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第十七章 楽園編
第百四十三話 再び楽園へ
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ティアのアイドルライブが成功し、学園が熱狂に包まれていたその裏で──
リシェラ、ルシェア、カイルの三人は、従者部屋で事務作業をしているセリアの元を訪れていた。
「まあ、今度は何かしら?」
セリアは帳簿に目を通したまま、そっと視線だけを三人へ向ける。
「主様から仰せつかった任務について報告したところ……セリア殿の意見も聞け、とのことでした。」
ルシェアが、どこか力の抜けた声で答えた。
「そう。では、お聞かせください。」
セリアは手を止め、完全に三人へ向き直った。
三人はこれまでの経緯を、最初から細かく説明していく。
「……なるほど。
主様も、また意地悪な指示を出しましたね。」
セリアは一度目を閉じ、軽く息をついた。
「私から言えるのは一つだけです。
気にせず、自分達なりに処分なさって問題ありません。」
「なっ……!
本当に?
俺たちの解釈で……?」
ルシェアは思わず机を叩き、驚きを隠せない。
「そうです。
まあ、そんなに深く考えなくて良いと思いますよ。
……とはいえ、これ以上は言えません。
主様の“考え”が見え隠れしますので。」
セリアは小さく首を振った。
「もっと踏み込んだ答えがほしいなら、ダクトス殿に聞いてみるといいでしょう。
あの方なら、より核心に近い助言が得られるかもしれません。」
そして、山積みの書類に視線を戻しながら言った。
「すみませんが、私はこれ以上時間が取れませんので……今日はここまでに。」
三人は肩を落とし、部屋から退出した。
「なんだよ……。
セリア殿まで同じことを言うなんて。」
カイルが悔しさを隠せず声を荒らげる。
「カイル。
セリア殿が同じことを言ったということは、確実に理由があるはずです。」
ルシェアは冷静だった。
「ここは、ダクトス殿のお話を聞きましょう。」
こうして三人は、夜の学園長室を訪れた。
ノックすると、すぐに重厚な扉が静かに開く。
「ようこそ。
……そろそろ来る頃だろうと思ってましたよ。」
ダクトスはソファに腰掛け、三人に座るように手で示した。
座ると同時に、ダクトスはグラスを三つ用意し、上質な酒を注ぐ。
「まあ、飲みながら話しましょう。」
軽くグラスを掲げ、三人と軽く合わせた。
「それで、用件は?」
三人は一息ついてから、セリアに話したときと同じように、全てを説明した。
「ふむ……。
洞窟の奥には巨大な空間があり、そこで街を築き、『楽園』と呼んで暮らしている人々がいた、と。」
「そうなんだ。
なのに主様は、それを“処分しろ”って……!」
カイルは抑えきれない怒りを吐き出した。
ダクトスは酒を一口飲み、少しだけ目を細めた。
「神ティアも、また意地悪をされましたね。」
そして静かに続ける。
「では、私からのアドバイスは一つだけです。
その街で、しばらく暮らしてみなさい。」
三人の表情が揃って曇る。
「そこで過ごしてみれば、
神ティアが言った“処分”の意味が、きっと分かるはずですよ。」
ダクトスの静かな声が、部屋の空気を変えた。
三人は顔を見合わせ、深く頷く。
そして再び『楽園』へと向かう決意を固めたのだった。
再び“楽園”へと足を踏み入れた三人は、まず街の長に会うことにした。
街の人々に尋ねると、この空間を神ティアから預かっている長がいるとのこと。
街の中央にひときわ立派な佇まいの家がある。
門の前には、庭の手入れをしている金髪の男性の姿があった。整った顔立ちに、物腰の柔らかい雰囲気。人間換算なら四十ほどだろう。
「あなたがこの街の長か?」
カイルが声をかける。
「はい。
そうですが……あなた方は?」
男性は怪訝そうに振り返る。
「俺たちは神ティアの使徒だ。俺がカイル。この二人はルシェアとリシェラ。」
「ご挨拶いたします。」
三人は軽く頭を下げた。
「おお……神ティア様の使徒様!
