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第78話 力の使い方
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「あんた……変わったな」
アンベルトが部屋にいた謎の大男を追い出し、音が消えてしんと静まり返った部屋の中でディーノが呟いた。
もっと言うべき事が有るのだろうが、目の前に立っているアンベルトの外見は記憶の中と比べて余りに変化しており、突っ込まずには満足に話が出来そうになかった。
記憶の中でアンベルトは綺麗な茶髪を豊かに生やし、碌な手入れもしていないボサボサの髪型をしていたのだが、今その真逆である。
髪は綺麗に剃られてスキンヘッドになり、目は左目が深い傷跡によって潰され、右目も落ちくぼんでいる。
そして何より顔色が青白くとても健康体とは思えなかった。
「ああ変わったさ、お互いにな。8年間も時間が経過すれば目は潰れるし人相も変わる、そして髪も白髪になる」
そう皮肉げに放ったアンベルトの言葉でディーノは自分も随分変わっていた事に気が付く。
つい数時間前までは白髪なのが当たり前だと思っていたが、記憶が戻った今となれば父と唯一似ていた部分が無くなった事に対する一種の喪失感があった。
自分やアンベルトの見た目の様に、8年前と今では全てが様変わりしてしまっているのだろう。
そして悟った。
もう逃げる事は許されない。8年前のあの日、大切な存在や帰る場所を一度に失ったあの日に何があったのか知る必要があると。
でなければ正しく父とトムハットを悼む事が出来ない気がした。
「なあ、アンベルト。父が死んだあの日、一体何が起きていたんだ? 何ぜあの襲撃は起きて何故親父は殺された??」
その質問を受けたアンベルトは一瞬言葉に詰まり、そして短い溜息を挟んでから口を開いた。
「……お前の父、ルチアーノは全てを終わらせようとしていた。争いに疲れたルチアーノはファミリー同士のつぶし合いを防ぐため、四大ファミリー全てを巻き込んだ同盟を結び平和を作ろうと画策したのだ」
今や最底辺のストリートチルドレンに身を落としたディーノには想像すら出来ない規模の話に、一瞬気が遠く成りそうになる。
成長して一応の常識を得た今、ようやく父がどれ程偉大な存在であったのか実感した。
ルチアーノは正に世界を相手にして戦っていたのだ。
「しかしその甘えが命取りだった。我々レヴィアスファミリーが内に籠もっている間に、二つのビッグファミリーにBIFが接触し先手を打たれ、結果的に3名のビッグネームが敵に回った」
レヴィアスファミリ消滅の真相を語るアンベルトは表面上は感情を殺していたが、その声は若干震えていた。
彼も自分の師匠が何故殺されたのかを語っているのだ、内心穏やかでは無いだろう。
しかし其れでもポーカーフェイスを貫き続ける。
「最後の決定打はファミリー内の裏切り。ルチアーノが最も信頼を置いていた最高幹部の一人、オーウェンが裏切った」
その名前を聞いた時、ディーノの心を包んだのは怒りでも殺意でもなく困惑。
何故なら彼の知るオーウェンはとても自分の主を裏切り、組織の崩壊を画策する姑息な人物には思えなかったからだ。
ディーノの記憶の中にいるオーウェンは常に紳士的な笑顔を浮かべ、自分が話掛けると優しく応じて、手が空いていれば遊んでもくれた。
心の中で将来はこの様な大人に成りたいと思っていた人物であった。
「なんでッオーウェンが親父を……」
「さあな、動機は全くもって不明だ。誰よりもルチアーノに心酔し、金にも女にも権力にも全く興味を示さない性格で、我々も全くのノーマークだった。しかし、お前の誕生日にルチアーノが例え孤立してでも会いに来る事や、事前に敵のビッグネーム達を引き入れていた事から明確な殺意と計画性が見て取れる。突発的に裏切った訳では決してないッ」
語っていたアンベルトの拳に力が籠もる。
その暗殺計画は綿密に練られていて、確実に数ヶ月の準備が必要となるのだ。
つまりルチアーノ暗殺事件が発生するまでの数ヶ月間、アンベルトと他愛もない会話をして笑っていた間も心の中で牙を研いでいたという事。
オーウェンが起こした凶行の真相に最も困惑しているのはアンベルト自身なのだ。
「ルチアーノはお前達を逃がすために一人屋敷に残り、三名のビッグネームとBIF長官の襲撃を単身で切り抜けた後に弟子の裏切りに遭ってその生涯を終えた。そして此処からはお前の話だ、ディーノ」
「俺の、話?」
「ああ、此れが悲劇の今分かっている真相だ。この真相を知ったお前はどうする? この事実を知った上でお前はどう生きる??」
「俺は……どう、生きる…………」
突然突きつけられた質問にディーノは呆然とオウム返しをした。
父の死の真相を聞きディーノ自身も何かしなくてはならないという事は分かっている。
だが何をすれば良いのか分からない、自分に何が出来るのかも分からなかった。
完全に硬直して、口から全く言葉を発しなく成ってしまったディーノを見たアンベルトは溜息を零す。
そして頭を抱えながら口を開いた。
「我々はオーウェンに従う事を良しとせず、ルチアーノの息子であるお前が次の主に足る存在で有ると信じてこの8年間探し続けてきた。もしもお前が我らを満足させられるだけの器であるならば、我らは忠誠とファミリーを奪い返すだけの力を与えよう」
「ファミリーを、奪い返す力……」
「そうだ、世界をひっくり返せる程の力を与えてやろう。ただし、お前にはその力を手にするに相応しい男である事を証明してもらう……お前は力を手に入れ何を成す? 何を求める? 我々が求めるのはルチアーノの模造品ではない、違いを見せろ。お前には何があるッ!!」
