ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響

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 部屋まで遠いなあと思いながらヘルヴィルは廊下を進む。
 窓がある場所に来ると日差しが温かい。
 春は好きだ。
 お花見とかしたいなあ、土いじりもしてみたい、と思いを馳せているけれど、若干疲れてきた。
 またエイプリルに抱っこして運んでもらおうかとも思ったけれど、いやいや体力つけたいと考えを改めて足を進める。
 歩幅の小さなヘルヴィルにあわせてゆっくり歩くエイプリルを背後に、ヘルヴィルは角を曲がろうとして何かにボスリとぶつかった。
 痛くはないけれど、バランスを崩してどすりとお尻が地面に着地する。
 エイプリルが慌てて名前を呼ぶけれど、ただ座っただけのような尻もちのつき方だったので大げさだなと思う。
 何にぶつかったんだろうと顔を上げると、そこにはルードレットが立っていた。
 背後には使用人らしき女性が立っている。
 エイプリルや、屋敷で見るメイド達より上品そうな服を着ていた。
 リスタースに続いてルードレットとは偶然だなあと、キョトンとしながら彼女を見上げた。

「……泣かないのね」

 ポツリと呟いたのはルードレットだった。

「う?いたくない」

 泣き虫ではないので泣かないよと思いながら、ヘルヴィルは不思議そうに首を傾げた。
 ルードレットの眉間に皺が寄る。
 グレンにリスタースと続いてルードレットも眉間に皺を寄せやすいらしい。

「……前は……いえ、いいわ」

 なんか自己完結した。

「ヘルヴィル様、痛いところはないですか?」
「ない!」

 エイプリルの震える声に、意気揚々と立ち上がる。
 ルードレットを見上げて、今日は家族をコンプリートだと嬉しくなり、にぱりと笑う。
 ルードレットの赤い唇がくっと引き結ばれた。
 今日も、唇も頬も血色良く赤い。
 ルードレットはお姉ちゃんだから、姉様だよなとヘルヴィルは確認した。
 姉上もちょっとかっこいいだろうかと、ここにきて少し迷ったけれど、グレンが父様でリスタースが兄様だから仲間外れはよくないと思いなおす。
 それにしても、今生は兄も姉もいて嬉しいなと思う。
 施設は上はどんどん出ていくし、ドライな施設は出て行ったらそれでおしまいだ。
 年下は癇癪起こす子が多くて、可愛がるより途方に暮れるばかりだった。

(いまは、ぜいたく)

 今生は父親だっている。
 母親が見当たらないのが残念だけれど、家族が三人もいるのだから全然いいというのが今生の家族への感想だった。

「るーれっとねーたま」
「ちょっと!ルードレットよ」

 ルードレットが眉尻を上げる。
 使用人の女性がハラハラとルードレットとヘルヴィルを見やった。
 背がとても高く、真っ直ぐな黒髪の十代後半ほどだ。
 一重のあっさりとした顔立ちは、表情があまりない。
 後ろではエイプリルが息を飲んだ音が聞こえた。

「るーれっと!」
「何で間違えるのよ」
「ルードレット様」

 二人の会話に使用人がそっと声を挟んで、一歩前に出た。
 目の前に来ると、かなり大きい。
 グレンほどではないけれど、エイプリルや他のメイドよりものっぽだ。
 ヘルヴィルがほえーと見上げると。

「はじめましてヘルヴィル様。ルードレット様の侍女のプリルラと申します」
「おっきー」

 丁寧に頭を下げたプリルラに思わず感想を言えば、彼女の体が揺れた。
 ルードレットも不機嫌そうに目を眇める。

「大きいから、なんなのよ」
「かっこいー」

 ヘルヴィルのキラキラとした眼差しと言葉に、ルードレットがポカンと口を半開きにした。
 プリルラも顔を上げて、目を驚いたように丸くしている。

「……かっこいい?」
「う!」

 はじめて聞いたと言わんばかりのルードレットの訝しげな表情に対し、プリルラの頬はじんわりと赤くなっていた。

「びうも、おっきくなゆ」
「……お父様が大きいからなるかもしれないわね」

 ルードレットの言葉にヘルヴィルは顔をパアッと閃かせた。
 筋肉に憧れはあるけれど、同じくらい大きいのにも憧れはある。
 確かにグレンが長身なのだから、ヘルヴィルも同じくらい伸びる可能性は高い。
 一気に希望が生まれた瞬間だった。
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