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第十七章 楽園編
第百四十四話 恋するティア
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学園ライブを大成功させ、人気急上昇中のティア。
翌朝登校すると、廊下の男子たちの視線が一斉に彼女へ向く。
「ティアちゃんおはよー!」
「ライブ見たよ!最高だった!」
そんな黄色い声。
いや、男子からも黄色い声の中、
ティアはどこか落ち着かない。
胸の奥がモゾモゾとくすぐったいのだ。
(……私、最近どうしちゃったんだろ)
席に着くと、ミミィとアーシャがいつものようにおしゃべりに花を咲かせている。
その途中、ティアはそわそわしながら口を開いた。
「ねぇ、ミミィ……その……私、もしかしたら……
気になる男子がいるかも」
「うおぉ!?
ティアに春が来た!?
誰!? 誰よっ!」
ミミィはテーブルに乗り出す勢いで食いつく。
アーシャも目をキラキラさせながら身を寄せた。
「ティアに色恋沙汰……これは大事件ですね」
ティアは耳まで赤くしながら答える。
「え、えっと……先輩なんだけど……三年一組の、ジルフィン先輩」
「おおぉぉぉ!!」
ミミィは興奮で机をバンッと叩いた。
アーシャも感心したように頷く。
「学園最強のスポーツマンにして魔法も学年一、成績もトップクラス。
さらにイケメン。
あの三拍子揃った王子様ですね」
「でも確か……彼、彼女いた気がするなぁ~」
ミミィは口を尖らせて思い返す。
ティアの表情が、しゅん……と曇った。
「そっか……やっぱりいるよね……」
「去年のミスセイントスターグランプリのフィレリス先輩よ。
超美人でしょ?
うん、あれはお似合いカップルだわ。
うんうん、これはもう諦め――」
「ミミィ、追い討ちかけないの」
アーシャがため息をつきながらティアの肩をぽんぽんと優しく叩く。
ティアはしばらく俯いたままだったが、
放課後になる頃には少し元気を取り戻していた。
「嫌なことは歌って吹き飛ばすのよ!」
というミミィの提案で、3人はミュウオケへ繰り出したのだ。
ルームではミミィとアーシャが全力で盛り上げ、
ティアもつられて笑顔を取り戻す。
「次ティアねー!
失恋ソングでもラブソングでも、どんと来い!」
「言わないで……!」
ティアは苦笑しながら飲み物を取りにドリンクバーへ。
すると――。
「あ……」
そこには、まさかのジルフィン先輩がいた。
「ん? あ、ティアさん。
君もミュウオケに来てたんだ。
友達と?」
眩しい笑顔にティアは固まる。
「あっ、は、はいっ……!
親友たちと!」
緊張で声が裏返る。
耳まで真っ赤だ。
「そっか。
俺も友達とさ。
じゃあ、またね。
楽しんで」
軽く手を振って去って行くジルフィン。
ティアの心臓は、
ドクンドクン……と暴れ馬のようだった。
飲み物をなんとか持って部屋に戻ると――。
「ちょっと聞いて!
ジ、ジルフィン先輩がいたの!!」
曲の合間に叫ぶティア。
ミミィはリモコン片手に「ふぅん?」とニヤリ。
アーシャもいたずらな笑みを浮かべた。
「話したの?」
「う、うん……緊張で死ぬかと思ったけど……」
「……乱入する?」
アーシャが悪い顔でティアを覗き込む。
「しないっ! 絶対しないから!!」
ティアは全力で首を振る。顔は真っ赤。
ミミィがにっこり。
「よし、乱入決定だね」
「なんでそうなるの!?」
ティアの悲鳴が響いた。
早速ミミィとアーシャは、ティアの手を左右からがっしり掴んでずるずる引っ張った。
「ちょ、ちょっと!!
ダメだよ!
ほんと迷惑だからぁ!!」
ティアは必死にブレーキをかけるが、2人の勢いが強すぎる。
「大丈夫大丈夫。
可愛い後輩の乱入は男子の夢よ?」
ミミィは悪魔のような笑み。
「そうそう。
学園でも人気のアイドル後輩3人が乱入なんて、先輩達、鼻血ものだわ♪」
アーシャも同じ顔。
「もう!
