お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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4話 記憶

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「ムカつく野郎だ……。おらッ、こっちにこい」

「わッ」

 俺はイリカに袖を引っ張られる。
 なんて力だ。前世はゴリラか?

「ほら、下がよく見えるだろ?」

 屋上の縁に立たされる。
 地面まで30メートルはあるだろうか。
 ここから見える景色は綺麗だけど、フェンスが無いから恐ろしさが勝る。

「アルカ、ここから飛び降りろ」

「……え?」

 こいつ、今なんて言った?

「みんなと賭けをしたんだよ。貴様が飛び降りて生きているか、死んでいるかっていうな」

「バカじゃないか?」

「貴様よりかは、ずっとマシだ」

 イルカは俺の頭をツンと突いてくる。
 バカ、落ちるだろ!

「貴様は学力も筋力も、才能も無い。だからこそ、父さんから失望され、追放された」

「……だからなんだよ」

「わからないか? 貴様は生きているだけで、罪なんだよ!! 邪魔なんだよ!!」

 イリカは俺の胸ぐらを掴んでくる。

「ずっとムカついていた! 才能が無いのに、ワタシの弟に生まれた貴様を! どれだけワタシが才能を披露しても、貴様という汚点が我が家の評価を下げる!! ワタシがどれだけいじめても、貴様は自殺しない! 癒えないヤケドを植え付けても、右眼の視力を奪っても、骨を折っても!! 貴様は一向に諦めなかった!! その姿を見て、父上とワタシが……どれだけ苛立ったかを知らずに!!」

「……本当に、性格が終わっているな」

「黙れ! 翼を失った鳥が淘汰されるように、貴様のような男はもっと早くに死ぬべきだったのだ!!」

 イリカは俺の首を掴み上げ、ゴリラのように締め付ける。
 ペキッと首の骨が折れる音が、響いた。
 イリカは俺の首を掴み上げながら、屋上の縁へと移動する。

「……俺だって、誰にも負けないような……才能が欲しかったさ」

「ふッ、そうか……。ならば、再度貴様を応援してやろう」

 イリカは片手を広げ、周りの連中を煽る。

「がんばれーッ! アルカ!!」

「来世では、クソみたいな才に恵まれるなよ!!」

「来世では、仲良くできるといいな!!」

「さっさと死になさい!! アタシとイリカはアンタが死ぬ方に賭けているのよ!!」

 イリカはククッと含み笑いをする。

「ほら、みんなも応援してくれてるぞ」

「……心が欠けてるよ。お前達」

「死にゆく貴様にそう言われて、光栄の極みだ」

 そしてイリカは────

「来世に期待するんだな」

 手を離し────
 ────俺は屋上から落ちた。


 ◆ 


 落下途中、様々なことを考えていた。
 
「……ついに死ぬのか」

 上からは歓声が。
 下からは悲鳴が。

「……後一秒も無いな」

 奇跡的に助かったとしても、首の骨が折れているため、俺の命は長くないだろう。
 
「……惨めな人生だったな」

 才能が無く、才能に憧れた人生だった。
 剣も魔術も、学力も。
 何一つ、秀でたものなど無かった。

 才能に憧れた理由は、様々だ。
 隣に全ての才に溢れた男がいたから。
 父に認められたかったから。
 周りから蔑まされたくなかったから。
 好きな小説の主人公に憧れたから。

 俺を見下す者に対して、見返してやりたかったから。
 そのために弱い身体に鞭を打ち、努力を怠らなかった。

 一日中、剣を振るった。
 一日中、魔術を唱えた。
 一日中、勉強をした。
 一日中、一日中、一日中……。

 だが、全ての結果が実らなかった。
 それどころか、「努力の才能も無い」と更にそしられてしまった。

「……なんて、惨めな人生だ」

 地面が近くなり、走馬灯が脳内を巡る。
 5歳の時、イリカに腕を折られた。
 7歳の時、父さんから眼を蹴られ、右眼の視力が落ちた。
 12歳の時、イリカと父さんの魔術を直に受けて、消えないヤケド痕を植えられた。

 1721歳の時、聖竜を倒した。
 2891歳の時、大魔王をたおした。
 5000歳の時、神々をたおした。

「……ん?」

 突如として、俺の身に不思議な出来事が起きた。
 そう、存在しないはずの記憶・・・・・・・・・・が脳内を巡ったのだ。

「……まさかこれは────前世の記憶?」

 死を間近にして。
 俺は前世が最強の支援職【奪盗術師だっとうじゅつし】だったことを思いだした。
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