キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第80話 繋がりを断ち切る

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「この時代を、終わらせるか……」



 一切表情を変えず、ディーノの顔を努顔とも悲顔とも薄笑いを浮かべているとも無表情とも取れる不思議な表情のまま凝視してアンベルトが呟いた。

 其れから沈黙が訪れ、二人は何かの勝負でもしているかの様に顔を付き合わせ続ける。



(目を逸らして溜まるかッ。俺が決めた道だ、下らないと馬鹿にされようとも俺だけは胸を張って語り続けてやる!! 絶対に曲げねえッ!!)



 至近距離で見たアンベルトの顔は血色が悪く、人相も悪いので凄まじい威圧感を放っており、一瞬でも気を抜けば目を逸らしてしまいしまいそうであった。

 しかし自分の道すら真っ直ぐ前を向いて語れない男では、何も成し遂げる事が出来ないと心を奮い立たせてアンベルトを睨み返す。



 そして十秒程度の沈黙の後、アンベルトの顔に僅かな笑みが浮かんだ。



「目を逸らさず語りきったその根性も評価し、満点ではないが合格点だな。身の丈に合わない巨大で現実味のない野望だが、少なくとも詰まらぬと一蹴するには惜しい野望だッ」



「つまり……どういうッ事だよ?」



 回りくどい言い方にディーノは表情を硬直させ、言葉を覚えたての幼児の様に片言で詰まった言葉で結論を求める。

 するとアンベルトは10分以上全開にし続けた目を閉じ、無表情だった顔に実に愉快とでも言いたげな笑みを浮かべて口を開いた。



「良いだろう、お前に力と兵隊を与えてやる。そして直ぐに訓練開始だ、別れを済ましておけ」



「え、別れって?」



「ほう、見た目がガキ臭い割に随分と薄情な男だ。貴様も8年間無駄に生きていた訳ではないだろ? この街で出来た友人や部下に別れを告げろという事だ」



 その言葉を聞いたディーノは愕然とする。

 記憶が突然戻って精神的に疲弊していたとは言え、この1時間近く地下に残してきた仲間の事や、置き去りにして来てしまったマルクの事を思い出さなかった自分が信じられなかったのだ。

 自分の命よりも大切だと思っていたのに、数時間前の自分でれば真っ先に仲間達の事を心配した筈である。



「俺ッどうして……? 俺が俺じゃないみたいだ、一瞬でも仲間の事を忘れるなんて!?」



 ディーノが感じたのは絶望に近かった。

 自分の中の何かがこの数時間で変わってしまった、別の人間が自分の中に入り込んで来きたかの様な感覚だった。



 そんな自分で自分に絶望したディーノに、アンベルトが助言を与える。



「突然自分が変わってしまった感覚か……恐らくそれも記憶が復活した際の弊害だ。お前が忘れていた生まれ持った人格も今まで完全に時間停止していた訳では無い、表面化する事は無かったとしても確かにお前の中で成長し続けていた筈だ」



 ディーノの中で何かが突然疼き、体内から途轍もない異物感を感じた。



「そして今、その人格が復活して新しく形成された人格と混ざり合った。此れはつまり異なる二人の人格が一つの身体に押し込まれたのと同じ事、当然価値観の乖離が生まれる」



 違和感の答えをアンベルトから受け取ったディーノの中で、どちらを自分の本音にすれば良いのかという迷いが現れた。

 今すぐ仲間の元に飛んでいって冬越えの為に力を尽くさなくては成らないと主張する自分、そして何もかもを投げ出して自分の前に現われた道を歩もうとする二人の自分が存在しているのだ。

 どちらの自分を選択するのが正しく、どちらを捨てるべきなのか分からなくなる。

 心に身体が引き裂かれてしまいそうだった。



「……一ヶ月だけッ、一ヶ月だけ俺に時間をくれないか? その間に仲間達に冬を越える為の知識と金を用意してあげたい。このままじゃ見殺しにしちまうッ!!」



 ディーノの中で二つの自分を比べると、圧倒的に生まれ持った人格が優勢で心を支配していた。

 何を差し置いてでもこの時代を終わらせる為に行動しなくては成らないと叫び、その為に身体を動かそうとしている。

 しかし新しく形勢された人格が折衷案として、責めてこの冬を越えられるだけの知識と金を与えてから身体を明け渡したいと抵抗を示したのだ。



 時代を終わらせるという大義に比べれば余りに小さな事に思えるが、確かにこの8年間、大切な仲間達の為だけに全てを捧げた男が存在したのである。

 その男に言わせれば、この世界の未来よりも数人のガキ共の方が大切であった。



 しかし、その願いが聞き届けられる事は無かった。



「駄目だ、お前には今すぐ修業を開始してもらう」



「何でだよッ!? 最後に別れの言葉の一つくらい告げても問題無いだろ!!」



「いやッ今のお前を見て確信した、その仲間達と顔を合わせれば確実に迷いが生じる。別れを告げる方法は手紙のみだ、顔を見て別れを告げる事は許さん。そしてこれ以上お前が接触しない方が、その子達の為になる」