ようこそお越しくださいました!」
男性は、ぱっと表情を明るくし、深々と頭を下げた。
「私はナディル。
この街を神ティア様から託されております。
どうぞ、中へ。」
三人は案内され、家の中へ。
清潔に整えられたリビングのソファへ座ると、ナディルがお茶を運んできた。
「粗茶ですが、どうぞごゆるりと。」
「ありがとう。
それで……この街について、詳しく聞きたい。」
カイルが身を乗り出す。
「私たちは神ティアから、この街の由来を聞かされておりませんの。
教えていただければ。」
リシェラは礼儀正しく尋ねた。
「なるほど。
セリア様とダクトス様は、ここしばらくお見えになっていませんでしたからね。
新たな使徒様方なのですね。」
ナディルは頷く。
「この街は、神ティア様が――行き場をなくした私たちのために創造し、与えてくださった空間です。
ここにいる者は、ほとんどがアルマによって暮らしを失い、家族を奪われ、生き場をなくした者ばかりで……。」
「……なるほど。」
ルシェアは眉を寄せる。
「セリア殿もダクトス殿も、ここを訪れていたのですね。」
「それにしても……神ティアがこの空間そのものを創造したとは、驚きです。」
リシェラが続けると、ナディルは微笑んだ。
「神ティア様は、美しく、可愛らしく、優しく……そして、慈愛に満ち溢れた神です。
この街の者は皆、毎朝の祈りで感謝を捧げております。」
三人は顔を見合わせた。
余計に分からなくなった、という顔だ。
「ナディル殿。
私たちはしばらくこの街に滞在したいのですが、空いている家はありますか?」
リシェラが尋ねる。
「でしたら、セリア様たちが以前お使いになっていた家がございます。
ご案内いたします。」
三人はナディルに導かれて、その家へ向かった。
中へ入ると、立派な造りに加え、生活感すら感じるほど整った空間が広がる。
三人は一通り部屋を見て回ったのち、リビングのソファに腰掛けた。
「……どうなってんだ、マジで。」
カイルが天井を見上げて唸る。
「とにかく、暫く暮らしてみるしかないな。」
「ええ。
まずは“朝の祈り”に参加してみましょう。
それで何か掴めるかもしれません。」
ルシェアとリシェラが頷く。
こうして三人は、神ティアが創造したと言われる“楽園の街”に滞在することになった。
次の日。
3人は街の人々が毎朝祈りを捧げるという教会へ向かった。
この楽園には数百人が暮らしており、教会も三つほどある。
そのうち最も大きい教会の前に立つと、既に外まで人が溢れていた。
「す、すごい人の数ね……」
思わずルシェアが息を呑む。
やがて定刻になると、ざわめきが静まり、人々が一斉に跪いた。
次の瞬間、重なる声が教会の空気を震わせる。
「我らが美しく、可愛らしく、優しく、慈愛に満ちた神ティアよ。
どうか、今日も我らをお守りください。」
老いも若きも、子どもまでもが、同じ言葉を心からささげていた。
それは押しつけられた儀式とは違い、敬愛と感謝が自然に溢れた光景だった。
3人は呆然とその場を見つめる。
「……神ティアは、本当に愛されているのね」
リシェラは小さく呟き、胸に温かな何かが灯るのを感じた。
「美しいわ。
こんな祈り……初めて見たもの」
ルシェアも思わず表情を緩ませる。
「俺たちも……祈ろう、か」
カイルが照れくさそうに言うと、3人は静かに跪き、同じ祈りを口にした。
祈り終えた後、胸の奥が洗われたように清々しい心地になる。
そのまま街の探索へと歩き出すと。
「おおっ!
神ティア様の使徒様だ!」
道ですれ違う人々が、うれしそうに声を上げた。
どうやら既に街中に噂が広まっているらしい。
「おう!
