毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十八章 夏休み編

第百四十九話 避暑地へ

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季節はとうとう夏を迎え、学園も連日の暑さに包まれていた。
もちろんティアには暑さも寒さも関係ないが、ミミィとアーシャは机の上に溶け落ちそうな顔でぐったりしている。

「夏休み何する~……?」
ミミィは机に頬をぺたりと押しつけたままティアとアーシャに声をかけた。

「夏と言えば海でしょ。」
ティアは即答する。

「海は……暑いから無理。」
アーシャはきっぱり。

「じゃあ、学園の避暑地ラッセランドはどう? 
あそこ涼しいよ。」
ミミィがぱっと顔を上げた。

「いいじゃない! 
予約しちゃおっか!」

その勢いのままティアは職員室へ向かった。


「先生、夏休みにラッセランド使う予約を取りたいんですけど。」

ティアが生徒指導担当のマキラジルに声をかけると、
黒髪小太りの中年教師はメガネ越しにティアをじろっと見た。

「三組のティア・クラウスか。
……遊ぶのはいいが、羽目を外しすぎるなよ。
何人で行くんだ?」

「ミミィとアーシャの三人です。」

「仲がいいのは結構だが……最近お前たち、服装が乱れてないか?」

ティアは嫌な予感を覚えた。

「え? 
別に普通だと思いますけど。」

「そのスカート、短いだろうが。」
マキラジルが指をつきつける。

「ちょっとだけですって。
みんなこんなもんですよ。」

ティアはひらっとスカートの裾を揺らして見せた。

「まったく……どいつもこいつも。
風紀を乱すような格好しやがって!
いいか、問題起こすなよ。
異性とのお泊まりは禁止だ。
破ったら退学だからな!」

そう言って、申請用紙をガサっと取り出した。

ティアは表情ひとつ変えず受け取る。
(怒りは内側で爆発していたが)

教室に戻ると。
「ねぇ聞いてよ!」
席に着くなりティアは机を叩いた。

「マキラジル先生に嫌味を山ほど言われた!」

「うわ~……あの先生女子にだけ厳しいんだよね。」
ミミィは渋い顔。

「デブのおじさんでモテないから僻んでるのよ。」
アーシャが冷ややかに言う。

「ほんとよ! 
私のスカート短すぎる!って。
じーっ……て見てくるの! 
気持ち悪いったら!」

「ティアの魅力に反応したのよ。」
ミミィがにやり。

「やめてよ! 
余計気持ち悪いわ!!」

アーシャが話題を切り替える。

「で、ラッセランドはいつ行く?」

「8月1日は? 
ティアの誕生日だよね?」
ミミィがスマホで予定を見ながら言う。

「えっ、誕生日に行くの? 
祝ってくれるの?」
ティアは微笑みながら2人の顔を覗き込む。

「もちろん!」
「任せて!」
ミミィとアーシャが声を揃える。

書類に記入すると再び職員室へ向かった。
「この内容でお願いします。」
ティアが書類を渡す。

マキラジルは内容を確認しながらまた説教を始めた。

「学園の施設だからな!
制服着用だぞ。
掃除をしっかりしろ。
汚したら二度と使わせん。
火事を起こすな。
冷蔵庫の食材は残すな、持って帰れ。
鍵は絶対無くすな。
女子は特に羽目を外す奴が多いからな、いいな?」

ティアは微笑みすら浮かべず、無表情でうんうん頷くだけだった。

(内心は火山噴火寸前)

