毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

文字の大きさ
148 / 162
第十八章 夏休み編

第百四十八話 恋するティア その2

しおりを挟む
屋敷の従者部屋では、セリアが深いため息をつきながら机に肘をついていた。
その視線の先には――カイル、リシェラ、ルシェアの三人が、まるで捨てられた子犬のように肩を落として並んでいる。

「……あなた達、ここで何をしているの?」
あまりにも重い空気に、さすがのセリアも耐えられなかった。

「セリア殿……神とは、如何なるものとお考えか……?」
カイルが小さな声で問いかける。

「そもそもね、私達使徒が神の考えを理解しようとする事自体が無意味よ。」
セリアは呆れ気味に眉をひそめた。
「神とはいえ、主様に限っては神以前に身勝手で我儘なの。楽園の件は忘れなさい。」

三人は同時にしゅん……と項垂れる。

「……まあ、それより頼みたい事があるわ。」
セリアは少し苛立った声で続けた。

「この度、アダミル殿を中心に、この国で企業を立ち上げる準備をしているの。
主様の命よ。
あなた達にはアダミル殿の補佐をしてほしいの。
詳しい事は本人から聞きなさい。」

そう言い切ると、セリアはスタスタと部屋を出ていった。


その頃、ティアはというと。
朝からご機嫌だった。

憧れの先輩、ジルフィンに今日も会えたのだ。
その嬉しさを、教室でミミィとアーシャに夢中で語っていた。

「ねぇティア。
毎日毎日、先輩の話を聞かされてるけどさ……で?進展は?」
ミミィは呆れ笑いしながら言う。

「進展なんてないよ。
先輩には彼女がいるし、揉めたくないし。」
ティアは満足げに微笑む。恋してる時の顔だ。

だが。

「ティア……私、彼氏できた。」
アーシャの突然の一言で、時が止まった。

「「えええぇぇ!?」」

ミミィとティアが揃って叫ぶ。
中でも一番ショックを受けたのは、案の定ティアだった。

「ア、アーシャ……いつから?」
声が震えている。

「昨日、告白されて……付き合う事にしたの。」
アーシャは照れながら頬を染める。

「すごいじゃない!
おめでとう!」
ミミィが抱きしめる。

「アーシャまで……」
ティアの笑顔はすっかり消えていた。


昼休み、中庭。
ティアはメイド特製のお弁当を膨れ顔でつついていた。

「それにしても、二人とも彼氏できて良かったわね……」
トーンが完全に拗ねている。

「ティアもジルフィン先輩にアタックすればいいのに!
応援するよ!」
ミミィが楽しそうに言う。

「……先輩は私に興味ないもん。」

「じゃあ聞いてみたら? 
それか、私が聞いてきてあげようか?」

「え、やめてってば!?
恥ずかしい!」

「うん、聞いてくるね!」
ミミィが猛ダッシュで飛び出した。

「ミミィ!!?」
ティアの叫びも虚しく、疾走は止まらない。

「ミミィはやる時はやる女よ……」
アーシャが妙に誇らしげに頷く。

「こんな時に発揮しなくていいのよ……!」

しばらくして、ミミィが息を切らしながら戻ってきた。

「はぁっ……聞いて……きた……!」

「えっ!?
まさか本当に話したの……?」

「うん!
聞いたよ!」

「バカぁぁ!!
恥ずかしいってばぁ!!」
ティアは顔を真っ赤にして頭を抱える。

「先輩、彼女さん命なんだって!」

「わかってるから確認しなくていいの!!」
ティアは叫びながらも弁当をつつく。

「ははは、まあ……そうなるよね。」
ミミィとアーシャは苦笑い。

ティアだけが心の底から落ち込んでいた。

放課後、ティアが屋敷の重厚な玄関扉を押し開けると、まるでタイミングを合わせていたかのようにバアミルがすっと姿を現した。

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「ただいま~……」

返事こそしたものの、ティアの声はどこかしょんぼりしていた。
