キング・オブ・アウト ~半分が裏社会に呑み込まれた世界で法則の力『則』と法則のを超えた力『則獣』を駆使してマフィアの頂点を目指す!!

NEOki

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第77話 ターゲットの正体

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 其れは悪夢だった、紛れもない現実である悪夢。

 地獄から逃れるために目を逸らし続けていた真実が流れ込み、自分は何者なのか、背負った罪は何なのか、何を犠牲にして今生きているのかをまざまざと見せられた。

 トムハットが殺される光景と、父の死が掲載されていた新聞の光景がグルグルと巡る。

 何度も今自分が見ているのが他人の記憶であり夢幻であれば良いと思ったが、その光景を見て痛む自らの心に嘘は付けなかった。

 自分が何者であったとしても、既に多くの人間が自分を守る為に命を落としている。

 その幾つもの命と引き換えに自分のちっぽけで弱々しい命が守られたのだ、怠惰で無意味にその命を擦り減らす事は許されない。



(俺は……何にこの命を捧げればッ)



 ディーノには自分が何を成し遂げれば、自分のために死んでいった者達の命と釣り合うのか皆目見当付かなかった。

 そもそも自分の愛した人々の命と同等の価値をもつ事柄が存在する事自体、彼は違和感を感じ付いたのだ。

 『~という偉業を成し遂げるためなんだから、死んでも仕方無い』などと言って良い訳が無い。



 そうしてディーノが身体から切り離された意識の中で自分が存在する意味を探していると、目が開けられない程の光が身体を包み込んだ。

 どうやら何か外界の刺激を受け取っている様で、目覚めの時が来てしまったようである。

 また悲しみと罪しかない現実に叩き返される事が嫌で仕方なかったが、そんなディーノの意志とは関係無く彼の意識は覚醒した。



(此処、は? 眩しくて、何も見えない……俺は今どこで何を……ッ)



 意識が身体に戻って来たディーノは、調子が出ずぼやけた視界と脳内で必死に今の状況を把握しようとする。

 何か大変な事があって意識を失った事は覚えているが、どれが現在に繋がる一番新しい記憶なのか定まらない。

 気絶している間に忘れていた記憶が大量に流れ込んできた事の弊害である。

 確実なのは背中に伝わる感触から、今自分がベッドの上に寝かされているという事だけだ。



 しかし数秒時間が流れると、頭の中の靄が晴れてきて視界もハッキリしだした。



(そうだ……俺はマルクを助けるためにッ訳も分からず何かを叫んで。其れから突然身体の力が抜けて気絶……ん?)



 ディーノが何とか気絶する寸前の記憶を思い出した瞬間、ようやく目の焦点が合って自分の視界が何かの物体に覆い尽くされちる事に気が付く。

 しかし、余りに近すぎてその物体が何なのか分からなかった。



(丸いな、其れに白と黒の部分がある……そしてその周辺にはッ毛、かな? 楕円形の物体の周りにビッシリと毛が生えている。この物体、何処かで見た気が……)



 暫くは寝呆けが残って上手く思考を回すことが出来なかったが、突然寝呆けが消えて脳味噌が今見えている光景が何なのか結論を下した。

 その結論とは『人間の目玉』である。



「ギャアアアアアアッ!!」



 知りたくなかった結論を得てしまったディーノは最初に凄まじい寒気を覚え、其れから絶叫と共に身体を跳ね起こした。

 しかし眼球の持ち主はかなり近い所でディーノの寝顔を見ていたのか、跳ね上がってきたディーノの額と衝突して何故かディーノの頭部が弾き返される。

 壁に頭突きをした様なジ~ンッという鈍い痛みが頭に響きクラクラした。



「何だよッ、何が起きてんだ!!」



 訳の分からない出来事が連続で発生し、ディーノはパニックになって目を瞑り蹲った。

 自分が今居る場所が何処だか不明、自分が気絶した後マルクや仲間達がどう成ったのかという不安、突如自分の目の前に現われた謎の眼球、跳ね起きた自分を押し返した謎の力……何もかもが理解不能である。

 唯でさえ自分の過去に向き合うので手一杯だというのに、此れでは脳が破裂てしまいそうだ。



 その時、ベッドに跳ね返されて現実逃避していたディーノの耳に聞き慣れない図太く気が抜けた声が飛び込んで来た。



「ちょっと皆~、ディーノが起きたよ! 目を覚ました瞬間飛び跳ねて蹲っちゃった~病気かも知れない!! どうした良い? ねえ、どうしたら良いか誰か教えて!!」



 その間延びした声を聞いたディーノは、敵意が含まれてない様に感じて勇気を振り絞り声がする方向を見た。

 すると其処にいたのは2メートルは優に超える身長を持ち、スキンヘッドで浅黒い肌をした誰の目にも強そうと感じる大男。やけに大きな目と長いまつげをしている。

 その大男が首をブンブンと振り回し、助けを求める様に叫び散らしている。



(何だコイツ……見た感じクソ怖そうだけど、あんまり悪意は感じないな)



 ディーノが数年間に及ぶストリートチルドレンとして過ごした日々の中で身につけた、悪意を感知するセンサーはその男に何の反応も示さなかった。

 どうやら目の前の男は自分に対して害意はない様だ。

 しかし首と腕をブンブン振り回しパニックに陥っている大男に話掛ける勇気は流石に出ず、どうしたものかと悩んでいた所に新たな声が響いた。

 今度は知っている声である。



「其処を退け、ゴンザレス。病み上がりに貴様の顔を見て気分が悪くなっただけだ、寝覚めにその顔は刺激が強すぎるからな。お前がこの部屋を出て行けばすぐ良くなる」



 その声は気絶する前ににディーノとマルクを徹底的に叩き潰した男、ターゲットの声であった。

 ディーノは声が鼓膜に触れた瞬間、一瞬で跳ね起きベッドの上で拳を構え臨戦態勢になる。

 そして彼は理解した、ターゲットのと戦いに敗れた自分は誘拐されて何処かに監禁されている状況であるという事を。



「拳を降ろせ、ディーノ。我々は同じレヴィアスの亡霊だ、死に損ない同士仲良く平和的に行こうではないか?」



 ベッドの上で必死に拳を構えるディーノを嘲笑う様に大男の脇から薄笑いを浮かべたターゲットの男が現る。

 そしてその目を見た瞬間、ディーノの奥深くに封印されていた記憶の中にいた人物の面影とピッタリ一致した。容姿はかなり違うが、声の調子や瞳の色が完全に一致しているのだ。

 気絶する前に会った時はその存在を忘れていたが、完全に記憶を取り戻した今ならばハッキリと確信を持って言える。

 昔よく屋敷に来て、一緒に遊んでくれた父の部下。



「あんた、アンベルトか??」



 ディーノのその質問に、ルチアーノ・バラキアの弟子でありレヴィアスファミリ最高幹部である『アンベルト・バラガー』は静かに頷いたのだった。
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