どうぞお好きに

音無砂月

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邸に帰ると耳をつんざくような叫びが響き渡った。
邸で働く使用人たちはその叫びを聞いて、耳を塞ぐ者、またかとため息をつく者、何も聞こえていないように振る舞う者がいた。
「相変わらず耳障りな声だ」
ダリウスは嫌そうに顔をしかめる。私はそんな彼を見てくすりと笑う。
この声の主はシャーベットのものだ。
「仕方がないでしょう。唯一の取柄であった容姿を失ってしまったんだから」
そう、彼女はただ一つの取柄である容姿を失った。
先日、襲われたときに顔に傷を負ったのだ。その傷は深く、きれいに治ることはないと医者は判断した。
皮膚がひきつったような傷跡を残した顔は鏡で見るとかなり歪だ。
「スカーレット、また出かけていたのか。お前の遊び歩きにはほとほと愛想が尽きる」
そう言ってエントランスに姿を現したセルフ殿下はよそ行きの恰好をしていた。
愛人にと望んだ人がこんな目に合っているのに(間接的に合わせたのは私だけど)出かけるとは。神経を疑う。所詮は見た目と金で繋がった関係か。
「お出かけですか。セルフ殿下」
「見て分かるだろう。いちいち聞くな。お前に俺の行動を干渉させる権利はない」
ありますよ。だって、ここは私の邸。あなたはただの居候なのだから。
「シャーベット様はよろしいのですか?」
「あのような叫びを毎日聞かされては耳がおかしくなる。当分、戻らない」
「そうですか。近々、陛下があなたに用があるので登城を命じるそうです」
「父上が?」
「はい。期日までは伺っていませんのでいつでも連絡が取れるようにしてください」
「分かった」
さすがに陛下の命令だけは無視できないのか、それとも久し振りに我が家に帰りたくなったのか彼は素直に返事をして邸を出て行った。
邸の中では未だに一人、取り残されたシャーベットの嘆きが響いていた。
「哀れだな」
さすがのダリウスも同情したようでぽつりとその言葉をこぼした。
こうなっても仕方がないようなことをしてきた相手とは言え、一番つらい時に、たとえ金目当てで近づいたとはいえ生涯を誓い合った人に捨てられるのは確かに同じ女としては多少、同情を感じる。
だからって手を差し伸べてやる気は毛頭ないが。
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