毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝

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第十九章 転生者編

第百六十一話 転生者と秋季魔法競技会

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転生者がこの世界に来て、まもなく一か月が経とうとしていた。
ユナとスティルンはすっかりクラスに溶け込み、学園生活をそれなりに満喫している。

九月に入り、夏の暑さがようやく和らぎ始めた頃。
学園では恒例の秋季魔法競技会の季節がやってきた。

競技会では、個人の魔法技術を競う種目と、クラス対抗で行われる模擬戦が実施される。
特に模擬戦は毎年もっとも盛り上がる競技で、クラスの結束力が勝敗を大きく左右する。

「俺は参加するぜ!」
競技会の話を聞いた途端、スティルンは目を輝かせた。

「私も参加したい」
ユナも迷いなく立候補する。

「私はパス」
一方で、ティアは興味なさそうに即答した。

「私も~」
ミミィも軽く手を振って同調する。

「私も不参加で」
アーシャも静かに続いた。

「なんでだよ!?
ティアもアーシャも、このクラスじゃトップクラスだろ!」
スティルンは勢いよく二人の机に手をつき、熱く訴える。

「面倒だから」
「面倒だから」
ティアとアーシャは声を揃えて同じ理由を口にした。

「ちょっと!
なんで私には抗議しないのよ!」
ミミィはスティルンが自分を完全にスルーしたことに腹を立て、立ち上がる。

「ミミィはいい。
それより、ティアかアーシャ、どっちかは出てくれよ!
勝ちたいんだ!」
スティルンはミミィに冷たい視線を向けつつ、再び二人に詰め寄る。

「ちょっと!
私だって頑張れるんだから!」
ミミィの叫びは、虚しく教室に響くだけだった。

「もう!
ティアもアーシャも参加しようよ!
クラスのために!」
ミミィは半ばヤケになり、二人の顔にぐいっと近づく。

「私はパス」
「私もパス」
二人は一切迷わず、あっさりと断った。

「私はダンスレッスンにボイストレーニング、バイトもあるの。
時間取れないわ」
ティアは意地悪そうに笑い、ミミィを見下ろす。

ミミィはがっくりと肩を落とした。
「……アーシャはいいでしょ?」
今度はアーシャにしがみつき、涙目で訴える。

「私はティアが参加しないなら出ない」
アーシャは相変わらず淡々としている。

「アーシャ。
アリーゴッドのチーズケーキ、ご馳走する」

「取引成立」

即答だった。

「じゃあ私も。
チーズケーキご馳走してくれるなら参加するわ。
練習には参加できないけどね」
ティアとアーシャは、揃ってミミィに熱い視線を送る。

「あ~、も~!
わ、わかったわよ!
ご馳走する!」

こうして。
ティア、アーシャ、ミミィ、スティルン、ユナの五人は、
なぜかチーズケーキを条件にチームを組み、
秋季魔法競技会に出場することになったのだった。

魔法競技会のクラス対抗戦では、各クラスから三チームがエントリーし、二勝したクラスが勝利となる。
例年の傾向から見ても、一組が優勝する流れはほぼ定番だった。

ティアは特に目立つつもりもなく、優勝にもまったく興味はない。
ただ、転生者であるユナとスティルンが、この世界でどれほど成長したのか。
それを間近で見てみたい、という程度の気持ちだった。

