ただ、その前にちょっと寄る場所があるの。
ミンデの様子は頼んだわ。
危なくなったら、セリアが先に行って。」
「御意。」
ティアは蒼い光となり、姿を消した。
― 神界・鍛冶の殿 ―
ティアがやって来たのは、神界でも屈指の炎と鉄の神殿。
鍛冶神ルフタが巨大な炉の前で腕を組んでいた。
「おぉ、ユス――いや、今は蒼炎神ティアだったな。」
「その名前で呼ばないでよ。
もう昔の話よ。」
ティアは頬を膨らませる。
「ははは。
悪かった悪かった。」
ルフタは豪快に笑うと、一本の剣を掲げた。
「蒼炎の神剣《ソリッシュクレイヴ》――完成だ。」
剣身は蒼い焰を内に宿し、ただそこにあるだけで空気が震える。
「……綺麗。」
ティアは目を潤ませるほどに見惚れた。
「礼はいい。
ただし条件は分かっておるな。」
「一つだけお願いを聞く、でしょ?
覚えてるわ。」
「うむ。」
ルフタはにやりと笑う。
「今夜一晩、わしとナイトチェスを付き合え。」
「良いわよ。
それくらい。」
ティアはあっさり返す。
「“それくらい”って……お前な……。
神界中の神が泣いて羨むぞ。
蒼炎神ティアと夜通しナイトチェスをして語れるんだからな!」
「あら?
そうなの?
なら少しは楽しませなきゃね。」
二人は夜が明けるまで、鍛冶と創世、世界と光について語り合った。
焔は揺れ、蒼は星々に反射し、夜は深く澄んでいった。
夜明け前の淡い光が差す学園寮。
ティアはそっと自室に戻ってきた。髪にはまだ神界の焔の香りが残っている。
「セリア。
ミンデの様子はどう?」
セリアは机の上の神鏡から顔を上げた。
表情は相変わらず涼しい。
「お帰りなさいませ、主様。
……随分、遅かったですね。」
「ちょっとね。
まぁ、語り合ってたのよ、色々。」
ティアは肩を回しながらソファに倒れ込む。
「ミンデは予想以上に奮戦しております。
最初の侵攻は押し返しました。
ですが――」
「後続が来てるのね。」
「はい。
アルマの群勢、規模は先程を上回ります。」
ティアは目を細める。
「……頑張ってるのね、ミンデ。」
「では主様はどうなさいますか?
『ここまで頑張ったのだから、見守っておこう』という選択も――」
「そんなわけないでしょう!」
ティアは即ツッコミの勢いでクッションをセリアに投げた。
「主様が美味しいところを持っていくかがお悩みなのかと思いましたので。」
「う……いや、それは、ちょっとだけ思ってたけど……!」
ティアは赤面して髪をぐしゃぐしゃにする。
「ですが、見殺しにするという選択であれば話は早――」
「しないってば!」
ティアは立ち上がり、神鏡に視線を向ける。
「……助けに行くわ。
ちゃんと。」
セリアは微かに微笑む。
「御意。」
鉱都ルイーツ、緊迫の宿舎
一方その頃、ミンデたちは宿泊施設の一室に集まっていた。
外では警備隊が慌ただしく走り回っている。
「警備隊からの報告。
人型アルマの大群が森を抜けてこちらへ進軍中だ。」
ホールディは険しい表情で机に地図を広げた。
「さっきの戦いでなんとか押し返せたけど……今回は数が桁違いだよ。」
クルミナは眉を寄せてため息をつく。
「それでも――」
ミンデは拳を握りしめ、皆を見渡した。
「逃げるわけにはいかない。
僕たちが止めないと、この街の人たちが……。」
その瞳には迷いがなかった。
不安も、恐怖も、全部飲み込んだ上で立とうとしていた。
「ミンデ……。」
ミナンサが小さく呟く。
重い空気が、場を満たしていた。
その決意を、同じように見つめる者がいた。
「……ミンデ。
すごいじゃない。」
神鏡を前に、ティアはそっと微笑む。
「行かれますか?
主様。」
セリアが頭を下げる。
ティアは、蒼炎を纏い、立ち上がった。
「――この世界は、私が照らす。」
蒼の光が部屋を満たし、ティアは戦場へ向けて姿を消した。
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