アンベルトが部屋にいた謎の大男を追い出し、音が消えてしんと静まり返った部屋の中でディーノが呟いた。
もっと言うべき事が有るのだろうが、目の前に立っているアンベルトの外見は記憶の中と比べて余りに変化しており、突っ込まずには満足に話が出来そうになかった。
記憶の中でアンベルトは綺麗な茶髪を豊かに生やし、碌な手入れもしていないボサボサの髪型をしていたのだが、今その真逆である。
髪は綺麗に剃られてスキンヘッドになり、目は左目が深い傷跡によって潰され、右目も落ちくぼんでいる。
そして何より顔色が青白くとても健康体とは思えなかった。
「ああ変わったさ、お互いにな。8年間も時間が経過すれば目は潰れるし人相も変わる、そして髪も白髪になる」
そう皮肉げに放ったアンベルトの言葉でディーノは自分も随分変わっていた事に気が付く。
つい数時間前までは白髪なのが当たり前だと思っていたが、記憶が戻った今となれば父と唯一似ていた部分が無くなった事に対する一種の喪失感があった。
自分やアンベルトの見た目の様に、8年前と今では全てが様変わりしてしまっているのだろう。
そして悟った。
もう逃げる事は許されない。8年前のあの日、大切な存在や帰る場所を一度に失ったあの日に何があったのか知る必要があると。
でなければ正しく父とトムハットを悼む事が出来ない気がした。
「なあ、アンベルト。父が死んだあの日、一体何が起きていたんだ? 何ぜあの襲撃は起きて何故親父は殺された??」
その質問を受けたアンベルトは一瞬言葉に詰まり、そして短い溜息を挟んでから口を開いた。
「……お前の父、ルチアーノは全てを終わらせようとしていた。争いに疲れたルチアーノはファミリー同士のつぶし合いを防ぐため、四大ファミリー全てを巻き込んだ同盟を結び平和を作ろうと画策したのだ」
今や最底辺のストリートチルドレンに身を落としたディーノには想像すら出来ない規模の話に、一瞬気が遠く成りそうになる。
成長して一応の常識を得た今、ようやく父がどれ程偉大な存在であったのか実感した。
ルチアーノは正に世界を相手にして戦っていたのだ。
「しかしその甘えが命取りだった。我々レヴィアスファミリーが内に籠もっている間に、二つのビッグファミリーにBIFが接触し先手を打たれ、結果的に3名のビッグネームが敵に回った」
レヴィアスファミリ消滅の真相を語るアンベルトは表面上は感情を殺していたが、その声は若干震えていた。
彼も自分の師匠が何故殺されたのかを語っているのだ、内心穏やかでは無いだろう。
しかし其れでもポーカーフェイスを貫き続ける。
「最後の決定打はファミリー内の裏切り。ルチアーノが最も信頼を置いていた最高幹部の一人、オーウェンが裏切った」
その名前を聞いた時、ディーノの心を包んだのは怒りでも殺意でもなく困惑。
何故なら彼の知るオーウェンはとても自分の主を裏切り、組織の崩壊を画策する姑息な人物には思えなかったからだ。
ディーノの記憶の中にいるオーウェンは常に紳士的な笑顔を浮かべ、自分が話掛けると優しく応じて、手が空いていれば遊んでもくれた。
心の中で将来はこの様な大人に成りたいと思っていた人物であった。
「なんでッオーウェンが親父を……」
「さあな、動機は全くもって不明だ。誰よりもルチアーノに心酔し、金にも女にも権力にも全く興味を示さない性格で、我々も全くのノーマークだった。しかし、お前の誕生日にルチアーノが例え孤立してでも会いに来る事や、事前に敵のビッグネーム達を引き入れていた事から明確な殺意と計画性が見て取れる。突発的に裏切った訳では決してないッ」
語っていたアンベルトの拳に力が籠もる。
その暗殺計画は綿密に練られていて、確実に数ヶ月の準備が必要となるのだ。
つまりルチアーノ暗殺事件が発生するまでの数ヶ月間、アンベルトと他愛もない会話をして笑っていた間も心の中で牙を研いでいたという事。
オーウェンが起こした凶行の真相に最も困惑しているのはアンベルト自身なのだ。
「ルチアーノはお前達を逃がすために一人屋敷に残り、三名のビッグネームとBIF長官の襲撃を単身で切り抜けた後に弟子の裏切りに遭ってその生涯を終えた。そして此処からはお前の話だ、ディーノ」
「俺の、話?」
「ああ、此れが悲劇の今分かっている真相だ。この真相を知ったお前はどうする? この事実を知った上でお前はどう生きる??」
「俺は……どう、生きる…………」
突然突きつけられた質問にディーノは呆然とオウム返しをした。
父の死の真相を聞きディーノ自身も何かしなくてはならないという事は分かっている。
だが何をすれば良いのか分からない、自分に何が出来るのかも分からなかった。
完全に硬直して、口から全く言葉を発しなく成ってしまったディーノを見たアンベルトは溜息を零す。
そして頭を抱えながら口を開いた。
「我々はオーウェンに従う事を良しとせず、ルチアーノの息子であるお前が次の主に足る存在で有ると信じてこの8年間探し続けてきた。もしもお前が我らを満足させられるだけの器であるならば、我らは忠誠とファミリーを奪い返すだけの力を与えよう」
「ファミリーを、奪い返す力……」
「そうだ、世界をひっくり返せる程の力を与えてやろう。ただし、お前にはその力を手にするに相応しい男である事を証明してもらう……お前は力を手に入れ何を成す? 何を求める? 我々が求めるのはルチアーノの模造品ではない、違いを見せろ。お前には何があるッ!!」
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