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5話 最期【3人称視点】
それは遥か古の時代。
天界をたった1人で蹂躙した男がいた。
エルフの森を障気で満たした男がいた。
強力な魔術で魔族を滅ぼした男がいた。
彼こそは最強の支援職である【奪盗術師】。
名をルアカ・ベンゼンという。
「────ルアカ・ベンゼンよ、貴殿の負けだ」
そんな史上最強の【奪盗術師】である彼は、人生初の敗北を喫していた。
「……どうやら、そのようだ」
彼は今、満身創痍の状況にある。
下半身を焼き払われ、左目を穿たれ、右腕は千切れ。
これまで彼が味わったことのない、深刻な負傷に苛まれていた。
そんな彼を見下ろす巨大な存在、それは────
「……幽星竜ゼロラスター……。伝説に恥じない実力だったな……」
「それは我のセリフだ」
幽星竜ゼロラスター。
それはこの世界において”失われた歴史”にのみ名を表す伝説の竜族のことである。
神話の時代に、世界を創造した神々を滅ぼし、かつて栄えていた文明を焼き尽くした真の邪竜。
しかし、ある時に急に猛りを失い、この世界のどこかに身を隠してしまった。
この世界において、神話の時代は”失われた歴史”と呼ばれているが、その主な理由は幽星竜ラスターが文明を滅ぼしたからである。
結果、かの邪竜の存在を知るモノは、極めて少ない。
焼け残ったごく一部の伝承、そして生き残った神々の末裔しか、かの邪竜の恐ろしさを知るモノはいないのだ。
「まさか、悪名高い邪竜が……こんなに美しいとは……思いもしなかったけどな」
「ふっ、変わった人間だ。我のような歪な存在を、美しいと形容するとは」
幽星竜ゼロラスターは、その忌々しい伝承とは異なり、非常に妖艶な容姿をしていた。
全長100キロメートルにも及ぶ、雄々しい巨躯。
背中から流れる、オーロラのように綺麗な翼。
鷲のように鋭く、虎のように猛々しい四肢。
幽星竜ゼロラスターの性別はわからない。
だが、ルアカ・ベンゼンの瞳には、この上なく美しい……女性のように見えていた。
「貴殿の戦いも素晴らしかったぞ。その【奪盗術】というスキルによって得た数々のスキル、驚嘆に値する」
「だが……傷1つつけることができなかった」
ルアカの職業、奪盗術師は極めて特殊な職業だ。
基本的には支援系の職業で、他人や自身を強化・弱体化できる。
だが、奪盗術師には他の者にはない、最強のスキルを有していた。
その最強のスキルの名は、【奪盗術】。
効果は単純明快、「相手のスキルを奪う」というもの。
身体を変質化するスキルであっても、魔術や技術に関するスキルであっても、どんなスキルであっても奪える。
支援系の職業は、基本的には攻撃スキルが貧弱であるため、1人での活動は難しい。
しかし、奪盗術師には関係ない話だ。
攻撃系のスキルをも奪える奪盗術師にとって、支援術師の特徴である『攻撃スキルが貧弱』という特徴は当てはまらない。
どんなスキルでも奪え、支援術も扱える奪盗術師は、まさしく『最強』なのである。
だが、奪盗術師になることは常人には困難だ。
奪盗術師になるためには、『支援系の職業に1000年以上従事して、盗賊系の職業に100年以上就くこと』が条件であるからである。
一般的な人間の寿命は80年程度で有り、もっとも長命な種族であるエルフの寿命でさえ500年程度のため、奪盗術師に就くことは不可能に近い。
ルアカがたまたま不老の霊薬を飲んでいなければ、奪盗術師など未来永劫現れなかっただろう。
「……まさか、幽星竜ゼロラスターに【奪盗術】が通じないとは……誤算だった」
「我は【スキル奪盗無効】のスキルを有しているからの」
「……なんて、惨めな人生だ」
ルアカは血ヘドを吐きながら、自虐気味に笑う。
その命も、直に果てるだろう。
「……1721歳の時、聖竜を倒した。2891歳の時、大魔王を討した。5000歳の時、神々を斃した」
涙を流し、続ける。
「そんな俺でも……傷1つつけることができず、スキルも奪盗めない奴がいるなんてな……」
「我が相手してきた中で、貴殿は1番の強者だったぞ」
「強さを讃えられても、何も嬉しくない。俺は……貴様のスキルが欲しかったんだ」