その表情の陰りを見逃すバアミルではない。

「……お嬢様。」
「何かご心配事でもございましたか? 
もしよろしければ、このバアミルがお力になれればと思いまして。」

「え? 
あ、ありがと……」

ティアは気恥ずかしそうに視線をそらし、そのまま自室へ。
ソファにぽすん、と腰を下ろすと、バアミルは自然な動きで荷物を片づけ、そっとティアの横に控えた。

「お嬢様……もしかしてですが、恋に関するお悩みでしょうか?」

「えっ!? 
ま、まあ……そうだけど……」
ティアは顔を真っ赤にして枕をぎゅっと抱きしめる。
「ていうかバアミル、今日はいつにも増して距離近くない? 
どうしたの?」

「いえ、お嬢様のお心が沈んでおられるようでしたので。
……お嬢様に想われる男性は、まこと、果報者にございます。」

「バ、バアミル……」
ティアは照れながらも少しだけ笑顔になった。

「ありがとう。
大丈夫よ。
ちょっと、いろいろあっただけ。」

「そうでございますか。」
バアミルは静かに一礼した。
「では、すぐに夕食の準備をさせていただきます。温かいものを召し上がれば、お気持ちも少しは楽になりましょう。
……どうか、今しばらくお待ちくださいませ。」

丁寧にその言葉だけ残すと、バアミルはティアをそっと残して部屋を退出した。

扉が閉まると同時に、ティアはソファにバタンと倒れこみ、小さく呻く。

「……もう……みんな彼氏できちゃうし……ジルフィン先輩は彼女命だし……
ついてないなぁ……」

けれど、さっきより心は軽い。
誰かが心配してくれるというだけで、こんなにも温かいのだと、ティアは小さく息をついた。

ティアがダイニングへ向かうと、いつものようにバアミルが無駄のない動きで食器を整えていた。
だが、ティアを見るその瞳には、どこか柔らかな光が宿っている。

「お嬢様。
本日の夕食をご用意いたしました。」

「ありがとう、バアミル。」

ティアが席につくと、バアミルは一礼し、そっとワゴンを押して料理を並べ始めた。
肉の香ばしい香りやスープの湯気が立つ中で、ティアはぽつりと呟く。

「今日ね、友達に彼氏ができたの。」

バアミルの手が一瞬だけ止まる。
しかし、すぐに無表情へ戻りながらも、声にはわずかな熱が滲んだ。

「……左様でございますか。」

「なんか……置いてかれてるみたいで、ちょっと寂しくて。」

ティアがフォークを弄びながら言うと、
バアミルはティアの正面ではなく、少しだけ横に寄った位置に立った。
それは執事としての距離を保ちながらも、心は寄り添おうとする位置。

「お嬢様。」
その呼びかけは、普段よりほんの少しだけ低く、柔らかい。
「お嬢様ほど魅力的な方は滅多におりません。
落ち込む必要など、一切ございません。」

「え……?」

ティアが驚いて顔を上げると、
バアミルは静かに微笑みかけるような、しかし礼節を崩さぬ絶妙な表情で言葉を続けた。

「お嬢様が本気で望めば、どれほどの男であろうと心を奪われましょう。
……それほどのお方です。」

ティアの頬がわずかに赤く染まる。

「そ、そんな大げさな……。」

「いえ。
事実でございます。」

バアミルは淡々としているようでいて、どこか意図的にティアへ肯定を送り続けていた。
料理を取り分ける手つきにも、いつになく丁寧な気遣いが見える。

「本日は、お嬢様のお好きな味付けに調えております。
よろしければ……どうか、気分が晴れますように。」

その声音には、執事の枠を越えた祈りのような感情が宿る。

ティアはスプーンを口に運び、ほっとした表情を見せた。

「……美味しい。
ありがとう、バアミル。」

「それは何よりでございます。」

バアミルは胸に手を当て、深く頭を下げる。
だが、その伏せた視線の奥で、ティアを想う静かな熱が、消えることなく灯り続けていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...