キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第62話 救いも優しさも無い

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「おい、ロビ! ジュースに睡眠薬入れてこの水筒に注いでくれ。ガキの年齢は10歳だ、入れすぎて殺すなよ、貴重な商品だ!」



 タントンは体当たりする様にカフェの扉を開け、カウンターテーブルの上に銀色の水筒を叩き付けながら言った。

 かなり無礼で咎められても文句は言えない行いであるが、ロビンと呼ばれた店員は慣れているのか軽く振り返ったのみで即座に手を動かし始めた。

 戸棚の下を開けて何やら捜し物をしながら親しげに話掛ける。



「久し振りだなタントン。今回は儲かりそうか?」



「ああ、さっきホームレスのジジイから親無しで物乞い慣れていない子供を新聞屋に向かわせたって情報が入ってな。行ってみると此れが意外と上物よッ」



 タントンはカウンター席に腰掛け、ご機嫌でタバコに火を付ける。

 その顔は満面の笑みで埋まっていたがディーノに先程見せたモノとは毛色が異なり、見たモノが生理的嫌悪感を感じるハイエナの様な笑顔であった。

 『欲』と顔に貼り付けられている様な笑顔である。



「上物ってのは、身体が良いのか? 其れとも顔が良いのか?」



「顔だな。身体は健康体だが何よりも顔が宗教画を見ているような形をしてやがるッ! 髪が黒いのは難点だが其れは染めさせればどうとでも成るだろうよ」



 最高の商品を手に入れたアントンは非常に饒舌であった。

 一方のロビンは明らかにきな臭い話が出ているにも関わらず一切表情を変えないで、唯黙々と自らの仕事を熟していく。



 この貧困層と富裕層の格差が激しい街で人身売買は日常茶飯事。

 この街に流れ込んでくる富の9割は人口の1割しかいない富裕層によって搾り取られ、カスの様な1割の富を9割に貧困層が奪い合うのだ。

 当然全ての貧困層が生きられる分の稼ぎを得られる筈が無い。

 そうなれば当然彼等が持っている唯一の財、肉体を売り払うという選択肢が当たり前に選択される様に成る。

 この街は全ての物が平等に商品と成るのだ。

 金銭的尺度以外の物差しはこの街に存在していない。



「今は薄汚れていて若干見栄えが悪いが、風呂に入れて化粧をすれば1000万ドラグマは下らない筈だ。確実に変態のマダム達が大喜びする、男児娼館が高額で買い取ってくれさ。楽に大儲けだッ!!」



 タントンは下品に笑う。

 既にどう売り払うのかも決めて、その結果幾らの儲けが手に入るのかまで計算済みの様だった。

 ディーノを金額でしか見て居らず、助けようという感情は欠片も存在していないようである。



「其れほどの上物なら一つの娼館に売り払うんじゃなくてオークションに掛けたらどうだ? 労働力として買い叩かれるのでは無く、店の看板商品としての価値が有るのなら入札の方が高く売れる」



「おうッ!? 流石俺のブレーンだ、そのアイディアは採用しよう!! この礼は今度飲み屋で返してやるよ」



 そう言いながらタントンはカウンターから手を伸ばし、厨房に置かれていた飲み物の栓を勝手に開けてラッパ飲みで液体を喉に送り込んだ。

 汚いゲップの音が響き、人身売買の話でも一切表情を変えなかったロビンが顔を顰める。

 この男もこの男で倫理観が欠如しているのだ。



「その話はどうでも良い。其れよりも2割はしっかりと振り込んで貰うぞ、コッチも犯罪の片棒を担いでやっているんだ」



 断りも無く勝手に店の飲み物に口を付けたタントンを無視し、ロビンは白い粉が乗った髪を持ってカウンターに戻って来た。

 そしてその粉を銀色の水筒に入れた後、先程タントンが勝手に手を付けたのと同じ場所にある瓶を手に取って水筒の中にドボドボと注いだ。

 水筒の中をガラス棒でかき混ぜながら口を開く。



「今回は薬の苦みが少し強いから甘みの強いジュースを使わせて貰った。ジュースとしては甘過ぎて感づかれると不味い、一気に出来るだけ大量に飲ませろ。60ミリリットル呑み込ませれば数十秒で動けなく成る筈だ」



「了解。安心しろよ相棒、三週間以内にオークションの契約書をお前に送りその取引金額の2割をお前に振り込む。俺は信頼だけは大切にしてんだ、安心して任せてくれ」



 タントンはホクホク顔でその水筒を懐に入れる。

 もう自分が当分遊んで暮らせるだけの金を手に入れた気に成って、指で頻りに金勘定をしながらニヤニヤ笑う。



「悪いが俺は人さらいの犯罪者を信頼する程世間知らずじゃ無いんでね。金がキッチリと振り込まれたのを確認するまでは一切気を抜かないぞ」



「おいおい、その人攫いに睡眠薬を流して甘い汁を啜っているマッドサイエンティストも大差ないだろ。屑は屑どうし仲良くしようぜッ」



「ふんッ、違いない」



 タントンはそう言いながらニヤニヤとロビンの顔を覗き込み、ロビンもその時初めて顔に笑みを作った。

 二人共金銭欲に歪んだ顔をしており、全く罪悪感は感じていない。

 だが其れがこの街のルールである。

 金のない人間に生きている価値は無い、金を稼ぐために全てを捧げず犯罪を犯すことすら躊躇わず貪欲に儲ける者こそが勤勉で素晴らしい人物として認められるのだ。

 二人の行動はこの街では正解なのである。



 その時、突如外からディーノの絶叫する声が聞こえた。

 タントンは口に含んでいた睡眠薬の入っていないジュースを思いっきり吹き出し、目の前に立っていたロビンに浴びせ掛ける。

 そして慌てた表情で立ち上がり、店の方へ身体を向ける。



「何だ今の声はッ! さてはあのガキッ何か感づきやがったな!!」



 タントンは熊のような大柄の身体を弾かれた様に高速で動かし、転がるようにして店の外に飛び出る。

 しかし既にディーノの姿は無く、新聞屋の前に集まった金持ち達がまるで面白い事が起こったように薄笑いを浮かべながらコソコソ話しているだけだった。



「おい、テメエらッ!! ガキは何処へ行った!!」



 タントンは凄まじい努顔を作り、顔に谷の様な深い皺を作りながら金持ち達に怒鳴りつける。

 その剣幕と声の大きさに驚いたのか金持ち達は身体をビクンッと痙攣させ、それから通りの先を何人かが指差した。



「この先かッ! くそッ絶対逃がさねえからなあのガキ!! コッチが下手に出てやってたら調子に乗りやがって、次は捕まえた瞬間即ジュースを口に流し込んで無理矢理拉致してやる!!」



 タントンはそう叫ぶと熊のような巨体を忙しなく動かし、ドタドタドタドタと地響きを発しながらディーノが向かった方向へ凄まじい速度で追いかけ始める。

 その顔は一度掴んだ大金を離すまいという狂気に満ちていた。

 そして金持ち達はその必死に駆け回る姿を見て、人を見下した様なクスクスという笑い声を発して何時までも噂話をし続けるのだった。



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