なんか手伝うことあるか?」
気分が良くなったカイルが、気さくに声を掛けると。
「ああ!じゃあ畑の手伝いを頼む!」
「荷物運びをお願いできませんか?」
「家の修繕を手伝ってほしくて……!」
次々と頼みごとが舞い込み、気付けば3人とも大忙しになっていた。
カイルは汗だくになりながら畑仕事を手伝い、
ルシェアは器用さを活かして荷物運びと整理をし、
リシェラは街の女性たちに混じって料理を手伝い、大いに喜ばれた。
日の暮れる頃には、すっかり街に溶け込み、皆に笑顔で手を振られるほどになっていた。
「……思ってたのと、全然違うわね」
「うん。
神ティアが言われる処分って、どういう意味なんだ……?」
楽しげな空気とは裏腹に、心の奥には小さな違和感が積もり始めていた。
リシェラ、ルシェア、カイルの三人は、従者部屋で事務作業をしているセリアの元を訪れていた。
「まあ、今度は何かしら?」
セリアは帳簿に目を通したまま、そっと視線だけを三人へ向ける。
「主様から仰せつかった任務について報告したところ……セリア殿の意見も聞け、とのことでした。」
ルシェアが、どこか力の抜けた声で答えた。
「そう。では、お聞かせください。」
セリアは手を止め、完全に三人へ向き直った。
三人はこれまでの経緯を、最初から細かく説明していく。
「……なるほど。
主様も、また意地悪な指示を出しましたね。」
セリアは一度目を閉じ、軽く息をついた。
「私から言えるのは一つだけです。
気にせず、自分達なりに処分なさって問題ありません。」
「なっ……!
本当に?
俺たちの解釈で……?」
ルシェアは思わず机を叩き、驚きを隠せない。
「そうです。
まあ、そんなに深く考えなくて良いと思いますよ。
……とはいえ、これ以上は言えません。
主様の“考え”が見え隠れしますので。」
セリアは小さく首を振った。
「もっと踏み込んだ答えがほしいなら、ダクトス殿に聞いてみるといいでしょう。
あの方なら、より核心に近い助言が得られるかもしれません。」
そして、山積みの書類に視線を戻しながら言った。
「すみませんが、私はこれ以上時間が取れませんので……今日はここまでに。」
三人は肩を落とし、部屋から退出した。
「なんだよ……。
セリア殿まで同じことを言うなんて。」
カイルが悔しさを隠せず声を荒らげる。
「カイル。
セリア殿が同じことを言ったということは、確実に理由があるはずです。」
ルシェアは冷静だった。
「ここは、ダクトス殿のお話を聞きましょう。」
こうして三人は、夜の学園長室を訪れた。
ノックすると、すぐに重厚な扉が静かに開く。
「ようこそ。
……そろそろ来る頃だろうと思ってましたよ。」
ダクトスはソファに腰掛け、三人に座るように手で示した。
座ると同時に、ダクトスはグラスを三つ用意し、上質な酒を注ぐ。
「まあ、飲みながら話しましょう。」
軽くグラスを掲げ、三人と軽く合わせた。
「それで、用件は?」
三人は一息ついてから、セリアに話したときと同じように、全てを説明した。
「ふむ……。
洞窟の奥には巨大な空間があり、そこで街を築き、『楽園』と呼んで暮らしている人々がいた、と。」
「そうなんだ。
なのに主様は、それを“処分しろ”って……!」
カイルは抑えきれない怒りを吐き出した。
ダクトスは酒を一口飲み、少しだけ目を細めた。
「神ティアも、また意地悪をされましたね。」
そして静かに続ける。
「では、私からのアドバイスは一つだけです。
その街で、しばらく暮らしてみなさい。」
三人の表情が揃って曇る。
「そこで過ごしてみれば、
神ティアが言った“処分”の意味が、きっと分かるはずですよ。」
ダクトスの静かな声が、部屋の空気を変えた。
三人は顔を見合わせ、深く頷く。
そして再び『楽園』へと向かう決意を固めたのだった。
再び“楽園”へと足を踏み入れた三人は、まず街の長に会うことにした。
街の人々に尋ねると、この空間を神ティアから預かっている長がいるとのこと。
街の中央にひときわ立派な佇まいの家がある。
門の前には、庭の手入れをしている金髪の男性の姿があった。整った顔立ちに、物腰の柔らかい雰囲気。人間換算なら四十ほどだろう。
「あなたがこの街の長か?」
カイルが声をかける。
「はい。
そうですが……あなた方は?」
男性は怪訝そうに振り返る。
「俺たちは神ティアの使徒だ。俺がカイル。この二人はルシェアとリシェラ。」
「ご挨拶いたします。」
三人は軽く頭を下げた。
「おお……神ティア様の使徒様!
