テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~

ちろる

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風早かざはや先輩、何か元気なくないですか?」

 昼休憩、俺は役所の喫煙所で煙草を吸っていたのだが、喫煙者でもない小鳥遊たかなしが中に入ってきて上目遣いに訊ねてきた。

「あー……、例の恋人と別れたんだ。予想通り、ずるずる引きずっちまってるってわけ。情けねぇよな」

 その言葉を聞いた小鳥遊の顔が一瞬パッと華やいだのは気のせいだろうか……すぐに沈痛な面持ちを作って「そうなんですか……」と同情する声を出した。

「風早先輩、私ならいつでも空いてますから。待ってるっていいましたよね? 私、風早先輩のその元カノさんより絶対に尽くせる自信があります。フラフラと浮気を繰り返していた元カノさんのことなんて、早く忘れるべきですよ」

 確かに、由貴はフラフラと浮気を繰り返す、傍目はために見たら最低な男だったかもしれない。

(でも、それでもかまわねぇから俺が捕まえておきたくて……)

「サンキュ。俺もわかってんだ。報われない想いをいつまでも抱えてても仕方ねぇって。でも、恥ずかしい話だが初恋みてぇなもんだった。なかなか心からは消えてくんねぇな。失恋ってこんな辛かったんだな」

 もう由貴が家を出てから一週間は経っている。

 俺も部屋を引っ越そうかと思ったが、あちこちに残る由貴の痕跡を失ってしまうのが心許こころもとなくて。

 別れてからもアイツに執着して、未練がましく引きずっているやるせない日々を過ごしている。

 由貴はもうきっと俺のことなんか忘れ去って、たくさんいる情人たちとまた奔放ほんぽうに遊び回っていることだろう。

 仕事で事務的に「風早くん」と呼ばれるのが辛くて。

 いっそのこと仕事も辞めてしまおうかと思うくらいには、由貴があの美貌で皆に秋波しゅうはを送られている様子を見るのが辛い。

「風早先輩、失恋を乗り越えるには新しい恋ですよ? 私はいつまででも待ってますから」

 新しい恋なんてもう出来ないだろう――。

 せいぜい、また言い寄ってくる適当な女と付き合って気持ちのこもらない上っ面の性処理みたいな相手が出来るだけだ。

 小鳥遊も例外じゃないのかもしれない。

 こんなに熱心に俺のことを待ってくれているなら、適当に付き合ってみても……と思わなくもないが、今の俺にはそんな気力すらなくて。

 ただただ、由貴への執着心しかなくて。

 報われねぇーと思いながら深く煙を吐き出す俺を、小鳥遊はどこか熱い瞳で見つめていた。

 俺が由貴に出来なかったことって何だ。
 教えてくれよ、誰か。

 もう一度、チャンスをくれよ。
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