ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響

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「そうだ、今日はチョコレート以外のお土産があるんだ」
「う?」

 シュークリットがカスティに目をやると、カスティがすすっと近づいて上着から細長い小箱を取り出した。
 それを恭しくテーブルの上へと乗せる。
 白い小箱を見ながらヘルヴィルが首を傾げると、シュークリットは微笑んでそれをヘルヴィルの前へと差し出した。

「開けてみて」

 開けていいらしい。
 わくわくしながら箱を手に取り、ぱこんと蓋を開けた。
 開いた中身に、ヘルヴィルはキョトンと目を丸くする。
 箱の中にはペンダントが入っていた。
 金色の鎖に楕円型の青い石が下がっている。
 青い石の縁取りは鎖と同じ金色だった。

「きらきらしてゆ」

 光に反射して煌めく石はシュークリットの瞳のようだった。
 ほえーと口を開けて眺めてしまう。

「鎖の長さはヘルヴィルの成長に合わせて交換できるから。これはいつも首から下げててね」
「いちゅも?ずっと?」

 こういうのはお洒落をするときにつけるものではないのだろうか。
というか子供で男のヘルヴィルがつけるものなのかと不思議に思って、首を捻った。

「そう、これはお守りだから」
「おまもり……」
「ヘルヴィルの魔力を抑えてくれるよ」

 にこりとシュークリットが微笑んだ。
 今日も必要以上に色っぽい笑みだ。

「ヘルヴィルは魔力が不安定だから、ある程度大きくなるまでは魔力が暴走しないようにこのネックレスが守るからね」
「おお……なんかしゅごいいし」

 よくわからないけれど、これをつけたら魔法で大変なことは起きないらしい。
 何となくネックレスに顔を近づけたり離したりと距離を変えながら眺めてしまう。
 艶々とした青はちょっと美味しそうかもしれない。

「つけてくれる?」
「う!ずっとつけてゆ」

 頷くと、シュークリットが手を伸ばして小箱からネックレスを取り上げた。
 それを目で追うと、そのままヘルヴィルの首につけてくれる。
 石がちょうど胸元に来るくらいの鎖の長さだった。

「うん、大丈夫そうだね」

 シュークリットが満足気に頷く。
 カスティはよくわかんないなという顔をしていたので仲間である。

「えいぷいる、わかゆ?」

 エイプリルは何か変化を感じとれるのかと見上げれば、へにょんと眉を下げられた。

「私はよくわからないです……わからなくてすみません!役立たずです!」
「落ち着いてください」

 悲観して真っ青になるエイプリルに、カスティが冷静に声をかける。
 どうやら変化がわかるのはシュークリットだけらしい。
 うむとヘルヴィルは頷いた。

「だいじょぶ、びうもわかんない。そゆこともある」
「正反対だなこの二人」

 ヘルヴィルの言葉にカスティが面白いと言わんばかりの顔で頷いていた。
 そんなわいわいやっていると、クリーズがやってきた。
 テーブルから少し離れたところに立ち止まり、頭を下げる。

「お話中失礼いたします。旦那様が殿下に確認させていただきたいことがあるそうです。お時間よろしいでしょうか」

 頭を上げたクリーズに、シュークリットが片眉を上げる。
 とても大人びた表情だった。
 あとやっぱり妙に色っぽい。
 ほえーとヘルヴィルがやりとりを見ていると「かまわないよ」とシュークリットが立ち上がった。

「ヘルヴィルはゆっくり食べてて。カスティはここで待機してていいよ。ヘルヴィルの相手をしてあげて」

 シュークリットの指示にカスティが小さく頭を下げる。
 どうやらシュークリットは席を外すらしい。

「いってやっしゃい」

 ふりふりひらひらと右手を振ると、シュークリットは青い瞳をしならせた。

「ふふ、いってきます」

 小さく笑ってからクリーズと二人でテーブルを離れていく。
 お茶をしていた部屋から二人が出ていくと、ヘルヴィルは目線を扉の方からテーブルへと移した。

「ヘルヴィル様お腹に余裕があるならクッキーもありますよ」

 エイプリルが薦めてくれたので、せっかくだしと食べる気になった。

「たべう」
「はい」

 にっこり笑ってエイプリルがクッキーを一枚皿に移してヘルヴィルの前へと置く。
 クッキーも好きだ。
 サクサクほろほろしていてバターの味がしっかりしているのだ。
 ただ結構お腹に溜まるので、いつも満腹気味のヘルヴィルはあまり食べることがない。
 ただ最近は食事がスープを占めているので、ちょっと消化が早くなって食べる余裕が出てきた気がする。
 目の前に置かれたクッキーに上機嫌になって手を伸ばそうとしたら、胸元でシャラとネックレスの鎖が涼やかな音をたてた。
 思わず見下ろすと、曇りのない青い石が光を反射している。
 じっと見下ろして、綺麗だなあと思ったところでヘルヴィルはハッとした。

