毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十八章 夏休み編

第百四十八話 恋するティア その2

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屋敷の従者部屋では、セリアが深いため息をつきながら机に肘をついていた。
その視線の先には――カイル、リシェラ、ルシェアの三人が、まるで捨てられた子犬のように肩を落として並んでいる。

「……あなた達、ここで何をしているの?」
あまりにも重い空気に、さすがのセリアも耐えられなかった。

「セリア殿……神とは、如何なるものとお考えか……?」
カイルが小さな声で問いかける。

「そもそもね、私達使徒が神の考えを理解しようとする事自体が無意味よ。」
セリアは呆れ気味に眉をひそめた。
「神とはいえ、主様に限っては神以前に身勝手で我儘なの。楽園の件は忘れなさい。」

三人は同時にしゅん……と項垂れる。

「……まあ、それより頼みたい事があるわ。」
セリアは少し苛立った声で続けた。

「この度、アダミル殿を中心に、この国で企業を立ち上げる準備をしているの。
主様の命よ。
あなた達にはアダミル殿の補佐をしてほしいの。
詳しい事は本人から聞きなさい。」

そう言い切ると、セリアはスタスタと部屋を出ていった。


その頃、ティアはというと。
朝からご機嫌だった。

憧れの先輩、ジルフィンに今日も会えたのだ。
その嬉しさを、教室でミミィとアーシャに夢中で語っていた。

「ねぇティア。
毎日毎日、先輩の話を聞かされてるけどさ……で?進展は?」
ミミィは呆れ笑いしながら言う。

「進展なんてないよ。
先輩には彼女がいるし、揉めたくないし。」
ティアは満足げに微笑む。恋してる時の顔だ。

だが。

「ティア……私、彼氏できた。」
アーシャの突然の一言で、時が止まった。

「「えええぇぇ!?」」

ミミィとティアが揃って叫ぶ。
中でも一番ショックを受けたのは、案の定ティアだった。

「ア、アーシャ……いつから?」
声が震えている。

「昨日、告白されて……付き合う事にしたの。」
アーシャは照れながら頬を染める。

「すごいじゃない!
おめでとう!」
ミミィが抱きしめる。

「アーシャまで……」
ティアの笑顔はすっかり消えていた。


昼休み、中庭。
ティアはメイド特製のお弁当を膨れ顔でつついていた。

「それにしても、二人とも彼氏できて良かったわね……」
トーンが完全に拗ねている。

「ティアもジルフィン先輩にアタックすればいいのに!
応援するよ!」
ミミィが楽しそうに言う。

「……先輩は私に興味ないもん。」

「じゃあ聞いてみたら? 
それか、私が聞いてきてあげようか?」

「え、やめてってば!?
恥ずかしい!」

「うん、聞いてくるね!」
ミミィが猛ダッシュで飛び出した。

「ミミィ!!?」
ティアの叫びも虚しく、疾走は止まらない。

「ミミィはやる時はやる女よ……」
アーシャが妙に誇らしげに頷く。

「こんな時に発揮しなくていいのよ……!」

しばらくして、ミミィが息を切らしながら戻ってきた。

「はぁっ……聞いて……きた……!」

「えっ!?
まさか本当に話したの……?」

「うん!
聞いたよ!」

「バカぁぁ!!
恥ずかしいってばぁ!!」
ティアは顔を真っ赤にして頭を抱える。

「先輩、彼女さん命なんだって!」

「わかってるから確認しなくていいの!!」
ティアは叫びながらも弁当をつつく。

「ははは、まあ……そうなるよね。」
ミミィとアーシャは苦笑い。

ティアだけが心の底から落ち込んでいた。

放課後、ティアが屋敷の重厚な玄関扉を押し開けると、まるでタイミングを合わせていたかのようにバアミルがすっと姿を現した。

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「ただいま~……」

