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第48話 乏しい手札と劣悪な手駒
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運河の船着き場の影にあるマンホールのフタが浮上し、その下から二つの目玉が覗いた。
トムハットが息を殺しながら外の様子を確認しようとしているのである。
(クソッ! 此処からじゃ何も見えない!!)
トムハットは舌打ちして何か物に八つ当たりしたい衝動を必死に抑える。
船着き場は現在でも頻繁に使われているインフラの一つなので、マンホールの周辺には大量の資材が積まれていた。
この状況では外の様子を確認する為にマンホールから出て行動しなくてはならない。
(仕方ない、覚悟を決めろッ!! 少し外に出て直ぐに戻って来るだけッ)
そう自分に言い聞かせ呼吸を整えた後、トムハットは一気に身体を地面に引っ張り出した。
杖代わりの鉄パイプは使わない、地面に付けた瞬間衝撃が中の空洞を通る間に音に変換されて周囲に響き渡るからだ。
何か音の出ない木製の杖があれば良いのだが……
(よし、いくぞッ)
トムハットは覚悟を決めて地上の世界に這い出す。
幸い周囲の資材に繋がり移動する事で、ある程度早く行動する事が可能であった。
しかし悪い事も一つ、運河に隣接している事もあって波の音に兵士の足音が掻き消され接近に気付きにくいのだ。
(身長の素早く移動すれば大丈夫な筈だ、大丈夫ッ大丈夫ッ!!)
極限の緊張感の中首を高速で回転させて周囲の情報をかき集めつつ、五感を全力で研ぎ澄ましながら移動していく。
耳には今にも爆発しそうな心臓の鼓動が常に届いていた。
そして数メートル移動し、肝心の船着き場と船の様子を確認する為に資材の影から顔を出す。
(グッ……!! 運河を使って逃げる事も想定済みかよ。ディーノを是が非でも逃がさないって事か!!)
彼の目に映ったのは、数人の兵士が船着き場周辺を巡回している光景。
そして全ての船が陸に縛り付けられて、動かすための燃料をたった今抜かれているという光景であった。
水路での脱出を封じようという魂胆だろう。
(これじゃ大型の船を利用した脱出は不可能だ……どうする? 何か他の手段を使って運河を、いやッそもそも運河を諦めて別の手段で……)
トムハットは想像以上に早い敵の行動に面食らって計画を大きく曲げる事を余儀なくされた。
元々は敵の手が回る前に大型船に乗り急いで表社会まで脱出する予定であったが、この状況では船を動かす事が出来ずそもそも船着き場に近づけない。
その時、波の音に混じって足音が近づいてきた。
波の音が響く中でも耳に届いたのだ、この足音はかなり近い所で鳴っている。
恐らく10m程度しか離れていない筈だ。
(不味いッ!? 思考に注意を裂きすぎたッ!!)
トムハットは慌ててその場から離れてマンホールの中に戻ろうとする。
つい慌てた拍子に怪我をしている右足を付いてしまい、激痛によって地面に倒れて顔面を強打してしまった。
「グゥッ……、クソがッ」
慌てて立ち上がり逃げようとするが、足音はどんどん近づいてくる。
今更立ち上がった所でマンホールに入る前に後ろ姿を見られ、撃ち殺されてお終いだ。
(もうマンホールに入るのは諦めるしかない!! 何処かにッ何処かに隠れないと……ッ!!)
トムハットはパニックに成ながら必死に周囲を見回し、何とか迫ってくる兵士の目から逃れられそうな場所を探した。
その時、詰まれた資材の脇に布を掛けられた古いボートが置かれているのが眼に入った。
(一か八かあの中に飛び込んで、上から布を被ればッ!!)
トムハットは地面をほふく前進する様に進んでいき、ボートの上に上がって布を被る。
しかし中にはオールや釣り竿などの道具が入っていてボートの中へ完全に身を隠す事は出来ず、トムハットのシルエット分だけ布盛り上がってしまった。
(こんな時に限って運が無いッ!! しかしこの道具を外に放り出せば余計に目立つし、そんな時間も無い。このまま気付かれずに通り過ぎるのを信じるしか……ッ)
そうこうしている間にコツッコツッという巡回の兵士が近づいてくる音が大きくなり、心臓の鼓動が加速する。
人生で一度も体験した事が無い爆発しそうな程の鼓動で、トムハットは気が狂いそうに成った。
しかし此処で死ぬ訳にはいかないと眼を瞑り、神に全身全霊の祈りを捧げる。
コツッコツッという足音は真っ直ぐこちらに向かって来て、ボートの直前で止まった。
(嘘だろッ!? 見つかったのか!?)