「俺と接触しない方が、良いって事か? さっきから何言ってんだか理解出来ねえよッ!!」



 ディーノは部屋一杯に響く程の大声を上げて叫んだ。

 二つの自我が衝突して情緒が不安定に成っているおり、早く事を成して力を蓄えたいと考える焦りと、自分自身が消えてしまいそうな恐怖を同時に感じていた。



 しかしアンベルトは同情の色を見せるどころか、若干呆れた様に言い放つ。



「お前はどうやら自分がどの様な立場の人間であるか理解出来ていない様だな。此れからお前はレヴィアスファミリーを復活させ、世界を変える事になるのだろ? そうなれば無条件で無尽蔵に敵は湧いてくる。そして血眼になってお前の弱点を探す筈だッ」



「つまり、俺が一緒に居たらアイツらを危険に晒すって事か?」



「そういう事だ。現に今でもディーノ・バラキアが生きていると分かれば、即座に殺しに来る勢力がごまんと居る。そして我々と接触してしまった時点で遅かれ早かれお前の生存は全世界に広まる事が確定した」



「俺に会った事を、誰かにバラすって事かよ……?」



「誰がそんな無駄な事をするものかッ。裏社会の情報網を嘗めない方が良い、基本的に口にした事は全て全世界の人間に聴かれている気でいろ。スパイや盗聴器、そして則獣の能力まで考慮に入れれば情報漏洩を完全に防ぐ事は不可能だ」



 其処まで言われてディーノはようやく自分が愛する仲間達の元へ変える事は不可能であると悟った。

 自分と一緒に居るということがどれ程リスクのある行為であったかを理解したのだ。

 ルチアーノ・バラキアの息子として生まれた時点で、悲しみと孤独に溢れた人生を歩むという事は確定していたのである。



「じゃあ、じゃあ責めてッ!! アイツらが無事冬を越えられる様に、何か手を打ってくれ!! もう俺はアイツらに会えなくても良いから、この冬凍え死ぬ奴が出ない様に助けてやってくれよ!!」



「何故私がその様な事を。自らを守る力も無い人間が死ぬのはこの世の理だ、一々貧困に喘ぐ子供に情を掛けていればキリが無いぞッ」



 予想していた事だが、アンベルトは当然の拒否。

 彼もこの裏社会で長年生きてきた人間だ。此れまで多くの命を奪い、多くの仲間を切り捨てる事で生き延びてきたのだ。

 今更数人の子供達に情を掛ける方が、人道に反した行為のように思える。



 しかしディーノの、8年間積み重ねてきた人格は此処で引き下がらない。



「頼むよアンベルト……アイツらさえ無事に生き延びてくれれば、俺は何の未練もない。もう一つの人格にこの身体も心も全て明け渡す。そうした方が、お前にとって好都合な筈だッ! そうだろ!!」



 彼にとって仲間達は自分以上に大切な宝物であった。

 そしてその宝物を守れるのであれば、自身が消滅しても構わない程の覚悟を持っていたのである。



 再び二人の間に思い沈黙が流れ、目と目の間に火花が散った。



「……良いだろう。私の友人に表社会で寄宿学校を営んでいる人間が居る、そいつに頼んでお前の仲間全員を安全と未来が保証された寮に入れよう。これで良いか?」



 アンベルトはこの提案を呑み、非常に魅力的な提案を返してくれた。

 迷う必要も無い、仲間達の未来まで保証されるのなら迷うことなくこの世界から消滅する事が出来る。



「ああ、交渉成立だ。最後に手紙だけ書かせてくれ……其れが終わったらお望み通り、俺は綺麗さっぱりこの世から消えてやるよッ」



 ディーノは満足そうで、それでいて若干の寂しさが籠もった笑顔を見せた。

 その顔を見たアンベルトは悪い事をしたとでも思っているのか目線を反らし、深い溜息を付いて背中を向ける。



「明日手紙を受け取りにくる。机の上に置いてある髪を使って書いておけ、今日は其処で寝ろ」



「分かった、了解だ」



 その会話を最後に、アンベルトは振り返らず部屋を後にした。

 そしてディーノはアンベルトが消えた瞬間ベッドから降りて、部屋の端に置かれていたテーブルに飛び付き凄まじい速度で書き始める。

 幸いな事に手紙用の髪は大量に用意されていて助かった。

 手が震えて何度も字を間違い、視界がぼやけて手紙がグシャグシャになってやり直し続けたから。
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