お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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16話 授業

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 教室の壁が壊れたせいで、その日は臨時休校となった。
 そして次の日には、壊された壁は完全に復旧していた。
 ちなみに、昨日無様に散った彼は、当然ながら病院送りで学校には来なかった。
 

「えぇ~、であるからして──」

 ボソボソと話し、黒板にミミズの這ったような文字を書き記すのは、歴史種族学のトード・フ・ロッグ先生。
 潰れたヒキガエルのような、醜い先生だ。

「トードのヤツ……今日も臭くない?」

「ホント、キモいよね?」

「そういやさぁ、アタシ昨日トードに食事に誘われたんだよねぇ」

「マ? あの顔面で中等部のアタシ達を食おうとしてるとか、マジでムリなんだけど……」

 トード先生は嫌われている。
 ドブのような体臭や醜悪な容姿。
 気に入った生徒に声をかけ、あわよくばを狙う業の深さ。
 字も汚く、滑舌も悪く、声も小さい。
 その他もろもろ、あらゆる要素が合わさって生徒からの人気が地に落ちているのだ。

「……はぁ」 

 そんなトード先生の授業だから……とは関係なしに、俺は壮絶な眠気と戦っていた。
 以前までは新鮮だった授業内容も、前世の知識を取り戻した俺にとっては……基本中の基本でしかない。

 前世は今世よりも圧倒的に栄えており、魔術に関する理解力も格段に勝っていた。
 今世では高等部で習うような内容も、前世では初等部で習うようなモノばかりだ。
 今世の最上級魔術や剣聖の剣術なども、前世では下級魔術や初歩の剣術だった。

 この授業も決して例外ではない。
 今世では高等な授業かもしれないが、前世の基準では初等部で習うないようだ。
 だからこそ、苦痛でしかない。
 今世でも通じる表現としては、中等部にもなって1+1を習わされていると言えば、この苦痛が伝わるだろうか。に出てしまったのだ。

 前世の記憶を完全に取り戻したわけではないため、覚えていない範囲もきっと出てくるだろうが……少なくとも、今その予兆は見当たらない。

 「……ふぅ」

 ため息を噛み殺しまくる。
 涙が出るのを、必死に止める。
 時計をジッと見つめ、時間が過ぎるのを待つ。
 一刻も早く、この退屈な時間が終わってくれることを、切に願う。

「では、絶滅した種族ですが……アルカ君、聞いていますか?」

「え、あ。はい」

「……では、答えてみなさい。現代では絶滅した種族を3つ!!」

 近くで見ると……やはり醜いな。
 ブツブツの肌に、ダラダラと流れる汗。
 立派なスーツは脂肪でパツパツになり、頭は禿くるっている。
 ……本当に彼は人族なのか? カエル型の魔物ではないのか?

「どうしましたか、まさかわからないのですか???」

 先生はニチャッと嗤い、俺を見つめてくる。
 顔が近い。息が臭いから、離れてほしい。
 それに……全身から吹き出ている脂汗も不愉快だ。

「うわ、トードのヤツ……アルカさんをイジメているわ」

「多分、気にかけていたイリカを倒されたことが、気に食わないのよ」

「そうだよな。トードのヤツ、イリカのことを溺愛していたもんな」

「アルカさんもかわいそうだよね。あんなブタガエルに目を付けられるなんて」

 トード先生の嫌われている理由の1つに、贔屓が酷さが上げられる。
 気に入った生徒にはトコトン尽くすが、そうでない生徒には陰湿なイジメを繰り返す。
 そうやって精神を病ませることが、彼にとっては一番の喜びなのだ。

 俺も以前までは、毎日のようにトード先生にイジメられた。
 イリカとともに一緒に、俺のことをイジメてきたこともある。
 ……生徒を導く教員の風上にもおけない、人間のクズだ。いや、ヒキガエルのクズか?