トムハットは絶望し心臓が口から飛び出そうな思いを味わった。
そしてポケットに入っているバタフライナイフを触り最終手段の攻撃という選択肢を取ろうとした瞬間、足下はゆっくりと通り過ぎていった。
若しかする疑っていた訳では無く、このボートにエンジンが付いているのかを確認していたのかも知れない。
(た、助かった~……)
極度の緊張状態から解放されて身体の筋肉から一気に力が抜け、生涯でこれ以上無い程の感謝を神に捧げた。
まだ自分の悪運は尽きていない様だ。
(しかし、まだ何も問題は解決していないぞ。大型船は動かせないし、船着き場は兵士が見張っていて下手な動きをすれば発砲されて殺される……)
トムハットは難問に頭を悩ませながら、先ずは自分達に与えられた手札を数えた。
(使える人手は私とディーノの二人。道具は鉄パイプとナイフとライター……そしてこのボートと道具一式)
自分が今寝そべっているボートの存在を勘定に入れた瞬間、頭の奥で何かの鍵が開く音がした。
次はディーノを水路を使って逃がす為の条件を挙げていく。
(水路を越える船を手に入れる、巡回兵士の目を掻い潜る、追いかけてくる兵士達を振り切れるだけのスピードで運河を進むッ)
ボヤッとしていたミッション達成への道筋に輪郭が現われ始めた。
少しずつだが具体的な方法が浮かび上がってくる。
しかし、如何しても最後のピースが埋まらず作戦が完成しない。
(ダメだ、『巡回兵士の目を掻い潜る』を実現する方法が思い浮かばないッ!! エンジンを利用せずに脱出するとなると、猛スピードで監視の目を突っ切るという作戦は使えない。つまり監視の目が届く範囲を抜けるまでは何処かに敵の視線を引き付けなくては……)
トムハットはその数秒間の間に人生でもこれ以上無いという程、脳味噌がすり切れて火が上がっても仕方ないと感じる程思考した。
しかしどう考えても監視の目を引き付けられず二人そろって射殺されてしまう。
(何か、何か視線を釘付けにできる様な物をッ)
その時突如脳裏に一つの閃きが浮かぶ。
(そうだ、奴等がもしも船から抜いた燃料を一カ所に集めていたのならッ!!)
そう思い付いたトムハットは慎重にボートへ掛けられた布を捲り、船から取り出された燃料が何処へ運ばれるのかを確認した。
するとどうやら抜き出された燃料はタンクに入れられて一カ所に集められている様であった。
(…アレが爆発すれば、もしや敵の視線を暫く釘付けに出来るのでは!?)
彼の脳内でディーノを無事レヴィアスファミリーの支配領から脱出させるプランが編み出された。
プラン通りに物事が進めばディーノを傷一つ負わせず送り出す事が出来る。
余りにも少なすぎる手札と劣悪すぎるて手駒で実現可能な作戦としては、これ以上無い程に上等な物であるという確信があった。
(もうコレしかないッ!! そして迷いも無い、この身を捧げてディーノを逃がすッ!!)
トムハットが息を殺しながら外の様子を確認しようとしているのである。
(クソッ! 此処からじゃ何も見えない!!)
トムハットは舌打ちして何か物に八つ当たりしたい衝動を必死に抑える。
船着き場は現在でも頻繁に使われているインフラの一つなので、マンホールの周辺には大量の資材が積まれていた。
この状況では外の様子を確認する為にマンホールから出て行動しなくてはならない。
(仕方ない、覚悟を決めろッ!! 少し外に出て直ぐに戻って来るだけッ)
そう自分に言い聞かせ呼吸を整えた後、トムハットは一気に身体を地面に引っ張り出した。
杖代わりの鉄パイプは使わない、地面に付けた瞬間衝撃が中の空洞を通る間に音に変換されて周囲に響き渡るからだ。
何か音の出ない木製の杖があれば良いのだが……
(よし、いくぞッ)
トムハットは覚悟を決めて地上の世界に這い出す。
幸い周囲の資材に繋がり移動する事で、ある程度早く行動する事が可能であった。
しかし悪い事も一つ、運河に隣接している事もあって波の音に兵士の足音が掻き消され接近に気付きにくいのだ。
(身長の素早く移動すれば大丈夫な筈だ、大丈夫ッ大丈夫ッ!!)
極限の緊張感の中首を高速で回転させて周囲の情報をかき集めつつ、五感を全力で研ぎ澄ましながら移動していく。
耳には今にも爆発しそうな心臓の鼓動が常に届いていた。
そして数メートル移動し、肝心の船着き場と船の様子を確認する為に資材の影から顔を出す。
(グッ……!! 運河を使って逃げる事も想定済みかよ。ディーノを是が非でも逃がさないって事か!!)
彼の目に映ったのは、数人の兵士が船着き場周辺を巡回している光景。
そして全ての船が陸に縛り付けられて、動かすための燃料をたった今抜かれているという光景であった。
水路での脱出を封じようという魂胆だろう。
(これじゃ大型の船を利用した脱出は不可能だ……どうする? 何か他の手段を使って運河を、いやッそもそも運河を諦めて別の手段で……)
トムハットは想像以上に早い敵の行動に面食らって計画を大きく曲げる事を余儀なくされた。
元々は敵の手が回る前に大型船に乗り急いで表社会まで脱出する予定であったが、この状況では船を動かす事が出来ずそもそも船着き場に近づけない。
その時、波の音に混じって足音が近づいてきた。
波の音が響く中でも耳に届いたのだ、この足音はかなり近い所で鳴っている。
恐らく10m程度しか離れていない筈だ。
(不味いッ!? 思考に注意を裂きすぎたッ!!)