「こえ、ぷえぜんとでは?」

 気がついて、ヘルヴィルはキラキラとした目をネックレスに落とした。
生前プレゼントは貰ったことがない。
 ドライな施設はクリスマスも誕生日もちょっとした駄菓子をひとつ貰えるだけだった。
 それもストックの入っているダンボールから自分でひとつ取るスタイルだ。
 情緒もへったくれもない。
味気がないにも程がある。
 友達もいなかったから、プレゼントなんて貰ったことはなかった。

「そうですね、お土産って言ってましたけど、プレゼントでもありますね」

 エイプリルが頷いたので、やはりプレゼントだとヘルヴィルは頬を高潮させて満面の笑みを浮かべた。

「ぷえぜんと、はじめて!」
「え、そうなんですか?」

 ヘルヴィルの言葉にカスティが驚いたように眉を上げた。

「う!」

 こくりと頷くと、どこか気まずそうに首の後ろをかいている。

「あー……家族からは?」
「しやない」

 ふるふると首を振った。
 ヘルヴィルの記憶は二歳からしかない。
 二歳以前は何故かまったく覚えていないのだ。
 だからここ半年の記憶のみを思い返すしかないけれど、覚えている限りでは誕生日の記憶もないのでプレゼントの有無はわからなかった。
 何故そんなにスコンと記憶が抜けているのかはわからないけれど、赤ちゃんの頃の記憶なんてそんなものだろうとヘルヴィルは結論づけている。
 ヘルヴィルの答えにカスティがチラリとエイプリルに目をやると、エイプリルはへにょと眉を下げた。

「私はヘルヴィル様が二歳になってからついたので……そのあいだは特に何も」
「じゃあ、りっとがはじめてにすゆ!」

 記念すべきプレゼント第一号はシュークリットに決定した瞬間だ。

「うーん、ヘルヴィル様って結構……いや何でもないです」

 カスティが苦笑したけれど、何故そんな表情をされるのかわからない。
 うむん?と首を傾げたあとで、ハッとヘルヴィルは重大なことに気づいた。

(ぷえぜんとって、おかえしすゆものでは?)

 生前はプレゼントを貰ったことはないし、あげたこともない。
 しかし女子高生は友達とプレゼント交換をクリスマスなんかにしていた。
 友達にプレゼントを貰ったら、お返しもしていた。
 シュークリットはヘルヴィルの友達になったのだから、あげちゃってもいいのではと一気に脳内にプレゼント交換の文字が燦然と輝いた。

(なにあげよう)

 プレゼントなんてあげたことがないから、わからない。
ついでにこの世界は生前とはまったく違う世界なので、何があるかもわからない。
うむむと眉がぐにゅうっと景気よく寄せられた。
 そんなヘルヴィルの様子に、エイプリルが心配そうに声をかける。

「ヘルヴィル様どうしました?」
「口がとんがっちゃってますし、眉も凄いですよ」

 カスティに指摘されて、口がとんがっていることに気がついた。
 チャリとネックレスの宝石を手に乗せる。
 シュークリットの瞳と同じ色の石は艶々だった。

「こえのおかえし、なにがいい?」
「お返しですか?」

 キョトンとカスティが目を丸くする。
 ヘルヴィルは重々しく首肯した。

「ぷえぜんとこうかん、すりゅ」
「ぶふっ……王子にプレゼント交換」

 カスティが口に手を当ててゴホッと不自然に空咳をした。
 喉がイガイガしたのだろうかと不思議に思っていると、しゃがんで目線をあわせてくる。

「気にせず貰うだけでいいと思いますよ」
「えぇー……えいぷいる、なにがいい?」

 まったく役に立たなかったのでエイプリルに視線を向けると、あからさまにびくっと肩を跳ねさせた。

「え、わ、私ごときじゃ考えつきません!」
「しょっかあ、おんなのこだもんね」

 男の子の好きなものはわからないかもしれない。
 仕方ないと頷くと、カスティが肩をすくめてみせる。

「それ、何か違うと思いますよ」
「かしゅてぃは、なにがいいとおもう?」
「ゴミとかじゃなければいいと思います」

 範囲が広すぎる。
 思わずしょも、と眉が下がってしまった。
もうちょっと適格なアドバイスをしてほしい。

「というかヘルヴィル様は小さいし、本当に気にしなくていいんですよ。殿下がちょっと気をきかせただけです。そんなにお金も労力もかかってませんから」
「ええ……えらいひとしゅごい」
「まあ王族ですからね」

 王子ってお金持ちなんだなと、ネックレスを再び見下ろしてヘルヴィルは感心するしかなかった。
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