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1章 ハーレムキングの目覚め 編
ハーレムキングは世界を知る
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森の中は静かだった。陽の光は木々の葉に遮られ、足元には薄暗い影が広がっている。
オレとサラは並んで歩きながら、慎重に周囲を窺っていた。と言っても、サラだけが慎重で、オレは割と気楽だったが。
「……今のうちに言っておきますけど、戦闘になったらわたしがサポートしますから。前に出たり、変に目立ったりしないでくださいね。そもそもあなたは勝手についてきてる立場なんですから、おかしな真似は禁止です!」
隣に立つサラが横目で睨んできた。
「ふむ……それはつまり、戦闘中も君を守れということだな。任せてくれ、全力で君を守ろう。君はサポートに徹する必要すらない。全てはオレが請け負うからな」
「そういう意味じゃないです! あと、守るって言いながら前に出ないでくださいね。後ろから茶々を入れるのも禁止です。絶対に! あなたは神聖魔法を使えないでしょうし、悪霊退治はできないんですから!」
……つまり、何もするなってことか。
オレは器用に笑って誤魔化した。
「ところで、この世界の魔法って、どんな仕組みなんだ?」
話題を変えるように聞いてみると、サラは少し考えてから歩きながら答えてくれた。
「……魔法は大きく分けて四種類。“精霊魔法”、“神聖魔法”、“元素魔法”、“構築魔法”です」
「禁呪って響きが良いな。オレにぴったりだ。ハーレムに禁忌はつきものだし」
「真面目に聞いてください!」
再び軽く怒られる。
「神聖魔法は、神の加護を受けた者しか使えません。私が使うのはこれ。主に回復や浄化、防御が得意です」
「なるほど、つまりは癒しのヒロイン枠というわけか。銀髪の神官系ヒロインとは素晴らしいものだな」
「次喋ったら杖で殴ります。たんこぶ百個は確実です」
「……了解だ」
これ以上口を開けば関係の修復が難しくなる気がした。情けないことに、ハーレムキングたるオレであっても、容易に全ての女性を堕とせるわけではないのだ。結局は自力が大切ということか。
「続けますね。精霊魔法は自然と契約した精霊を通じて行使するもので、自然を生きるエルフしか使えません。元素魔法は……火、水、風、土といった基礎属性を直接操る攻撃魔法ですね。こっちは冒険者や騎士が使うことが多いです」
「オレが使えるのは、なんだ?」
「知りませんよ。……っていうか、魔法使えるんですか? 確かに元素魔法なら誰でも覚えられますけど」
「試したことがないな。そもそも魔法という存在自体を今初めて知った!」
「なんなんですかあなた……!」
サラのツッコミが板についてきた頃。
森の奥から小さな気配が近づいてくるのがわかった。
「……来た」
サラが足を止めた。
人間の気配ではないのはオレにもわかった。
「この気配、さっき村で言っていた悪霊か?」
「いえ、違います。これは……モンスター」
次の瞬間、茂みがガサリと揺れ——
「ギャアッァ!」
飛び出してきたのは、犬と猫の中間みたいな四足歩行の動物だった。
ちなみに今の声はサラの悲鳴だ。決してモンスターの鳴き声ではない。
「サラ、いい驚きっぷりだ!」
「気配はわかっていても急に現れたらびっくりするんです!」
「で、こいつは?」
「下級の群生モンスターで、この森に唯一現れるモンスターですね」
どうやら小型の獣型モンスターらしい。
体高は膝ほど、毛は灰色で、目は真っ赤。牙を剥き出しにしてこちらに突進してくる。
犬や猫のように可愛くはない。正真正銘のモンスターと呼ぶに相応しい外見だ。
「強いのか?」
「いえ……ただ、それなりの腕がなければモンスターの相手は難しいです。え、どうして前に出てるんですか? 何するつもりですか? ちょ、ちょっと!?」
「任せろ」
オレは即座に踏み込んだ。
「ちょ、ちょっと待っ——」
止める間もなく、オレは腕を振り抜いた。渾身の裏拳がモンスターの顔面に直撃する。
べしゃっ。
まるで水風船でも叩いたような音を立てて、ヤツが地面に転がった。動かない。こんなものか。
めきめきと湧き上がる自信に従い行動してみたが、まさかハーレムキングがこうも強いとは思わなかった。
誰にも負ける気がしない。
「ふむ……チュートリアルとしては充分か」
オレは手についた生々しい感触を確かめた。
「……」
サラが引きつった顔で、オレと肉塊を交互に見ている。
「な、なに今の……物理攻撃だけで、しかも素手で? 魔法も使ってないのに……?」
「まあ、軽く手加減はしたが」
「今のが、手加減……?」
サラの顔にじわじわと、不安と困惑が浮かんでいく。
「ちょっと待ってください……あなた本当に何者なんですか? まさか、本当に……どこかの王族とか?」
「いや、この国の王ではない。そもそもこの国についてはまるで知らない。王を自称し始めたのはつい数時間前からだ。その時は全裸の王、今は服を着た王だ。オレという王の姿を覚えておくがいい! 人呼んで、ハーレムキングだ!」
「それがわたしの記憶に残るのがすごく嫌です!!!」
森の中にサラの絶叫が響いた。
だがその背後で、空気がひとつ——ピリ、と揺れた。立て続けだな、
「……これは」
オレは振り返る。
森の奥、異様な気配。肌がざわつく、冷たい“視線”。
