キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第79話 力を手に入れ何を成す

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(力が、力がもし手には入ったら。俺はどうしたいんだ??)



 突然世界をひっくり返せる力を与えると言われて正直戸惑った。



(力を手に入れたら、どう使うのが正解なんだろう……そうだ、先ずは親父の仇を討たなくちゃ成らない!! オーウェンは自分のファミリーを裏切ったんだ、其れにトムハットだってアイツが殺した様なもの。罪には報いを受けさせない、と…………)



 ディーノは一瞬正解を発見したと確信した。

 しかし其れは直ぐ違和感に変わる。



 自分はオーウェンの裏切りによって生家を追われ、この世界の全てであった二人の大切な人を失った。

 充分復讐を果たす権利が有り、息子として仇を討つ使命が有る。

 だが、その為に人生を捧げ、其れこそが自分の求める力の使い方かと問われれば疑問符が付く。



 ディーノは復讐という物にリアリティーを感じられず、オーウェンを是が非でも抹殺したいと思える程憎んでもいなかった。

 父を殺された事も、トムハットが殺された事も勿論悲しいが、彼等の為に復讐を行うというのは間違っている気がしたのだ。

 彼等の死に復讐などというちっぽけな意味を与えたくなかったのである。

 そしてきっと彼等も、何時か自分の無念を仕返しによって返す為に自分を生かしてくれた訳が無いと直感的感じていた。



(じゃあ俺は、何の為に生かされた? 何の為に此処で息を吸って、心臓を動かしている??)



 此処で視点は外では無く内側に向けられた。

 自分の存在意義、自分のできる最も大きな事とは……



(何を期待して俺を生かしてくれたんだ、親父やトムハットが俺に求めていた物はなんだ。俺は何を期待されてッ)



 ディーノは答えを求めて自分の奥深くへドンドン潜っていく。

 父やトムハットと交わした会話の記憶の中に、必ず答えが隠されていると思った。

 しかし思い出される記憶の中に自分に対して何かを求める様な光景はない、何時も求めるのでは無く何かを与えようとしてくれていたのだ。

 何時も優しい笑顔で、自分に足りていない物を与え、自力で手に入れた物を褒めてくれた。



 その時、ふと事件が起きる数日前に父と交わした会話を思い出す。



『死に意味なんか無い、人間は無意味に無機質にあっけなく死ぬ。でももし何か意味付けできるのなら、其れは生きた人間の役割だ。生きた人間がその屍を踏み越えて何を掴むのか、、、お前は俺の死に何の意味を見出すのかな?』



 其れは生家を離れて修行に出ると聞かされた夜、泣き疲れ父の膝の上で眠りに落ちる寸前に聞かされた言葉であった。

 既に瞼は重く閉ざされていて、父がどの様な表情で話したのかは分からないが、とても優しい口調であった事を覚えている。

 そして此れこそが自分が生かされた意味で有り、正しい力の使い方であった。



(そうだ……何かを求めていたんじゃない。自分達の死に意味を与えてくれる事だけを望んだ、自分の死に俺なりの意味を見出す事をッ)



 重く錆び付いた扉が、ギシリと僅かに開く音がする。



(死に意味なんて無い、意味を与えるのは俺達生きている人間だけ。なら多くの人間を殺し生き残った者として、手当たり次第に、そして自分勝手に死んだ人間達へ意味を与えてやる。死した人間全てに意味を与えられる程に大きな事を成すんだ!!)



 壁と扉の隙間から光が漏れ出す。



(親父の死も、トムハットの死も、声も知らず写真しか見たことが無い母さんにも、此れまで冬を越えれずに死んでいった子供達にも、この混沌として悲劇に満ちた時代の中で息絶えた全ての人間に意味を与えられる位の途轍もなく大きな偉業を成し遂げる……)



 ディーノの目の前に一本の険しく果てしない道が現われる。

 その道は無数の死体で出来ていて、苦しみに喘ぐ亡者達の声が木霊し新たな隣人を求めて手を伸ばしている。

 生きて帰れる可能性はゼロに等しい修羅の道である。



(本当に、俺にそんな事が出来るのか?? 生まれ持って天才だった訳でもない、たかがガキの窃盗団を纏めてた程度の実績しか持ち得ない俺が)



 血と悲しみと怒り塗れた道を前にして、ディーノは尻込みしなら一歩後ろに後退る。

 その道は常人には余りにも険しすぎる道に思えた。

 其れこそ100年に一人、いやッ1000年に一人の鎧袖一触博覧強記冠前絶後の全てを揃えた英傑でなければ果てに到達出来ない道である。



 ディーノが怖じ気づき、気付かなかったと目を背けて尻尾を巻き逃げ出そうとした時、背後から耳に馴染んだ声が飛び込んで来た。



『振り向くな、前を向け。私は常にお前の側にいる』



 声が脳内で響き、ディーノは逃げ出すために後ろへ倒していた重心を逆に前へ押し出した。

 ゆっくりと息を吸い、そして吐き出しながら自分の目の前に広がっている道を直視する。



(此れを前にして振り向くなかよ……随分な無理難題を言ってくれる。アンタに言われたらッ断れねえだろうがッ!!)



 ディーノは怖じ気づく自分を論理的に説得する事は諦め、目を瞑りヤケクソになって震える片足を前に出す。

 そして彼の身体に宿っている勇気と覚悟を振り絞って修羅の道に一歩を踏み入れた。

 その一歩は人生で経験してきたどの一歩よりも重い一歩であった。



(目の前に出て来ちまったモンは仕方ねえッ!! たとえ道の厳しさに膝を突き、泣きべそを掻きながら藻掻き苦しんで刻んだ一歩だったとしても! 自分が託された道を放棄した逃げの一歩のよりかは多少マシな筈だからな。俺が背負った人間全員連れてッ道の先を拝ましてやるよ!!」



 そう心の中で叫び、ディーノは両足を屍の道に踏み入れる。

 そして背後から聞こえる誘惑の声に一切耳を貸さず、前を向いて確かに歩き始めたのだった。



「決めたよ、力の使い方」



 現実世界の意識が戻ってきたディーノは、開口一番そう呟いた。

 自分の内側に閉じこもって必死に答えを探していたせいで気付かなかったが、この数分間アンベルトは一切視線を逸らさずディーノの顔を凝視し続けていたようである。

 そして待ちくたびれた様子もなく、答えを促した。



「それで、お前は何の為に力を使う? お前に我らが忠誠を尽くすだけの器が有るのか??」



「自分が器かどうかは分からないが、自分の歩む道は決めたよ。俺は自分の人生と手札全てを捧げて、この争いに満ちた時代を終わらせるッ。その為の命だ!!」
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