ほんとにやめてってばぁああ!!」
そんなティアの叫びは虚しく、ミミィはついに目的の部屋を発見し。
バァン!!
勢いよくスライド扉を開け放った。
「先輩たち~!
よかったら一緒に歌いませんかぁ!?」
満面のドヤスマイル。
「え?
あ、あれ?
どうしたの?」
ジルフィンと男子先輩2名は呆然。
その隙に、ティアは扉の影から恐る恐る顔を出した。
「せ、先輩……すいません……。
わ、私が先輩と会ったこと話したら……その……ミミィとアーシャが……その……」
もじもじと指をつつきながら入室。
顔はりんごみたいに真っ赤。
「ああ、そうなんだ、ティアさん。」
ジルフィンは優しく笑った。
「ねぇジルフィン先輩!
かわいい後輩3人だよ!?
断る理由ある!?」
ミミィが畳みかけ、
「だよな?」とジルフィンは友人2人に視線を送る。
「い、いいぜ!?」
「むしろご褒美だろ!?」
男子2名、即落ち。
ティアはすかさずミミィ達に押し込まれ、ジルフィンの隣に座らされる。
「あ、あの……先輩……。
彼女さんいるのに……すみません……何か……。」
「大丈夫だよ。
フィレリスはこんなことで怒らないよ。」
と笑ってはいるが、ティアの心は(うぅぅ……絶対怒る気がする……)と不安でいっぱいだった。
それでも歌えば楽しく、気付けば3人と先輩たちで大盛り上がりの1時間を過ごした。
翌日、中庭。
ティア・ミミィ・アーシャは、美貌の三年生フィレリスの前に整列していた。
フィレリスの顔は笑顔だが、目だけ笑っていない。
「昨日、ミュウオケでジルフィンの部屋に乱入したそうね。
……どういうことかしら?」
声は穏やかなのに背筋が凍る。
(ひぃぃぃジルフィン先輩……怒らないよって言ってたのにぃ……!)
ティアは心の中で泣いた。
「あはは……ほんとすいません……ばったり会ってしまって……つい……乱入を……」
ミミィは気まずそうに頭をかく。
「私とジルフィンはお付き合いしてるのよ。
知ってるわよね?」
「は、はい……有名です……。
ほんと、すみません……今後気をつけます……」
3人は深々と頭を下げた。
「……気をつけなさい。」
ひと言だけ残して、フィレリスはくるりと背を向け、優雅に去っていく。
3人、同時に脱力。
「うわ~……ガッツリ怒られたねぇ……」
ミミィは苦笑い。
「も~~!
だから迷惑になるって言ったのにぃ!!」
ティアは腕を組んでぷんすか。
「でもさ、ミュウオケぐらいで怒らなくても……ね?」
アーシャは全く反省の色なし。
「むしろティア、ジルフィン先輩奪っちゃえば?」
ミミィがまた悪魔の笑み。
「なっ……な、何言ってるのよぉ!!
他人事だと思ってぇ!!」
「ねぇ、ジルフィン先輩にフィレリス先輩に怒られました……って涙目で相談したら、どうなるんだろうねぇ?」
ミミィ、さらに悪い顔。
「だ、だめぇぇぇ!!
絶対迷惑になるからぁぁ!!」
ティアは腰に手を当てて真っ赤に怒っている。
「ふーん。
せっかくの大チャンスなのにねぇ~。」
「ねぇ~。」
ミミィとアーシャは、完全に“画策顔”でにやにや。
そんな2人にティアは「ほんとにやめてよね!?」と釘を刺しつつ、3人は教室に戻っていった。
ティアは帰宅すると、自室の椅子に腰掛け、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
夕暮れの光が頬を照らすが、心ここにあらず。
どう見ても“恋する乙女の上の空”である。
そんな中、コンコン、と控えめなノック。
「主様、失礼いたします。
セリアです。」
「ん?
