テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

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 それから俺は由貴ゆきに散々揺さぶられて、互いの快楽を貪り合うだけの獣性じゅうせいを剥き出しにするような時間を過ごし、気が付いた時にはもう早朝で、隣に由貴の姿はなかった。

 由貴が吐き出した精や、己が撒き散らかした白濁は綺麗に拭われていて、俺に匂いを染みつかせるんじゃなかったのかよ……なんてベッドに半身を起こして溜め息を吐いた。

 鈍く痛む腰をさすりながら、リビングへ行くとローテーブルの上に書き置きがあった。

『今までありがとう、はやてくん』

 美しい顔にならってか、文字まで美しいその文章を何度も読み返した後、俺は煙草をくわえたついで、灰皿の上でその用紙にライターで火を点けた。

 じりじりと燃えていくそれを見つめながら紫煙をくゆらせ、由貴と同じ職場であることを呪った。

 今日、出勤したらもう由貴はただの主任。
 俺の恋人ではなくなってしまった。

 二度と『由貴』と呼ぶこともなくなってしまった。

 まだ、こんなにも頭の中はアイツでいっぱいだけれど、もう忘れなくちゃいけない……いけないのに、燃え尽きた書き置きを見たら酷くやるせなくなって。

(由貴が俺に望んでいたことって何だったんだ……)

 俺は由貴に何を望めばアイツはずっとそばにいてくれたんだろう、不満や不安って何だったんだ。

 愛想をつかされた理由は何だ。

 由貴はずっと俺を翻弄ほんろうしてきたけれど、もしかしたら俺もアイツを翻弄している何かがあったんだろうか。

 考えても考えても答えがわからなくて、結局、俺が捕まえていられる存在じゃなかった……その終着点に辿り着くしかないんだ。

 別れなんて今まで腐るほど経験してきたけれど、どの女にもこれほど悔やまれるような執着心は無かった。

 典型的な来るもの拒まず去るもの追わずな俺が、こんなにも心をズタボロにされるような別れは今までなかった。

 俺にとって由貴はどこまでも〝特別〟な存在で〝例外〟な存在で、人生を賭けてそばに居たいと思った存在で。

 それが無くなったんだ……という現実を、当分は受け入れられそうにないくらいには喪失感に苛まれていた。

 由貴はもうここには帰って来ない。

 アイツの痕跡が残るこの部屋を、俺も出るべきだろうかとぼんやりと考えながら出勤の準備を始めた。

 ただの主任になってしまった綺麗な由貴の顔を見に行くために。
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