「……なに? 貴殿は我を倒し、『世界最強』の称号を得たかったのではないのか?」
「『世界最強』なんて、どうでもいい。俺はただ……俺の知らないスキルをコレクトしたかっただけだ……」
そう。このルアカという男、異常なほどのコレクター気質を持つ。
幼少期には欲しいものがあると必ず癇癪を起こし、親を幾度も泣かせた。
青年期には世界中の専門店やオークションで大金を溶かし、多くのヤミ金に手をかけた。
その後も数々のモノをコレクトしていき、7800歳になった今では、未知のスキルを集めることが趣味である。
「……貴殿、まさかとは思うが……不老の霊薬を飲んだ理由は寿命を無くし、全ての”欲しいもの”を集めるため……ではないだろうな?」
「よくわかってるな。有限の寿命のままだったら、欲しいものを集める前に寿命が尽きてしまうところだったからな」
瞳を輝かせながら、ルアカは語る。
7800歳児とは思えないほどに、キラキラと。
「純粋に狂っているな」
「そうか? 男の子は皆、コレクター気質だぞ」
「だが、さすがにそこまでコレクター気質なのは……竜の我でも引くぞ」
「それは寂しいな」
「そんなことよりも、傷は大丈夫なのか? 随分と饒舌に話しておるが」
「え、あ。ご、ゴホゴホ……し、死ぬ……」
「そんな思い出したかのように……。だが、やはり貴殿はおもしろいな。これまであってきた中で、初めての逸材だ」
幽星竜ゼロラスターは、ふいに1つの魔術陣を発動させる。
魔術陣はルアカの足下に展開される。
それはまるで煌めく夜空のようで、優しく儚い輝きを持っていた。
「……これはなんだ?」
「《輪廻転生の術》だ」
「……なんだそれ?」
「簡単に説明すると、貴殿の記憶と技、そして魔力といくつかのスキルを遙か遠い未来に送る魔術である」
「なるほど、わからん」
「遥か未来の誰かの前世が貴殿になり、その前世が鮮明に思い出せるということだ。おまけに、貴殿が扱えるスキルの内、いくつかを扱えてな」
「なるほど、それは素晴らしい。俺がコレクトしたスキルが僅かとはいえ、無駄にならないとは」
「感謝するが良い」
次の瞬間────ルアカの身体は、光に変わった。
「貴殿の命は、経験値は無駄にしない。史上最強の【奪盗術師】よ、また会おう」
天界をたった1人で蹂躙した男がいた。
エルフの森を障気で満たした男がいた。
強力な魔術で魔族を滅ぼした男がいた。
彼こそは最強の支援職である【奪盗術師】。
名をルアカ・ベンゼンという。
「────ルアカ・ベンゼンよ、貴殿の負けだ」
そんな史上最強の【奪盗術師】である彼は、人生初の敗北を喫していた。
「……どうやら、そのようだ」
彼は今、満身創痍の状況にある。
下半身を焼き払われ、左目を穿たれ、右腕は千切れ。
これまで彼が味わったことのない、深刻な負傷に苛まれていた。
そんな彼を見下ろす巨大な存在、それは────
「……幽星竜ゼロラスター……。伝説に恥じない実力だったな……」
「それは我のセリフだ」
幽星竜ゼロラスター。
それはこの世界において”失われた歴史”にのみ名を表す伝説の竜族のことである。
神話の時代に、世界を創造した神々を滅ぼし、かつて栄えていた文明を焼き尽くした真の邪竜。
しかし、ある時に急に猛りを失い、この世界のどこかに身を隠してしまった。
この世界において、神話の時代は”失われた歴史”と呼ばれているが、その主な理由は幽星竜ラスターが文明を滅ぼしたからである。
結果、かの邪竜の存在を知るモノは、極めて少ない。
焼け残ったごく一部の伝承、そして生き残った神々の末裔しか、かの邪竜の恐ろしさを知るモノはいないのだ。
「まさか、悪名高い邪竜が……こんなに美しいとは……思いもしなかったけどな」
「ふっ、変わった人間だ。我のような歪な存在を、美しいと形容するとは」
幽星竜ゼロラスターは、その忌々しい伝承とは異なり、非常に妖艶な容姿をしていた。
全長100キロメートルにも及ぶ、雄々しい巨躯。
背中から流れる、オーロラのように綺麗な翼。
鷲のように鋭く、虎のように猛々しい四肢。
幽星竜ゼロラスターの性別はわからない。
だが、ルアカ・ベンゼンの瞳には、この上なく美しい……女性のように見えていた。
「貴殿の戦いも素晴らしかったぞ。その【奪盗術】というスキルによって得た数々のスキル、驚嘆に値する」