返事こそしたものの、ティアの声はどこかしょんぼりしていた。
その表情の陰りを見逃すバアミルではない。

「……お嬢様。」
「何かご心配事でもございましたか? 
もしよろしければ、このバアミルがお力になれればと思いまして。」

「え? 
あ、ありがと……」

ティアは気恥ずかしそうに視線をそらし、そのまま自室へ。
ソファにぽすん、と腰を下ろすと、バアミルは自然な動きで荷物を片づけ、そっとティアの横に控えた。

「お嬢様……もしかしてですが、恋に関するお悩みでしょうか?」

「えっ!? 
ま、まあ……そうだけど……」
ティアは顔を真っ赤にして枕をぎゅっと抱きしめる。
「ていうかバアミル、今日はいつにも増して距離近くない? 
どうしたの?」

「いえ、お嬢様のお心が沈んでおられるようでしたので。
……お嬢様に想われる男性は、まこと、果報者にございます。」

「バ、バアミル……」
ティアは照れながらも少しだけ笑顔になった。

「ありがとう。
大丈夫よ。
ちょっと、いろいろあっただけ。」

「そうでございますか。」
バアミルは静かに一礼した。
「では、すぐに夕食の準備をさせていただきます。温かいものを召し上がれば、お気持ちも少しは楽になりましょう。
……どうか、今しばらくお待ちくださいませ。」

丁寧にその言葉だけ残すと、バアミルはティアをそっと残して部屋を退出した。

扉が閉まると同時に、ティアはソファにバタンと倒れこみ、小さく呻く。

「……もう……みんな彼氏できちゃうし……ジルフィン先輩は彼女命だし……
ついてないなぁ……」

けれど、さっきより心は軽い。
誰かが心配してくれるというだけで、こんなにも温かいのだと、ティアは小さく息をついた。

ティアがダイニングへ向かうと、いつものようにバアミルが無駄のない動きで食器を整えていた。
だが、ティアを見るその瞳には、どこか柔らかな光が宿っている。

「お嬢様。
本日の夕食をご用意いたしました。」

「ありがとう、バアミル。」

ティアが席につくと、バアミルは一礼し、そっとワゴンを押して料理を並べ始めた。
肉の香ばしい香りやスープの湯気が立つ中で、ティアはぽつりと呟く。

「今日ね、友達に彼氏ができたの。」

バアミルの手が一瞬だけ止まる。
しかし、すぐに無表情へ戻りながらも、声にはわずかな熱が滲んだ。

「……左様でございますか。」

「なんか……置いてかれてるみたいで、ちょっと寂しくて。」

ティアがフォークを弄びながら言うと、
バアミルはティアの正面ではなく、少しだけ横に寄った位置に立った。
それは執事としての距離を保ちながらも、心は寄り添おうとする位置。

「お嬢様。」
その呼びかけは、普段よりほんの少しだけ低く、柔らかい。
「お嬢様ほど魅力的な方は滅多におりません。
落ち込む必要など、一切ございません。」

「え……?」

ティアが驚いて顔を上げると、
バアミルは静かに微笑みかけるような、しかし礼節を崩さぬ絶妙な表情で言葉を続けた。

「お嬢様が本気で望めば、どれほどの男であろうと心を奪われましょう。
……それほどのお方です。」

ティアの頬がわずかに赤く染まる。

「そ、そんな大げさな……。」

「いえ。
事実でございます。」

バアミルは淡々としているようでいて、どこか意図的にティアへ肯定を送り続けていた。
料理を取り分ける手つきにも、いつになく丁寧な気遣いが見える。

「本日は、お嬢様のお好きな味付けに調えております。
よろしければ……どうか、気分が晴れますように。」

その声音には、執事の枠を越えた祈りのような感情が宿る。

ティアはスプーンを口に運び、ほっとした表情を見せた。

「……美味しい。
ありがとう、バアミル。」

「それは何よりでございます。」

バアミルは胸に手を当て、深く頭を下げる。
だが、その伏せた視線の奥で、ティアを想う静かな熱が、消えることなく灯り続けていた。
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