提出を終え、無言で教室へ戻るティア。

「ティア、お疲れ。」
ミミィが心配そうに声をかける。

そして。

「…………なんなのよアイツ!!!」
ティアは机をバンッと叩き、ついに大噴火。

「羽目を外すな! 
掃除しろ! 
汚すな! 
鍵無くすな! 
火事起こすな! 
女子は騒ぐな!って! 
憎たらしいったら無いわ!!」

ミミィとアーシャは苦笑いでティアをなだめた。

「まぁまぁ……書類は通ったんだし、あとは楽しむだけだよ。」

ティアはまだ怒り心頭ながらも、少しだけ気持ちが落ち着いて椅子にもたれた。

そして季節は夏休みへと移り変わった。
8月1日。
ティアたちは待ちに待った避暑地――ラッセランドへ旅立つことになった。

ミミィとアーシャはティアの屋敷へ集合し、そこからバアミルの運転する車で向かう段取りだ。

「それでは、お嬢様方。
ご準備はよろしいですか?」
バアミルが涼しい顔で車のドアを開け、優雅に一礼する。

結局、バアミルとマーガレットが付き添いとして同行してくれることとなり、マキラジルからも執事とメイドの帯同許可を正式に得ていた。

「お嬢様だなんて、言われ慣れてないよね……」
「わ、わたしも……」
ミミィとアーシャは顔を赤らめる。

ティア・ミミィ・アーシャの三人は後部の広々としたシートへ。
運転席にはバアミル、助手席にはマーガレットが座る。

「すっごい車……! 
さすがクラウス家って感じ!」
ミミィは豪奢な内装に目を輝かせる。

「私もこんな車あったなんて知らなかったわ」
ティアも初めての乗車に驚いた様子だ。

「座り心地、すっごくいい……」
アーシャはふわりと満足げな笑みを浮かべた。

三人は車の中でおしゃべりに夢中になり、時間が経つのも忘れてはしゃぎ続けた。
そして3時間ほど走ると、ついに避暑地ラッセランドへ到着した。

「お疲れでしょう、お嬢様方。
荷物は私とマーガレットで運びます。
どうぞ、あちらの建物でおくつろぎください」
バアミルは軽々と荷物を抱えて歩き出す。

建物に入ると、すでに管理人の男性が待っていた。

「こんにちは」
三人が会釈すると、男性は控えめに頷き、ティアに鍵を渡す。

「ティア・クラウスさんですね。
こちらが鍵になります。
三日後にまた伺いますので。
施設は綺麗にお使いください。
冷蔵庫の中に残ったものは最後にお持ち帰り願います。
最終日に私と一緒にチェックいたしますので、よろしくお願いします」

そう告げると男性は去っていった。

「うわぁ~! 
見てティア、ミミィ、すごい眺めだよ!」
ミミィが大きなリビングの窓から歓声をあげる。

「ほんと……キレイ!」
「これが……プライベートビーチ……?」

三人の視線の先には――
真っ青な海。白い砂浜。
まさに夏の少女たちを迎え入れる、特別な景色が広がっていた。

そこへバアミルが荷物を抱えて戻る。
「お嬢様、お部屋にお荷物を運びます。
お部屋はお決まりですか?」

「そうね、決めましょう!」
三人はテンション高く館内を探索し始めた。

この施設には最大5人まで使える一人部屋が用意されており、さらに複数人で使える大部屋まで存在する大規模な造りだ。

部屋を決め、荷物を運び込むと、ティアが真っ先にリビングへ戻ってきた。

「お嬢様、ビーチなど行かれてはいかがでしょう?」
キッチンからバアミルが声を掛ける。
「とても綺麗ですよ」

「うん、ミミィたちにも聞いてみるね。
バアミルもマーガレットも来てくれて本当に助かったわ。
ありがとう」
ティアは満面の笑顔で礼を言う。

「いえ、お嬢様に不自由なく楽しんでいただくのが私どもの務めです」
バアミルは胸に手を当て、深々と礼をした。

ティアが大きなテレビを眺めていると、ミミィがリビングへ駆け込んできた。

「ねぇ、なんで夏休みなのに制服で過ごさなきゃなの!? 
これじゃ夏休み感ゼロなんだけど!」
不満をぶつけながら、ティアの横のソファへどさっと腰を下ろす。

「学園の施設だから仕方ないみたい。
でも、それより……ビーチ、見に行かない?」
ティアは嬉しそうに窓の外を指さす。

「行く行く! 
アーシャが来たらね!」
ミミィはすぐさま笑顔になった。

「お待たせ」
アーシャもリビングに現れ、三人は勢いよくビーチへ飛び出した。

海風の中、砂浜を走り回り、はしゃぎ、夢中で遊ぶ。
気づけば制服はすっかりびしょ濡れ。
結局、施設に戻るとシャワーを浴び、それぞれ部屋着に着替えることになった。

夏のラッセランドで、三人の特別な休暇が静かに幕を開けた。
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