……あ、セリア。
どうしたの?」
ティアは慌てて姿勢を正したが、声はまだ少しふわふわしていた。
セリアは部屋に入ると、真剣な表情でティアの前に立ち、深々とお辞儀した。
「主様。
少しご相談がございます。」
「相談?」
ティアは首を傾げるが、目はさっきまで見ていた窓の方へ一瞬チラリ。
セリアは気にせず話を続けた。
「実は、私が兼務しております冒険者としての仕事が、最近たいへん立て込んでおりまして……。
そのため、屋敷全体の清掃や点検にまで手が回らない日が増えてきました。」
ティアはパチパチと瞬きをしながら聞いていた。
「うん……?
そ、そんなに気にするほど散らかってないと思うけど……?」
「いえ、主様。」
セリアはすっと背筋を伸ばし、瞳に決意を宿す。
「主様のお目に触れるものに穢れがあっては決してならないのです。
汚れた床、積まれた書類、曲がったカーテン……そのようなものを主様にお見せしてしまっているのが、私には耐え難く。」
(え、そこまで気にしてたの!?)
ティアは思わず心の中で突っ込んだ。
「ですので。」
セリアは一歩下がり、胸に手を当てた。
「屋敷の管理を専門に任せられる執事を一名、雇うことにいたしました。
私がよく知る人物で、信頼に値し、礼節も完璧でございます。」
「えっと……それはセリアに任せるわ。」
ティアは手を振って首を横にふる。
「私は全然困ってないし、むしろセリアが無理してるほうが心配。
だから、セリアが楽になるなら、私も嬉しいよ?」
ティアの言葉に、セリアは静かに目を伏せ、深く頷いた。
「主様……お心遣い、痛み入ります。」
そして、深く礼をして背筋を伸ばす。
「では近々、その者と会い、正式に交渉してまいります。
準備が整いましたらご報告いたしますので、しばしお待ちくださいませ。」
「うん、よろしくね。
無理しないでね、セリア。」
セリアは軽く微笑むと、音もなく部屋を後にした。
扉が閉まると――
ティアはクッションに顔を埋めて、バタバタと足をばたつかせる。
(……あああ、ジルフィン先輩……!)
セリアの心配も、執事を雇う話も、すべて恋するティアの頭から離れていくのだった。
翌朝登校すると、廊下の男子たちの視線が一斉に彼女へ向く。
「ティアちゃんおはよー!」
「ライブ見たよ!最高だった!」
そんな黄色い声。
いや、男子からも黄色い声の中、
ティアはどこか落ち着かない。
胸の奥がモゾモゾとくすぐったいのだ。
(……私、最近どうしちゃったんだろ)
席に着くと、ミミィとアーシャがいつものようにおしゃべりに花を咲かせている。
その途中、ティアはそわそわしながら口を開いた。
「ねぇ、ミミィ……その……私、もしかしたら……
気になる男子がいるかも」
「うおぉ!?
ティアに春が来た!?
誰!? 誰よっ!」
ミミィはテーブルに乗り出す勢いで食いつく。
アーシャも目をキラキラさせながら身を寄せた。
「ティアに色恋沙汰……これは大事件ですね」
ティアは耳まで赤くしながら答える。
「え、えっと……先輩なんだけど……三年一組の、ジルフィン先輩」
「おおぉぉぉ!!」
ミミィは興奮で机をバンッと叩いた。
アーシャも感心したように頷く。
「学園最強のスポーツマンにして魔法も学年一、成績もトップクラス。
さらにイケメン。
あの三拍子揃った王子様ですね」
「でも確か……彼、彼女いた気がするなぁ~」
ミミィは口を尖らせて思い返す。
ティアの表情が、しゅん……と曇った。
「そっか……やっぱりいるよね……」
「去年のミスセイントスターグランプリのフィレリス先輩よ。
超美人でしょ?
うん、あれはお似合いカップルだわ。
うんうん、これはもう諦め――」
「ミミィ、追い討ちかけないの」
アーシャがため息をつきながらティアの肩をぽんぽんと優しく叩く。
ティアはしばらく俯いたままだったが、
放課後になる頃には少し元気を取り戻していた。
「嫌なことは歌って吹き飛ばすのよ!」
というミミィの提案で、3人はミュウオケへ繰り出したのだ。
ルームではミミィとアーシャが全力で盛り上げ、
ティアもつられて笑顔を取り戻す。
「次ティアねー!
