キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

文字の大きさ
47 / 120

愛47話 是が非でも生き残る覚悟

しおりを挟む
 トムハットは完璧に船着き場までの道を覚えていたが、その一番近い場所にあるマンホールへ移動する過程は過酷を極めた。

 唯でさえ年端もいかない少年と片足の不自由な壮年男性というコンビなのだ、上り下りや梯子の移動が多い地下水路の移動で体力をジリジリ削られていく。



「パパ、大丈夫かなぁ……」



 出口を目指す移動によって疲労が溜まったディーノは、今まで敢えて考えない様にしていた不安を零してしまった。

 今状況は悪化の一途を辿っており、恐らくルチアーノは現在複数人のビッグネームに加えて裏切り者の脅威も抱えている。

 父の身が心配になるのも仕方が無いだろう。



「……大丈夫だディーノッ、何も心配は無いさ。 お前が無事に表社会まで逃げ切れば、何時か必ずお父さんと再会できるからな。あと少しで目的値だ、頑張れ」



 トムハットは慣れない杖を使った移動でゼエゼエと息を荒げながら、ディーノの様子に細心の注意を払って勇気づける。

 その言葉でディーノも再び心を立て直し、前を向いて歩き始めた。

 しかしトムハットは今自分が言った言葉が事実に成る可能性が限りなく低いことを知っていて、罪悪感を覚える。



 そして地下水路を二時間近く歩いた後、漸く二人は目的の場所に到着したのだった。

 目的の船着き場内部にあるマンホールの真下に辿り着き、漸く二人は足を止めて一息付く事が出来たのだが、二人の顔は暗い。

 しかし其れも当然で、この地下の世界から少しでも上に出れば血に飢えた兵士達が自分達を撃ち殺そうと待ち構えているのだから。



「よしッ、一端私が様子を見て来よう。もしも何か良くない事が発生したら、お前だけでも一目散に逃げて何処かに隠れるんだぞ」



「良くない事って?」



 ディーノが不安そうな顔でそう聞き返してくる。

 トムハットは自分が想定している『良くない事』をそのままディーノに教えるかどうか迷ったが、結局何もオブラートに包まず話す事にした。

 この様な緊急事態に至っては、少し運の天秤が傾いただけでトムハットが死にディーノだけが生き残るという状況も有り得るのだ。

 その時の為にも、可能な限り情報を与えて一人で逃げられる様にしなくては成らない。



「……良くない事って言うのはッ、私が敵に発見されて殺された、又は捕まった場合の話だ」



 ディーノはその言葉を聞いた瞬間凍り付いた様に固まった。

 しかしトムハットは心を鬼にして喋り続ける。



「良いか、コレはとっても残酷な事だがとっても重要な事だ。お前は今まで自分に優しくしてくれる人間にしか会った事が無いと思うが、今から外に出て出会う人間に優しい人間なんて居ない。見つかった瞬間確実にお前を殺しにくる!!」



「何で? 何で僕が殺されなきゃいけないの??」



 ディーノも薄々嫌な予感は感じていたのだろうが、実際に言葉で自分が非常に危険な状況にあると聞いて涙が零れた。

 幼い精神では堪えきれない程の恐怖であろう。

 だが、いやだからこそ言葉で頭に生き延び方を叩き込まなくては成らない。



「其れは、大人達の理不尽な理由だ。だからお前は話し合えば何とかなる等と考えては成らない。他人を信頼したらダメだ、自分を第一に行動しろッ」



 トムハットは見開いた眼で、強い口調の言葉で頭に刻み込んでいく。

 そしてディーノも非常に重要な事であると理解した様で、必死に理解しようと涙が止めどなく流れる両目でしっかりとトムハットを見詰め返した。



「常にどうやって生き延びるのかを考えろ、脱出経路や隠れる場所を想定しながら生活するんだ。無理に行動する必要は無い、生きていれば必ず誰かが助けに来てくれるッ」



 ディーノはただ黙ってコクコクと頷いた。



「最後に一番大切なことを。私が死んでも絶対に立ち止まってはダメだ、助けようとしては成らない、声を上げることも禁止だ」



「なんで……そんな事ッ」



「充分有り得る話だからだ! 良いな、分かったなッ!!」



 トムハットは声を荒げながら詰め寄る。

 此処で釘を刺して置かなければ、心優しいディーノは自分を助ける為に命を投げ出すだろうという確信があったトムハットはわざと強い口調で言ったのだ。



 その言葉の衝撃にディーノは固くなって、何も言えないままトムハットを見上げる。



「この際全て洗いざらい話す、正直現状はかなり苦しい物に成っている。ボスは殺される可能性が有るし、ファミリーも幹部の誰かに奪われるかも知れないし、外の世界は敵だらけでお前の命を狙っているッ!! そして私とお前の二人が無事に裏社会を脱出して表社会に脱出できる可能性もかなり低い!! 実際に人が何人も死んでいるんだッ!!」



 トムハットは顔をディーノに近づけ、叫ぶ様に言った。

 一言一言がディーノの鼓膜から心に響き、奥のとっても深い部分に刻み込まれている。



「だが其れでもディーノ、お前だけは生き延びなくちゃ成らないッ!! 例え誰が死のうとも、ルチアーノが死にファミリー自体が消滅してしまったとしてもッ、お前が生きていればレヴィアスは終わらないッ!! どんな形になっても、何年かかっても、どんな立場で行っても構わないッお前がこの屈辱を晴らし、世界を変えるんだ!! これから何千何万という人が死ぬがッその全てをお前が背負え!! 悲しみの連鎖を断ち切る、今までの不出来な英雄達を帳消しにする最後の英雄にお前がなるんだァッ!!」



「うッ……うぅうッ、うあぁぁぁんッ!!!」



 ディーノはもう何が何だか分からない複雑でドロドロした感情が胸の中に渦巻き、涙として溢れ出た。

 自分の背負い込まなくては成らないモノに対する不安と、大勢の人間が死んで大好きなパパまで殺される可能性が有るという現状に恐怖を覚えたのだ。



(済まないディーノ、お前には何の罪も無い。ただ一つ、ルチアーノ・バラキアの息子として生まれたという事実だけがお前を地獄に引きずり込むのだッ)



 トムハットは幼い息子同然の少年に、余りにも残酷なモノを背負わせてしまった事に対する良心の呵責で顔を顰める。

 しかし生暖かい言葉を掛けて見せかけの優しさを与えるつもりは無い。

 自分の背負ったモノに対する恐怖と不安を身をもって感じ、自らの心で背負い生きる覚悟を決め、是が非でも生き延びて使命を果たすという誓いを自らで立てなくては成らないのだ。

 だからディーノが自分で覚悟を決めて、涙を止めるまで静かに見守るのだ。



「ヒグッ、ヒグッ……うぅック、はぁはぁッ……」



 一、二分ディーノは何か弱音を吐くでもなく只管泣き続けた。

 そして最後はトムハットに背を向け、自らの手で両目の涙を拭った後にようやく振り向く。

 その目は真っ赤に染まっていてまだ涙でキラキラと輝いていたが、確かな覚悟の籠もった両目でトムハットを見詰め返したのだった。



(涙を恥じらい一人で涙を拭うことを覚えたか……。良いぞ、男は孤独に流した涙を自らの手で拭いながら成長していくもんだ。腹が据わった良い目に成った)



 トムハットは自分をキッと見詰める両目を満足そうに眺め、其れから漸くディーノに近づいて頭を撫でた。



「頑張ったな。さあ、後は逃げるだけだぞッ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...