先ほどとはまるで違う空気感だ。
「悪霊……」
サラが小さく呟いた。
どうやらチュートリアルはまだ続くらしい。
本命のお出ましというわけだ。
オレとサラは並んで歩きながら、慎重に周囲を窺っていた。と言っても、サラだけが慎重で、オレは割と気楽だったが。
「……今のうちに言っておきますけど、戦闘になったらわたしがサポートしますから。前に出たり、変に目立ったりしないでくださいね。そもそもあなたは勝手についてきてる立場なんですから、おかしな真似は禁止です!」
隣に立つサラが横目で睨んできた。
「ふむ……それはつまり、戦闘中も君を守れということだな。任せてくれ、全力で君を守ろう。君はサポートに徹する必要すらない。全てはオレが請け負うからな」
「そういう意味じゃないです! あと、守るって言いながら前に出ないでくださいね。後ろから茶々を入れるのも禁止です。絶対に! あなたは神聖魔法を使えないでしょうし、悪霊退治はできないんですから!」
……つまり、何もするなってことか。
オレは器用に笑って誤魔化した。
「ところで、この世界の魔法って、どんな仕組みなんだ?」
話題を変えるように聞いてみると、サラは少し考えてから歩きながら答えてくれた。
「……魔法は大きく分けて四種類。“精霊魔法”、“神聖魔法”、“元素魔法”、“構築魔法”です」
「禁呪って響きが良いな。オレにぴったりだ。ハーレムに禁忌はつきものだし」
「真面目に聞いてください!」
再び軽く怒られる。
「神聖魔法は、神の加護を受けた者しか使えません。私が使うのはこれ。主に回復や浄化、防御が得意です」
「なるほど、つまりは癒しのヒロイン枠というわけか。銀髪の神官系ヒロインとは素晴らしいものだな」
「次喋ったら杖で殴ります。たんこぶ百個は確実です」
「……了解だ」
これ以上口を開けば関係の修復が難しくなる気がした。情けないことに、ハーレムキングたるオレであっても、容易に全ての女性を堕とせるわけではないのだ。結局は自力が大切ということか。
「続けますね。精霊魔法は自然と契約した精霊を通じて行使するもので、自然を生きるエルフしか使えません。元素魔法は……火、水、風、土といった基礎属性を直接操る攻撃魔法ですね。こっちは冒険者や騎士が使うことが多いです」
「オレが使えるのは、なんだ?」
「知りませんよ。……っていうか、魔法使えるんですか? 確かに元素魔法なら誰でも覚えられますけど」
「試したことがないな。そもそも魔法という存在自体を今初めて知った!」
「なんなんですかあなた……!」
サラのツッコミが板についてきた頃。
森の奥から小さな気配が近づいてくるのがわかった。
「……来た」
サラが足を止めた。
人間の気配ではないのはオレにもわかった。
「この気配、さっき村で言っていた悪霊か?」
「いえ、違います。これは……モンスター」
次の瞬間、茂みがガサリと揺れ——
「ギャアッァ!」
飛び出してきたのは、犬と猫の中間みたいな四足歩行の動物だった。
ちなみに今の声はサラの悲鳴だ。決してモンスターの鳴き声ではない。
「サラ、いい驚きっぷりだ!」
「気配はわかっていても急に現れたらびっくりするんです!」
「で、こいつは?」
「下級の群生モンスターで、この森に唯一現れるモンスターですね」
どうやら小型の獣型モンスターらしい。
体高は膝ほど、毛は灰色で、目は真っ赤。牙を剥き出しにしてこちらに突進してくる。
犬や猫のように可愛くはない。正真正銘のモンスターと呼ぶに相応しい外見だ。
「強いのか?」
「いえ……ただ、それなりの腕がなければモンスターの相手は難しいです。え、どうして前に出てるんですか? 何するつもりですか? ちょ、ちょっと!?」
「任せろ」
オレは即座に踏み込んだ。
「ちょ、ちょっと待っ——」
止める間もなく、オレは腕を振り抜いた。渾身の裏拳がモンスターの顔面に直撃する。
べしゃっ。
まるで水風船でも叩いたような音を立てて、ヤツが地面に転がった。動かない。こんなものか。
めきめきと湧き上がる自信に従い行動してみたが、まさかハーレムキングがこうも強いとは思わなかった。
誰にも負ける気がしない。
「ふむ……チュートリアルとしては充分か」
オレは手についた生々しい感触を確かめた。
「……」
サラが引きつった顔で、オレと肉塊を交互に見ている。
「な、なに今の……物理攻撃だけで、しかも素手で? 魔法も使ってないのに……?」
「まあ、軽く手加減はしたが」
「今のが、手加減……?」
サラの顔にじわじわと、不安と困惑が浮かんでいく。
「ちょっと待ってください……あなた本当に何者なんですか? まさか、本当に……どこかの王族とか?」
「いや、この国の王ではない。そもそもこの国についてはまるで知らない。王を自称し始めたのはつい数時間前からだ。その時は全裸の王、今は服を着た王だ。オレという王の姿を覚えておくがいい! 人呼んで、ハーレムキングだ!」
「それがわたしの記憶に残るのがすごく嫌です!!!」
森の中にサラの絶叫が響いた。
だがその背後で、空気がひとつ——ピリ、と揺れた。立て続けだな、
「……これは」
オレは振り返る。
森の奥、異様な気配。肌がざわつく、冷たい“視線”。
先ほどとはまるで違う空気感だ。
「悪霊……」
サラが小さく呟いた。
どうやらチュートリアルはまだ続くらしい。
本命のお出ましというわけだ。
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