悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月

文字の大きさ
26 / 31

26.側近side②

しおりを挟む
★ジョセフ・マダータ
 「兎に角、騎士を集めなければ」
 騎士団長である俺は急ぎ足で近衛兵団へ向かっていた。
 実力で俺は騎士団長にはなれたが、生まれてこの方一度も戦争を味わったことがない。俺の普段の仕事は国の治安維持と陛下の護衛だが、この度オレストの愚行により戦争が勃発した。
 俺は戦場へ向かう恐怖と、自分の実力を披露できる場を設けられた喜びに打ちひしがれていた。
 「おい、みんな」
 兵団に行き、扉を開けたが中には誰も居なかった。
 「おい、どこへ行ったんだ?」
 普段はむさくるしい男どもで溢れている兵団。だが、今は蟻の子一匹すらいない状態だ。
 「くそ。この一大事にどこで油を売っているんだ」
 苛立つ心を抑えきれず、近くにあった木の椅子を蹴っ飛ばした。
 「まさか、本当に来るとはな」
 背後から聞こえた声に俺は慌てて振り返った。振り返った先には副団長が居た。
 副団長は神経質そうな顔でなぜか驚いていた。
 だが、オレストが三日後に攻め込んで来る一大事に俺はそんな副団長の表情に気づかずかなかった。
 「ちょうどいい所に来た。副団長。直ぐに騎士を集めてくれ」
 「それは無理です」
 俺の命令を副団長は一刀両断した。
 「無理って、何を言って」
 「何を。ではなく、無理だと言ったんです」
 「どうして無理なのだ!」
 苛立つ俺を見て、副団長は嘆息した。俺を睨みつけるように見るその目には上司を敬う感情が一切含まれていなかった。
 「王妃様のことで忠言を言った騎士の多くが陛下とあなたによって処断されました。無論、シャルロッテのことを忠言した騎士も」
 「そ、それは致し方のないことだ。陛下の意に逆らうから」
 「・・・・・そうですか。まぁ、そんなわけでクレバー陛下着任後、騎士の数は激減。一割も残ってはいなかったのですよ。これじゃあ、相手がどんな弱小国でも勝ち目なんてありませんね。にも拘わらず相手が大国のオレストなのだから。まぁ、オレストもそこまで武力の高い国ではありませんが。それでも大国。数だけはいますよ。
 ここに辛うじて残っていた一割の騎士はすでに離職を申し出て、ここにいなかったあなたの代わりに私が許可しました」
 「はぁ!?何を考えている!そんな権限お前にはないだろう」
 「あなたにも、もう既にありませんよ」
 侮蔑を込めながら俺を見下す副団長に俺は怒りを抑えきれずにいた。だが、副団長はそんな俺よりも更に大きな怒りを持っていた。
 「あなたは実力で騎士団長になれたと思っていたようですが、それは違いますよ。あなたはクレバー陛下の幼馴染。だから、なれたんですよ」
 「な、なんだと」
 それは騎士としてこの上ない侮辱だった。幾ら実力で俺に劣り、副団長の地位に納まるしかなかったとは言え、そんな侮辱をされる謂れはなかった。
 「もう一度言ってみろ」
 獣が低く唸るような声を出して言うが、副団長は恐れるどころか、何処吹く風で言った。
 「あなたの実力では騎士団長など遠く及ばない」
 「ふざけ、がはっ」
 最後まで言葉を発することはできなかった。
 柄に手をかけた瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を抜いた副団長が俺の手を斬り落としたからだ。
 焼けるような痛みに俺は言葉を発することができなかった。そんな俺を嘲笑うように副団長は剣を振り上げ、今度は俺の残っている手に向かって振り落とした。
 「あ、ああああ、あああ」
 最早、言葉を発することはできない。
 冷たい床に横たわり、開いた口からは唾液と言葉にならない悲鳴が漏れる。
 「ああ、これで剣を持つことが叶わなくなりましたね。でも、それでいいでしょう。騎士道のなんたるかも分からない愚か者に剣は必要ありませんので」
 視線だけを上に向けると、今まで見たことのない副団長の冷徹な目が二つ。俺を見下ろしていた。
 「直にオレストの騎士があなたを捕らえにやってくれでしょうね。それまでここで頭を冷やしているといいですよ。私は自室に居ます。こうなったのは、あなた方を止めきれなかった私たちの責任でもあるので。あなたも私と共に国と滅びましょう」
 にやりと笑って副団長は俺に背を向けた。
 「地獄で会いましょう。騎士団長殿」
 そう言って彼は出て行った。遠ざかる足音は確かに出口とは反対側の、副団長の部屋がある方へ向かっていた。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

駆け落ちした愚兄の来訪~厚顔無恥のクズを叩き潰します~

haru.
恋愛
五年前、結婚式当日に侍女と駆け落ちしたお兄様のせいで我が家は醜聞付きの貧乏伯爵家へと落ちぶれた。 他家へ嫁入り予定だった妹のジュリエッタは突然、跡継ぎに任命され婿候補とのお見合いや厳しい領主教育を受ける日々を送る事になった。 そしてお父様の死という悲しい出来事を乗り越えて、ジュリエッタは伯爵家を立て直した。 全ては此処からという時に、とうの昔に縁を切った筈の愚兄が何事もなかったかのように突然帰って来た。それも三歳になる甥を引き連れて…… 本編23話 + 番外編2話完結済み。 毎日1話ずつ更新します。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...