失恋ソングでもラブソングでも、どんと来い!」
「言わないで……!」
ティアは苦笑しながら飲み物を取りにドリンクバーへ。
すると――。
「あ……」
そこには、まさかのジルフィン先輩がいた。
「ん? あ、ティアさん。
君もミュウオケに来てたんだ。
友達と?」
眩しい笑顔にティアは固まる。
「あっ、は、はいっ……!
親友たちと!」
緊張で声が裏返る。
耳まで真っ赤だ。
「そっか。
俺も友達とさ。
じゃあ、またね。
楽しんで」
軽く手を振って去って行くジルフィン。
ティアの心臓は、
ドクンドクン……と暴れ馬のようだった。
飲み物をなんとか持って部屋に戻ると――。
「ちょっと聞いて!
ジ、ジルフィン先輩がいたの!!」
曲の合間に叫ぶティア。
ミミィはリモコン片手に「ふぅん?」とニヤリ。
アーシャもいたずらな笑みを浮かべた。
「話したの?」
「う、うん……緊張で死ぬかと思ったけど……」
「……乱入する?」
アーシャが悪い顔でティアを覗き込む。
「しないっ! 絶対しないから!!」
ティアは全力で首を振る。顔は真っ赤。
ミミィがにっこり。
「よし、乱入決定だね」
「なんでそうなるの!?」
ティアの悲鳴が響いた。
早速ミミィとアーシャは、ティアの手を左右からがっしり掴んでずるずる引っ張った。
「ちょ、ちょっと!!
ダメだよ!
ほんと迷惑だからぁ!!」
ティアは必死にブレーキをかけるが、2人の勢いが強すぎる。
「大丈夫大丈夫。
可愛い後輩の乱入は男子の夢よ?」
ミミィは悪魔のような笑み。
「そうそう。
学園でも人気のアイドル後輩3人が乱入なんて、先輩達、鼻血ものだわ♪」
アーシャも同じ顔。
「もう!
ほんとにやめてってばぁああ!!」
そんなティアの叫びは虚しく、ミミィはついに目的の部屋を発見し。
バァン!!
勢いよくスライド扉を開け放った。
「先輩たち~!
よかったら一緒に歌いませんかぁ!?」
満面のドヤスマイル。
「え?
あ、あれ?
どうしたの?」
ジルフィンと男子先輩2名は呆然。
その隙に、ティアは扉の影から恐る恐る顔を出した。
「せ、先輩……すいません……。
わ、私が先輩と会ったこと話したら……その……ミミィとアーシャが……その……」
もじもじと指をつつきながら入室。
顔はりんごみたいに真っ赤。
「ああ、そうなんだ、ティアさん。」
ジルフィンは優しく笑った。
「ねぇジルフィン先輩!
かわいい後輩3人だよ!?
断る理由ある!?」
ミミィが畳みかけ、
「だよな?」とジルフィンは友人2人に視線を送る。
「い、いいぜ!?」
「むしろご褒美だろ!?」
男子2名、即落ち。
ティアはすかさずミミィ達に押し込まれ、ジルフィンの隣に座らされる。
「あ、あの……先輩……。
彼女さんいるのに……すみません……何か……。」
「大丈夫だよ。
フィレリスはこんなことで怒らないよ。」
と笑ってはいるが、ティアの心は(うぅぅ……絶対怒る気がする……)と不安でいっぱいだった。
それでも歌えば楽しく、気付けば3人と先輩たちで大盛り上がりの1時間を過ごした。
翌日、中庭。
ティア・ミミィ・アーシャは、美貌の三年生フィレリスの前に整列していた。
フィレリスの顔は笑顔だが、目だけ笑っていない。
「昨日、ミュウオケでジルフィンの部屋に乱入したそうね。
……どういうことかしら?」
声は穏やかなのに背筋が凍る。
(ひぃぃぃジルフィン先輩……怒らないよって言ってたのにぃ……!)