「なんですか、わからないのですか? イリカを倒すほどの実力はあっても、頭脳はまだまだみたいですねぇ???」

「……はぁ、先生。1つ確認なのですが、絶滅した種族については、まだ授業で習っていませんよね?」

「ええ、そうですよ? ですけれど、イリカを倒すほどの実力があるのですから、当然予習はしていますよねぇ?」

 俺の実力と予習が、いったいどのように繋がっているというのか。
 小一時間ほど問い詰めてやりたいが、トード先生と小一時間も話すなんて蕁麻疹が発症しそうなため断る。

「で、答えられないのですか? まぁ、当然ですよね!! あなたのような醜悪な容姿の人が、答えられるはずもありません!! イリカに勝てたのも、きっとその容姿に吐き気を催したイリカがきけんしただけなのでしょうね!!」

 こいつ、自分の容姿を棚にあげて……。
 
「さぁ、早く答えなさ──」
「龍人、ハイエルフ、魔族」

 ブタガエル先生の言葉を遮り、答えてやる。

「……え?」

「龍人、ハイエルフ、魔族です」

「……いま、なんて言いました?」

「脂肪が耳に溜まって、聞こえないのですか?」

「い、いいから!! もう一度答えなさい!!」

 ブルンブルンと全身の脂肪を震わせて、暑苦しく声を荒げてくる。
 うっとうしいことこの上ない。

「ですから…… 龍人、ハイエルフ、魔族です」

「な、なぜあなたが……その3大種族を知っているのですか……?」

「予習をしてきましたから。イリカを倒す実力がありますからね」

 当然、ウソだ。
 前世の記憶をたぐり寄せ、なんとか思い出しただけにすぎない。

 しかし、気になることが1つ。
 以前までの俺がそうだったように、この3つの種族は大昔に絶滅したが故に人々の記憶からは忘れさられた。
 まぁ、ブタガエルは見た目や性格はともかく、学者としては優秀だから知っていただけだろうな。

「そ、そんなハズありません!! その3大種族は……ともかく、あなたのような人が知るハズがないのです!!」

「まぁ、それはいいじゃないですか。それよりも、先生も答えてください」

「な、何をですか……。そ、それにそんなことよりって……」

「先生も答えられますよね? これまでに絶滅した種族を」

「……え?」

「今俺があげた種族以外の絶滅した種族を、3種族以上挙げてください」

「な、何を言っているのですか……」

 ダラダラと彼の脂汗が、さらに噴き出てくる。
 その様子は……直視すると目が腐りそうなほどに、おぞましい。

「3種族って……あなたが挙げた以外の種族で絶滅した種族は、残り2種族ですよ……」

「当然、答えられますよね? 歴史種族学の権威にあらせられるトード先生が、答えられないハズないですからね!!」

「……まさか、私の知らない種族がいるというのですか……」

「さぁ、早く!!」

 現代に生きるトード先生は、知るはずのない知識だ。
 だが、こんなにもイジワルな先生には、お灸を添える必要があるだろう。

「さぁ!! 早く!!」

「し、死魂族と……妖星族……あとは……知らない」

「へぇ、知らないのですね。初等部からやり直しては如何ですか?」

「た、頼みます……最後の1種族を教えてください」

「なら、先に俺にいうべきことがありますよね」

「私が全て悪かった!! 改心する!! だから……私にご教授くださいィイイイイイイ!!」

 膝をつき、涙顔で懇願してくるブタガエル。
 そんな顔をされても……吐き気しか感じない。
 しかし……プライドが知識欲に負けた様は、実におもしろいな。

「仕方ありませんね。最後の種族は神族です。覚えてくださいね」

「あぁ、やはり貴方は……。か、感謝します……。私もまだまだ……無知ですね」

「えぇ、そうですね。ですけれど、反省や勉強はあとでいいので、今はさっさと授業を再開してはどうですか?」

「……そうですね、申し訳ない。偉大なる賢者様」

 落ち込んで、授業を再開したブタガエル。
 しかし……賢者様だと?
 なんというか……変なあだ名をつけられものだな。

「す、スゲェ……あのブタガエルに知識で勝ちやがったぞ……」

「見た目や性格は終わっているけれど、知識人としていくつも名誉ある賞を獲得したブタガエルに勝つなんて……マジでアルカの野郎、どうしちまったんだ?」

「あんなシュンとしたブタガエル、見たことないわよ……」

「スッキリするわね!! ありがとう、アルカ!!」

 昨日同様、感謝の嵐。
 なんというか……複雑な気分だ。


 ◆


 その後、風の噂では本当にブタガエルは初等部に入学したらしい。
 53歳にして、初等部とは律儀なヤツだが……バカなのか?
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