ようこそお越しくださいました!」
男性は、ぱっと表情を明るくし、深々と頭を下げた。
「私はナディル。
この街を神ティア様から託されております。
どうぞ、中へ。」
三人は案内され、家の中へ。
清潔に整えられたリビングのソファへ座ると、ナディルがお茶を運んできた。
「粗茶ですが、どうぞごゆるりと。」
「ありがとう。
それで……この街について、詳しく聞きたい。」
カイルが身を乗り出す。
「私たちは神ティアから、この街の由来を聞かされておりませんの。
教えていただければ。」
リシェラは礼儀正しく尋ねた。
「なるほど。
セリア様とダクトス様は、ここしばらくお見えになっていませんでしたからね。
新たな使徒様方なのですね。」
ナディルは頷く。
「この街は、神ティア様が――行き場をなくした私たちのために創造し、与えてくださった空間です。
ここにいる者は、ほとんどがアルマによって暮らしを失い、家族を奪われ、生き場をなくした者ばかりで……。」
「……なるほど。」
ルシェアは眉を寄せる。
「セリア殿もダクトス殿も、ここを訪れていたのですね。」
「それにしても……神ティアがこの空間そのものを創造したとは、驚きです。」
リシェラが続けると、ナディルは微笑んだ。
「神ティア様は、美しく、可愛らしく、優しく……そして、慈愛に満ち溢れた神です。
この街の者は皆、毎朝の祈りで感謝を捧げております。」
三人は顔を見合わせた。
余計に分からなくなった、という顔だ。
「ナディル殿。
私たちはしばらくこの街に滞在したいのですが、空いている家はありますか?」
リシェラが尋ねる。
「でしたら、セリア様たちが以前お使いになっていた家がございます。
ご案内いたします。」
三人はナディルに導かれて、その家へ向かった。
中へ入ると、立派な造りに加え、生活感すら感じるほど整った空間が広がる。
三人は一通り部屋を見て回ったのち、リビングのソファに腰掛けた。
「……どうなってんだ、マジで。」
カイルが天井を見上げて唸る。
「とにかく、暫く暮らしてみるしかないな。」
「ええ。
まずは“朝の祈り”に参加してみましょう。
それで何か掴めるかもしれません。」
ルシェアとリシェラが頷く。
こうして三人は、神ティアが創造したと言われる“楽園の街”に滞在することになった。
次の日。
3人は街の人々が毎朝祈りを捧げるという教会へ向かった。
この楽園には数百人が暮らしており、教会も三つほどある。
そのうち最も大きい教会の前に立つと、既に外まで人が溢れていた。
「す、すごい人の数ね……」
思わずルシェアが息を呑む。
やがて定刻になると、ざわめきが静まり、人々が一斉に跪いた。
次の瞬間、重なる声が教会の空気を震わせる。
「我らが美しく、可愛らしく、優しく、慈愛に満ちた神ティアよ。
どうか、今日も我らをお守りください。」
老いも若きも、子どもまでもが、同じ言葉を心からささげていた。
それは押しつけられた儀式とは違い、敬愛と感謝が自然に溢れた光景だった。
3人は呆然とその場を見つめる。
「……神ティアは、本当に愛されているのね」
リシェラは小さく呟き、胸に温かな何かが灯るのを感じた。
「美しいわ。
こんな祈り……初めて見たもの」
ルシェアも思わず表情を緩ませる。
「俺たちも……祈ろう、か」
カイルが照れくさそうに言うと、3人は静かに跪き、同じ祈りを口にした。
祈り終えた後、胸の奥が洗われたように清々しい心地になる。
そのまま街の探索へと歩き出すと。
「おおっ!
神ティア様の使徒様だ!」
道ですれ違う人々が、うれしそうに声を上げた。
どうやら既に街中に噂が広まっているらしい。
「おう!
なんか手伝うことあるか?」
気分が良くなったカイルが、気さくに声を掛けると。
「ああ!じゃあ畑の手伝いを頼む!」
「荷物運びをお願いできませんか?」
「家の修繕を手伝ってほしくて……!」
次々と頼みごとが舞い込み、気付けば3人とも大忙しになっていた。
カイルは汗だくになりながら畑仕事を手伝い、
ルシェアは器用さを活かして荷物運びと整理をし、
リシェラは街の女性たちに混じって料理を手伝い、大いに喜ばれた。
日の暮れる頃には、すっかり街に溶け込み、皆に笑顔で手を振られるほどになっていた。
「……思ってたのと、全然違うわね」
「うん。
神ティアが言われる処分って、どういう意味なんだ……?」
楽しげな空気とは裏腹に、心の奥には小さな違和感が積もり始めていた。
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