大会当日。
ティアを除くメンバーは、これまでしっかりと練習を積んできている。
5人は出場前に教室で話をしていた。

「よし! 絶対優勝するぞ!」
スティルンは気合十分だ。

競技会は学年ごとに順位を決め、最終的に各学年の一位チーム同士で決勝戦が行われる形式になっている。

「楽しみましょう」
ティアは力の入りすぎたスティルンに、穏やかな笑みを向けた。

「スティルン、気合が空回りしないように気をつけてね」
ユナは少し心配そうに声をかける。

「さあ! 全部このミミィに任せて!」
ミミィは腰に手を当て、胸を張った。

「ティアがいるから、いいところまでは勝てるはず」
アーシャはそう言って、ティアの腕を軽く掴む。

「ちょっと! 私だって成長してるんだから!」
ミミィは反対側からティアの腕を掴み、アーシャを睨みつけた。

「ティアが出てくれて助かった~」
スティルンは心底安堵したように笑った。


地下闘技場。
観客席には、生徒たちの歓声が轟いている。

事前に行われた抽選の結果、一年三組――ティアたちのチームは、三戦目で一年二組と対戦することになった。

選手たちは控室で専用のバトルスーツへと着替えていく。
今年から、新メーカーによる新型バトルスーツが正式採用されていた。

もっとも。

このバトルスーツを作らせた張本人が、ティア本人であることを知る者はいない。

数週間前。
ティアはアダミルが人間界に設立した企業を、密かに訪れていた。

すでに国内各地に本社ビルと工場を展開し、機械設備や魔導機械を主に製造する巨大企業へと成長している。

株式会社 mysterious magical artifact
通称――(株)MMA。

魔界で採掘された魔硝石を魔石エネルギーへと変換し、人間界へ供給することで得た莫大な利益を元に築かれた企業だ。
MMA製の魔石エネルギーは、今や世界各国でライフエネルギーとして普及している。

今回のバトルスーツは、その試作品だった。

外見は安全性重視の学園向け仕様だが、内部には企業秘密の性能が隠されている。
解析不能な構造を持ち、着用者のステータス、魔法適性、生命エネルギー、身体能力、魔力量――
あらゆるデータを亜空間通信で本社データバンクへ送信する仕組みになっていた。

「アダミル、どんな感じ?」

「主よ。バッチリじゃ。
お望みのバトルスーツはテストも完了し、納品を待つだけじゃ。
ダクトス殿とも打ち合わせ済みじゃよ」

「早いわね。
ところで、例の件はどうかしら?」

「ああ、それはもう少し待ってくれ。
いくつか問題にぶち当たっとる」

「そう。楽しみにしてるわ。
いい知らせを待ってる」
そう言ってティアは手を振り、転送で姿を消した。


そして現在。

「このバトルスーツ、身体に自然にフィットするのね!
女子用はスカートタイプだし、可愛いじゃない!
白を基調にして、女子はピンク、男子は青のライン……オシャレ~!」
ミミィは真っ先に着用し、ご満悦だ。

「魔法ダメージを吸収して、規定値を超えたらリタイア扱い。
そのまま場外に転送される仕組みね」
アーシャはタブレットで仕様を確認している。

「さあ、頑張りましょう」
ティアも静かにスーツを着終えた。

全員が着替えた終えて闘技場に移動すると。

「緊張する……」
スティルンは本番を前に顔が強張っている。

「もう、落ち着いて。
練習どおりやれば勝てるわ」
ユナが冷静に声をかけた。

そして。
魔法競技会、クラス対抗戦が、いよいよ始まろうとしていた。

一年二組は、見た目どおり格上の相手だった。

ティアは戦闘開始前、仲間たちの様子を冷静に観察していた。
ミミィは気合が空回り気味。
アーシャは冷静さを保っているものの、わずかに緊張が見える。
ユナは経験不足から不安そうな表情を浮かべ、
スティルンだけが無駄に元気だった。

「ミミィ。
前衛は私とスティルン。
支援はユナとアーシャ。
ミミィは後方支援。
この配置でいいわね?」

「うん。
私が後ろからしっかりフォローするから」
ミミィは拳を握り、気合を込める。

本気を出せば、ティアが負けるはずはない。
だが、今は“学園の生徒”として戦う立場だ。
周囲と足並みを揃え、それなりの立ち回りが求められる。

配置につくと、ティアとスティルンは前線へ。
戦闘態勢が整った瞬間――開始の合図が鳴り響いた。

「行くよ」
ティアが一歩踏み出す。
わずかに遅れてスティルンも前へ出た。

直後、後方からユナとアーシャの補助魔法が展開される。
防御強化、そして速度上昇。
ミミィは全体の動きを見ながら、後方から指示を飛ばしていた。

連携そのものは悪くない。
だが、相手は一枚上手だった。

一年二組は防御の配置が洗練されており、攻撃への切り替えも速い。
隙が少なく、確実にダメージを積み重ねてくる。

「押されてるぞ……!」
スティルンはすでに被弾が多く、攻撃に転じる余裕がない。
相手の魔法を避けるだけで精一杯だ。

やがて。

スティルン、ユナ、ミミィ、アーシャ。
次々とダメージ規定値に達し、リタイア判定が下されていく。

最後まで立っていたのは、ティアただ一人だった。

しかし、時間切れ。

勝敗は一年二組の勝利。

善戦はした。
だが、初戦は敗北という結果に終わった。

ティアは静かに戦場を見渡しながら、仲間たちの成長と課題を胸に刻んでいた。
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