トムハットは慌ててその場から離れてマンホールの中に戻ろうとする。
つい慌てた拍子に怪我をしている右足を付いてしまい、激痛によって地面に倒れて顔面を強打してしまった。
「グゥッ……、クソがッ」
慌てて立ち上がり逃げようとするが、足音はどんどん近づいてくる。
今更立ち上がった所でマンホールに入る前に後ろ姿を見られ、撃ち殺されてお終いだ。
(もうマンホールに入るのは諦めるしかない!! 何処かにッ何処かに隠れないと……ッ!!)
トムハットはパニックに成ながら必死に周囲を見回し、何とか迫ってくる兵士の目から逃れられそうな場所を探した。
その時、詰まれた資材の脇に布を掛けられた古いボートが置かれているのが眼に入った。
(一か八かあの中に飛び込んで、上から布を被ればッ!!)
トムハットは地面をほふく前進する様に進んでいき、ボートの上に上がって布を被る。
しかし中にはオールや釣り竿などの道具が入っていてボートの中へ完全に身を隠す事は出来ず、トムハットのシルエット分だけ布盛り上がってしまった。
(こんな時に限って運が無いッ!! しかしこの道具を外に放り出せば余計に目立つし、そんな時間も無い。このまま気付かれずに通り過ぎるのを信じるしか……ッ)
そうこうしている間にコツッコツッという巡回の兵士が近づいてくる音が大きくなり、心臓の鼓動が加速する。
人生で一度も体験した事が無い爆発しそうな程の鼓動で、トムハットは気が狂いそうに成った。
しかし此処で死ぬ訳にはいかないと眼を瞑り、神に全身全霊の祈りを捧げる。
コツッコツッという足音は真っ直ぐこちらに向かって来て、ボートの直前で止まった。
(嘘だろッ!? 見つかったのか!?)
トムハットは絶望し心臓が口から飛び出そうな思いを味わった。
そしてポケットに入っているバタフライナイフを触り最終手段の攻撃という選択肢を取ろうとした瞬間、足下はゆっくりと通り過ぎていった。
若しかする疑っていた訳では無く、このボートにエンジンが付いているのかを確認していたのかも知れない。
(た、助かった~……)
極度の緊張状態から解放されて身体の筋肉から一気に力が抜け、生涯でこれ以上無い程の感謝を神に捧げた。
まだ自分の悪運は尽きていない様だ。
(しかし、まだ何も問題は解決していないぞ。大型船は動かせないし、船着き場は兵士が見張っていて下手な動きをすれば発砲されて殺される……)
トムハットは難問に頭を悩ませながら、先ずは自分達に与えられた手札を数えた。
(使える人手は私とディーノの二人。道具は鉄パイプとナイフとライター……そしてこのボートと道具一式)
自分が今寝そべっているボートの存在を勘定に入れた瞬間、頭の奥で何かの鍵が開く音がした。
次はディーノを水路を使って逃がす為の条件を挙げていく。
(水路を越える船を手に入れる、巡回兵士の目を掻い潜る、追いかけてくる兵士達を振り切れるだけのスピードで運河を進むッ)
ボヤッとしていたミッション達成への道筋に輪郭が現われ始めた。
少しずつだが具体的な方法が浮かび上がってくる。
しかし、如何しても最後のピースが埋まらず作戦が完成しない。
(ダメだ、『巡回兵士の目を掻い潜る』を実現する方法が思い浮かばないッ!! エンジンを利用せずに脱出するとなると、猛スピードで監視の目を突っ切るという作戦は使えない。つまり監視の目が届く範囲を抜けるまでは何処かに敵の視線を引き付けなくては……)
トムハットはその数秒間の間に人生でもこれ以上無いという程、脳味噌がすり切れて火が上がっても仕方ないと感じる程思考した。
しかしどう考えても監視の目を引き付けられず二人そろって射殺されてしまう。
(何か、何か視線を釘付けにできる様な物をッ)
その時突如脳裏に一つの閃きが浮かぶ。
(そうだ、奴等がもしも船から抜いた燃料を一カ所に集めていたのならッ!!)
そう思い付いたトムハットは慎重にボートへ掛けられた布を捲り、船から取り出された燃料が何処へ運ばれるのかを確認した。
するとどうやら抜き出された燃料はタンクに入れられて一カ所に集められている様であった。
(…アレが爆発すれば、もしや敵の視線を暫く釘付けに出来るのでは!?)
彼の脳内でディーノを無事レヴィアスファミリーの支配領から脱出させるプランが編み出された。
プラン通りに物事が進めばディーノを傷一つ負わせず送り出す事が出来る。
余りにも少なすぎる手札と劣悪すぎるて手駒で実現可能な作戦としては、これ以上無い程に上等な物であるという確信があった。
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