「だが……傷1つつけることができなかった」
ルアカの職業、奪盗術師は極めて特殊な職業だ。
基本的には支援系の職業で、他人や自身を強化・弱体化できる。
だが、奪盗術師には他の者にはない、最強のスキルを有していた。
その最強のスキルの名は、【奪盗術】。
効果は単純明快、「相手のスキルを奪う」というもの。
身体を変質化するスキルであっても、魔術や技術に関するスキルであっても、どんなスキルであっても奪える。
支援系の職業は、基本的には攻撃スキルが貧弱であるため、1人での活動は難しい。
しかし、奪盗術師には関係ない話だ。
攻撃系のスキルをも奪える奪盗術師にとって、支援術師の特徴である『攻撃スキルが貧弱』という特徴は当てはまらない。
どんなスキルでも奪え、支援術も扱える奪盗術師は、まさしく『最強』なのである。
だが、奪盗術師になることは常人には困難だ。
奪盗術師になるためには、『支援系の職業に1000年以上従事して、盗賊系の職業に100年以上就くこと』が条件であるからである。
一般的な人間の寿命は80年程度で有り、もっとも長命な種族であるエルフの寿命でさえ500年程度のため、奪盗術師に就くことは不可能に近い。
ルアカがたまたま不老の霊薬を飲んでいなければ、奪盗術師など未来永劫現れなかっただろう。
「……まさか、幽星竜ゼロラスターに【奪盗術】が通じないとは……誤算だった」
「我は【スキル奪盗無効】のスキルを有しているからの」
「……なんて、惨めな人生だ」
ルアカは血ヘドを吐きながら、自虐気味に笑う。
その命も、直に果てるだろう。
「……1721歳の時、聖竜を倒した。2891歳の時、大魔王を討した。5000歳の時、神々を斃した」
涙を流し、続ける。
「そんな俺でも……傷1つつけることができず、スキルも奪盗めない奴がいるなんてな……」
「我が相手してきた中で、貴殿は1番の強者だったぞ」
「強さを讃えられても、何も嬉しくない。俺は……貴様のスキルが欲しかったんだ」
「……なに? 貴殿は我を倒し、『世界最強』の称号を得たかったのではないのか?」
「『世界最強』なんて、どうでもいい。俺はただ……俺の知らないスキルをコレクトしたかっただけだ……」
そう。このルアカという男、異常なほどのコレクター気質を持つ。
幼少期には欲しいものがあると必ず癇癪を起こし、親を幾度も泣かせた。
青年期には世界中の専門店やオークションで大金を溶かし、多くのヤミ金に手をかけた。
その後も数々のモノをコレクトしていき、7800歳になった今では、未知のスキルを集めることが趣味である。
「……貴殿、まさかとは思うが……不老の霊薬を飲んだ理由は寿命を無くし、全ての”欲しいもの”を集めるため……ではないだろうな?」
「よくわかってるな。有限の寿命のままだったら、欲しいものを集める前に寿命が尽きてしまうところだったからな」
瞳を輝かせながら、ルアカは語る。
7800歳児とは思えないほどに、キラキラと。
「純粋に狂っているな」
「そうか? 男の子は皆、コレクター気質だぞ」
「だが、さすがにそこまでコレクター気質なのは……竜の我でも引くぞ」
「それは寂しいな」
「そんなことよりも、傷は大丈夫なのか? 随分と饒舌に話しておるが」
「え、あ。ご、ゴホゴホ……し、死ぬ……」
「そんな思い出したかのように……。だが、やはり貴殿はおもしろいな。これまであってきた中で、初めての逸材だ」
幽星竜ゼロラスターは、ふいに1つの魔術陣を発動させる。
魔術陣はルアカの足下に展開される。
それはまるで煌めく夜空のようで、優しく儚い輝きを持っていた。
「……これはなんだ?」
「《輪廻転生の術》だ」
「……なんだそれ?」
「簡単に説明すると、貴殿の記憶と技、そして魔力といくつかのスキルを遙か遠い未来に送る魔術である」
「なるほど、わからん」
「遥か未来の誰かの前世が貴殿になり、その前世が鮮明に思い出せるということだ。おまけに、貴殿が扱えるスキルの内、いくつかを扱えてな」
「なるほど、それは素晴らしい。俺がコレクトしたスキルが僅かとはいえ、無駄にならないとは」
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