ティアは心の中で泣いた。
「あはは……ほんとすいません……ばったり会ってしまって……つい……乱入を……」
ミミィは気まずそうに頭をかく。
「私とジルフィンはお付き合いしてるのよ。
知ってるわよね?」
「は、はい……有名です……。
ほんと、すみません……今後気をつけます……」
3人は深々と頭を下げた。
「……気をつけなさい。」
ひと言だけ残して、フィレリスはくるりと背を向け、優雅に去っていく。
3人、同時に脱力。
「うわ~……ガッツリ怒られたねぇ……」
ミミィは苦笑い。
「も~~!
だから迷惑になるって言ったのにぃ!!」
ティアは腕を組んでぷんすか。
「でもさ、ミュウオケぐらいで怒らなくても……ね?」
アーシャは全く反省の色なし。
「むしろティア、ジルフィン先輩奪っちゃえば?」
ミミィがまた悪魔の笑み。
「なっ……な、何言ってるのよぉ!!
他人事だと思ってぇ!!」
「ねぇ、ジルフィン先輩にフィレリス先輩に怒られました……って涙目で相談したら、どうなるんだろうねぇ?」
ミミィ、さらに悪い顔。
「だ、だめぇぇぇ!!
絶対迷惑になるからぁぁ!!」
ティアは腰に手を当てて真っ赤に怒っている。
「ふーん。
せっかくの大チャンスなのにねぇ~。」
「ねぇ~。」
ミミィとアーシャは、完全に“画策顔”でにやにや。
そんな2人にティアは「ほんとにやめてよね!?」と釘を刺しつつ、3人は教室に戻っていった。
ティアは帰宅すると、自室の椅子に腰掛け、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
夕暮れの光が頬を照らすが、心ここにあらず。
どう見ても“恋する乙女の上の空”である。
そんな中、コンコン、と控えめなノック。
「主様、失礼いたします。
セリアです。」
「ん?
……あ、セリア。
どうしたの?」
ティアは慌てて姿勢を正したが、声はまだ少しふわふわしていた。
セリアは部屋に入ると、真剣な表情でティアの前に立ち、深々とお辞儀した。
「主様。
少しご相談がございます。」
「相談?」
ティアは首を傾げるが、目はさっきまで見ていた窓の方へ一瞬チラリ。
セリアは気にせず話を続けた。
「実は、私が兼務しております冒険者としての仕事が、最近たいへん立て込んでおりまして……。
そのため、屋敷全体の清掃や点検にまで手が回らない日が増えてきました。」
ティアはパチパチと瞬きをしながら聞いていた。
「うん……?
そ、そんなに気にするほど散らかってないと思うけど……?」
「いえ、主様。」
セリアはすっと背筋を伸ばし、瞳に決意を宿す。
「主様のお目に触れるものに穢れがあっては決してならないのです。
汚れた床、積まれた書類、曲がったカーテン……そのようなものを主様にお見せしてしまっているのが、私には耐え難く。」
(え、そこまで気にしてたの!?)
ティアは思わず心の中で突っ込んだ。
「ですので。」
セリアは一歩下がり、胸に手を当てた。
「屋敷の管理を専門に任せられる執事を一名、雇うことにいたしました。
私がよく知る人物で、信頼に値し、礼節も完璧でございます。」
「えっと……それはセリアに任せるわ。」
ティアは手を振って首を横にふる。
「私は全然困ってないし、むしろセリアが無理してるほうが心配。
だから、セリアが楽になるなら、私も嬉しいよ?」
ティアの言葉に、セリアは静かに目を伏せ、深く頷いた。
「主様……お心遣い、痛み入ります。」
そして、深く礼をして背筋を伸ばす。
「では近々、その者と会い、正式に交渉してまいります。
準備が整いましたらご報告いたしますので、しばしお待ちくださいませ。」
「うん、よろしくね。
無理しないでね、セリア。」
セリアは軽く微笑むと、音もなく部屋を後にした。
扉が閉まると――
ティアはクッションに顔を埋めて、バタバタと足をばたつかせる。
(……あああ、ジルフィン先輩……!)
セリアの心配も、執事を雇う話も、すべて恋するティアの頭から離れていくのだった。
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