お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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1話 無才

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「お前は才能が無い」

 俺を部屋に呼び出し、父さんはそう告げた。

「……わかってます。そんなこと」

「お前はまるで理解できていない。我がフォレト家に生まれ、魔力量がたったの”5”であったお前には」

 この俺、アルカ・ル・ファレトには才能が無い。
 身体は病弱で、魔力量はたったの”5”。
 5歳の幼児でさえ、普通は魔力量50を超えるというのに。

 おまけに見た目も悪い。
 不吉の象徴とされる漆黒の髪。
 同じく不吉の象徴である赤と青のオッドアイ。
 さらには顔の右半分を覆うヤケド痕。
 背丈も160センチ程度と低く、骸骨戦士スケルトンのようにガリガリな身体付き。

 見た目は不吉で、存在するだけで嫌われ。
 病弱故に剣を振るえず、魔術も期待できず。
 人々は俺を『ファレト家の恥』と呼んだ。

矮小わいしょうなる平民や奴隷でさえ、貴様と同年代であれば魔力量は100以上あるという。それだというのに……公爵家に生まれながら、保有魔力がたったの5? お前、本当にワシの子か?」

「……申し訳ございません」

 父さんは俺とは違い、エリートだ。
 名門校として有名な王立ルノール魔術学院を首席で卒業し、宮廷魔術師に就職。

 公爵家であるため貴族とのつながりも深く、宮廷勤めということもあり王家とのパイプも太い。

「言い返すこともできず、謝ることしかできんとは……なんでも哀れな奴じゃ。そんなに地面とキスすることが、好きなのか?」

「……申し訳ございません」

「無能なお前に任せている経理の仕事も、極めて遅いと報告を受けている」

「……申し訳ございません」

「仕事は遅く、才能もない。生きていて楽しいか?」

 俺は現在、領地の経理を担当している。
 通常は領主や秘書が行う仕事なのだが、俺が劣等生だと知った父さんが、仕事を押しつけてきたのだ。

 『タダ飯を食らうだけの無能は、我が家にはいらない。才能が無いのであれば、せめて仕事をしろ』とのことだ。

「……申し訳ございません」

「ハッハッハ! 貴様はそれしか言えんのか!」

「そうよ!! 情けないわね!!」

 惨めに土下座をする俺を見て、父さんとは違う2つの乾いた嘲笑が響く。
 
「謝罪するだけならばサルでもできるぞ、この痴れ者!!」

「……兄さん」

 運の悪いことに俺の双子の兄、イリカ・ル・ファレトは才能に溢れていた。

 剣技はかつての剣聖の生まれ変わりとまで称され、魔術はかつての賢者でさえ及ばないと絶賛される。

 高い身長に、優秀な成績。
 小麦色の肌と金の髪に、端正な顔立ち。
 まさしく全てにおいて、俺の上位互換。

 家族から愛され、友人も多い。
 双子なのに、ここまで差があるため……幾度も何度も劣等感に苛まれた。

「まったく情けない男ね!!」

「……ユウカ」

 兄と同じく、俺を責め立てるのは……婚約者のユウカ。

 彼女は『高嶺の花』という言葉がふさわしい、金髪の絶景の美女だ。
 だが……その性格は良いとは口が裂けても言えない。
 俺のことを罵り、兄や父と共に俺をイジメてくる。

 その上、俺は知っている。
 彼女が兄と浮気をしていることを。

 ある日の晩、兄の部屋で……2人が仲良くしていたのを、この目で見てしまったんだ。
 扉の隙間から覗いたら、2人がベッドの上で大人の付き合いをしている姿を、この目に焼き付けてしまったんだ。 

「才能無き貴様は、いつも口ばかりだな!!」

「ごめん……」

「なんだ、その口の利き方は!!」

 兄さんは俺の腹を、思い切り蹴ってきた。

「あはは!! 良いわねイリカ!! その調子よ!!」

「ぐ、ぐぐ……」

「ちッ、偉大なる賢者の一人である父さんの部屋を吐瀉物で汚しおって……恥を知れ!!」

「ご、ごめん……なさい……」

 兄さんは何度も、何度も俺の腹を蹴る。
 ……内臓がひっくり返るこの感覚は、何年経っても慣れない。

「イリカよ。”アレアルカ”をそしるのはほどほどにしなさい」

「ですが父上、俺は……”アレ”を見ていると腹が立ちます!」

「うむ。イリカの気持ちはよくわかる。ワシも才能が無く、努力をしても成果を出せない”アレ”を見ていると、苛立ちを覚えてしまうからの」

「ですよね父上!! ホント……何のために生まれてきたんだか!!」

「せっかくファレト公爵家に生まれたのに、魔術が一切使えないなんて……とんだ恥さらしね!!」

 貴族は血と才能を重んじる。
 中でも公爵家は特に、だ。

 『ファレト公爵家に非あらずんば、魔術師に非あらず。魔術師に非あらずんば、人に非あらず』という言葉があるくらい、俺の生まれたファレト公爵家は封建ほうけん的で選民思想が強いのだ。

 この言葉に乗っ取れば魔術が使えない俺は、当然のように人以下の存在という訳だ。

 当然、魔術が使えない俺は酷い仕打ちを受けた。
 イリカの魔術の実験台として、数々の攻撃魔術を身に浴びせられたり。
 王家のパーティや祭りなどで、俺だけ参加を許して貰えなかったり。
 学院への送迎の馬車に、俺1人だけ乗ることが許されなかったり。

 そう、まるで生まれ落ちたことが“悪”であるかのような扱いを受ける、落伍者らくごしゃ以下の人生を歩んできたのだ。
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