ヘルヴィルのまったり日和

やらぎはら響

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でも、と思う。
 嫌われていないなら、子供がお小遣いを強請るのは多分ありだ。
 女子高生もお小遣いをもらっていた。
 ただお小遣いではとてもオタ活と推し活に満足できないと限界までバイトのシフトを入れていたけれど。
 とてもバイタリティ溢れる少女だった。
 見習いたい。
 生前に思いを馳せつつ、ヘルヴィルはもう一度くるりと目を上に向けた。

(ねだりゅのは、たぶんありだけど、にしゃいだから、くれりゅかわかんないな)

 うーんと短い腕を無理やり組む。
 ムチムチとしていて若干組みにくいけれど、そのままもう一度うーんと唸った。

「うむ……よし」
「ヘルヴィル様?」

 力強く頷いたヘルヴィルに、エイプリルが不思議そうに腰を折って顔を覗き込んでくる。
 その顔を見返すと、ヘルヴィルはかくも真剣な表情をキリッと浮かべた。

「おこじゅかい、ねだりょう」
「え!そ……それは旦那様にですか?」
「う!」

 おそるおそる声を震わせたエイプリルに、ヘルヴィルは力強く頷いた。
 癖のついた赤毛がふわりと揺れる。
 ヘルヴィルの答えに、エイプリルの顔から血の気が引いた。
 一気に顔色が悪くなる。
 人間ってこんなに一瞬で顔色変わるんだと感心するほどだった。

「そ、それは……難しいのでは……怒られたりしちゃうかもですよ。やめときましょう?」

 エイプリルの声は震えて心もとない。
 いっそ語尾は消え入りそうだ。
 そんなになるほど心配になることを言っただろうかと、不思議に思う。
 けれど、どのみちお金がないとシュークリットへのプレゼントは無理だ。
 グレンはそんなに怖いのだろうか。
 もしかして怒りっぽいのだろうか。
 疑問は浮かぶけれど、ふむと脳内で結論を出してヘルヴィルは再び頷いた。

「そのときはそのとき」
「ええ!?」

 ヘルヴィルの結論にエイプリルが悲鳴じみた声を上げる。
 その声音は悲愴に濡れていた。
 ヘルヴィルとしては、駄目なら駄目だと言われるだろうから、その時にまた考えようくらいの気軽さだ。
 根が大雑把な自覚はあるけれど、聞く前から悲観的になってもしょうがない。
 そういうのはエイプリルの担当だ。

「えいぷいる、とーたまのとこいく」

 この世界ではどうやら父親の呼び方はお父さんじゃないっぽい。
 貴族というなんか身分が高い感じだからだろうか。
 もしくは我が家だけなのか。
 リスタースは父上で、ルードレットはお父様と呼んでいた。
 ヘルヴィルも呼ぶなら父上だろうかと思ったけれど、お父さんと呼ぶことにちょっと憧れがある。
 あと舌がまわらない。
 そんなわけでお父さんに似ているお父様にした。
 舌足らずなので正確に言えないのは仕方ない。
 ご愛敬だ。

「よち、いこう」
「え!今からですか?」
「いまかや」

 ハッキリ断言すると、グレンのいる場所を尋ねる。
 執務室にいるはずだと言われたので、エイプリルの先導でグレン目指してぽてぽてと歩き出した。
 その途中で何度もエイプリルのやめませんかが繰り返されたけれど、大丈夫を繰り返して長い廊下を歩む。
 けれど段々と足が重くなってきた。

「ちゅ、ちゅかれた」

 普段ヘルヴィルのいる棟はみんなが生活する居住区らしいけれど、執務室は別棟にあるらしい。
 意気揚々と歩いてきたけれど、普段ヘルヴィルはささやかな散歩しかしていないので、本人が思っている以上に体力がなかった。
 いつもは歩かない距離を歩いたからか、とてもくたびれている。
 立ち止まって、はひ、とひとつ息をこぼしてエイプリルの顔を見上げる。
 エイプリルは不安そうにはしているけれど、疲れた様子はない。
 幼児の体力の差に打ちひしがれてしまう。

「えいぷいる、まだ?」
「もうちょっとですよ」
「おかねもちってたいへん」

 憂いの眼差しで肩を落とすと、エイプリルがおずおずとかがんでヘルヴィルに視線を合わせた。
 うろうろと視線をさまよわせたあと、何度か口を開けたり閉じたりするので不思議に思う。

「……私抱っこしましょうか?あっやっぱり余計なこと言いました!私なんかが!」
「しょれだ!」

 あわあわとまくし立てるエイプリルの申し出にヘルヴィルは一も二もなく食いついた。
 幼児なんだからたまには抱っこされて運ばれてもいいはずだ。

「ん!」

 両手をエイプリルに広げて伸ばすと、挙動不審だったエイプリルがピタリと止まる。

「……いいんですか?」
「う!おねがいしましゅ」

 ヘルヴィルの答えにエイプリルはきゅっと唇を引き結ぶと、真剣な目ではいと頷きヘルヴィルを抱き上げた。
 はじめて抱っこされたけれど、小柄なエイプリルでも結構高く感じる。
 落ちないように肩のあたりのメイド服を掴んで、歩き出したエイプリルの頬にぺたりと手のひらをくっつけた。

「つかれたや、おりりゅからね」

 ちょっと回復するまではお言葉に甘えるけれど、女の子なので無理はさせられない。

「大丈夫ですよ、力けっこうあるんです」
「おお……しゅごい」
「えへへ」

 確かにエイプリルの抱っこする腕は安定しているし、歩く速度も軽やかだ。
 見た目より力があるらしい。
 羨ましいことだ。
 きっと筋肉を磨く趣味があるのだろう。

「きんとれだいじ」
「筋トレはしていませんよ?」

 不思議そうなエイプリルの言葉は、心のやりたいことリストに筋肉をつけてムキムキになるということを書き加えているヘルヴィルには届いていなかった。
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